第10回世界女子ソフトボール選手権大会
開催地:カナダ・サスカチュワン州・サスカツーン市
大会期日:2002年7月26日〜8月4日

ISF Women's World Softball Championshipオフィシャルホームページ


■決勝トーナメント
tornamennt





予選リーグ 日本代表戦組合せ表


期日 時刻 対戦カード グループ 結果
7月26日(金) 17:45 開会式
21:00 日本 VS ニュージーランド B
7月27日(土) 13:30 日本 VS ベネズエラ B
7月28日(日) 17:30 日本 VS ドミニカ B
7月29日(月) 15:30 日本 VS オランダ B
7月30日(火) 15:00 日本 VS 南アフリカ B
7月31日(水) 18:30 オーストラリア VS 日本 B
8月1日(日) 13:30 日本 VS プエルトリコ B









世界選手権 第1日(2002/07/26)

いよいよ開幕!! でもいきなりの雨天中止!!



 いよいよ世界選手権、開幕の日を迎えた。
 宇津木監督は、「やるだけのことはやってきた。やり残したことはない。あとは結果を出すだけ」と闘志を胸に秘め、静かな口調で語った。
 この日の第1試合から、尾崎専務理事、本部長、宇津木監督、浦野・小林両コーチ、吉野マネージャーらスタッフ総出で出場各国の情報収集と戦力分析。有力どころは事前に情報の収集もその分析も済ませているとはいえ、この世界選手権本番でいかに戦うか、調整状態はどうかなどは、やはり気になるところである。各国の戦いぶりに目を光らせ、鋭い視線を走らせる日本のスタッフの姿に、すでに戦いははじまっていることを思い知らされた。
 オーストラリア、中国、アメリカといった優勝を争う強豪たちが順当に勝ち星を挙げていく中、日本には思いも寄らぬ“強敵”が立ちはだかった。
 2つの試合会場で6試合を消化し、参加16カ国が一堂に会して盛大なオープニングセレモニーが行われたが、その終了を待っていたかのように、激しい雨が雷を伴って降りはじめた。
 オープニングセレモニーの直後には、地元・カナダの試合が組まれていたこともあり、超満員の観客がスタンドを埋めつくしていたが、その願いもむなしく試合は中止。この日の最終試合(21時試合開始予定)に登場するはずだった日本も、さすがに天候には勝つことができず、仕切直しを余儀なくされた。
 この日本対ニュージーランドの試合は、現地時間の29日(月)、午前11時に組み込まれることが決定。明日、13時30分からのベネズエラ戦が日本の実質的な初戦となる。

恵みの雨にしなければ……

 初戦のニュージーランド戦の雨天順延が決定すると、宇津木監督は微かに表情を緩めた。「ニュージーランドは前回の男子の世界選手権で優勝投手となったマーティ・グラントががピッチングコーチとしてスタッフに加わり、バッティングピッチャーを務めたりしているせいか打撃面が急成長している。その割には投手力が良くなっていないのは皮肉なんだけど(笑)。初戦でいきなりぶつかるより、たとえ1試合でも打線の調子がホンモノかどうか確認しておきたかったから……。そういう意味では恵みの雨になるかも」とポツリと呟いた。
 百戦錬磨の宇津木監督でも初戦は独特の緊張感があるようで、「仕切直しは決して歓迎できることではないけど、いい方に考えて“恵みの雨”にしなきゃね」と、明日へと気持ちを切り替えていた。

明日の相手はベネズエラ

 明日、日本と対戦するベネズエラは'98年の前回大会でも予選リーグで対戦しており、そのときは日本が宇津木麗華選手のホームランを含む13安打を浴びせて7−0で圧勝している。結局、予選リーグは3勝4敗。総失点の差で辛くも初の決勝トーナメント
進出を果たしたが、初戦でイタリアに0−1で敗れた。
 ベネズエラは世界選手権出場は4回目だが、前回大会の7位が最高順位で目立った成績は挙げていない。
 今回は初戦のオランダ戦を5−3と勝ち、幸先の良いスタートを切っている。オランダ戦では9安打を放った打線が好調。伝統的に打線は強力だが投手力が弱く、得点は挙げるものの守り切れず、敗れるというパターンが多い。
日本にとってはさほど脅威となる相手ではないが、打ち合いになると本領を発揮するチームだけに、まずは投手陣が相手の得点力を封じ、先取点を挙げて日本ペースの試合に持ち込みたいところだ。















世界選手権 第2日(2002/07/27)


日本7-0ベネズエラ
ミスはあったが予選リーグ白星スタート!!


 昨夜の“水入り”で仕切直しとなった日本の初戦の相手はベネズエラ。昨日はオランダを相手に5−3と打ち勝っており、勢いに乗っている。日本としてはまずはその打線を沈黙させ、先手を取って自分たちのリズムで試合を進めたいところだ。
 13時30分、坂井の先発で試合がはじまった。 〈予選リーグ第1戦 7月27日〉

  1 2 3 4 5 6
 ベネズエラ 0 0 0 0 0 0 0
 日本 0 4 0 0 1 2x 7
   ※大会規定により6回コールド

(ベ)●Espinoza・Ramirez−Cirimele
(日)○坂井−山路
〔本塁打〕
〔三塁打〕
〔二塁打〕伊藤(幸)、伊藤(良)

 先発・坂井は立ち上がり、初戦の緊張感からか本来の球威、キレにはほど遠い状態。その表情にも緊張がありありと感じられ、「どうなることか」といった雰囲気だったが、三者三振と最高のスタート。これで何とか落ち着きを取り戻した。
 日本は2回、この回先頭の五番・伊藤(幸)が右中間を破ったが、三塁を欲張りタッチアウト。嫌な雰囲気になりかけたが、六番・山路が四球で出塁。七番・斎藤は三振に倒れ、二死となったが、八番・安藤の四球、九番・岩渕のバント安打で二死満塁のチャンスをつかんだ。ここで一番・新井が押し出しの四球。二番・内藤、三番・伊藤(良)の連打でこの回一挙4点を先制した。
 日本は5回、相手守備の乱れに乗じて1点を加えると、6回には三番・伊藤(良)の二塁打、四番・宇津木の左犠飛で2点を追加。大会規定により、7−0でコールド勝ちを収めた。
 試合後、宇津木監督は、「やはり初戦ということで緊張したようです。特に坂井は初めての大舞台なので(笑)。正直言ってミスもありましたが、今回は予選リーグにピークを持っていくのではなく、決勝トーナメントに照準を絞っていますから、むしろミスが出るぐらいでいいとも思っています。そういう意味では予選リーグのうちにミスを出し切ってしまった方がいいと思うし(笑)。そのミスをキッチリ修正しながらベストの状態で決勝トーナメントを迎えられるよう調整していきたいと考えています」と語った。
 確かに、内容的には誉められた試合ではなかった。しかし、いわば“流した”状態でも余力を残したまま勝ってしまう強さが今の日本にはある。
 世界選手権初登板が開幕戦となった坂井は、「最初からベネズエラ戦の先発を言われていたので、初戦だとか開幕戦だとかいう意識はなかったのですが……。いざマウンドに上がると自分が緊張しているのが分かりました(笑)。内容的には評価できるものはまったくありませんでしたが、世界選手権の舞台に立ち、投げられたとういことが何よりの収穫であり、今後につながる経験になると思います。特に、4年前の世界選手権で最後の最後でメンバーから外れた悔しさを思えば、ようやくここに辿り着けたという感慨はあります」と、開幕投手の重責を果たし、安堵の表情で語った。
 キャプテンの宇津木麗華は、「私の長年の夢は“打倒アメリカ”です。その夢の実現が近づいていると感じています。もちろん、アメリカはチャンピオンにふさわしい力を持った強いチームですが、私たちもアメリカを倒すために努力を重ねてきました。今がそのときなのです」と、この大会での目標が打倒アメリカを果たしての世界一以外にはないことを改めて宣言した。

幻の開幕投手

 実質的な開幕戦となったこの日のベネズエラ戦。世界選手権初登板の坂井が3安打完封で開幕戦を飾ったが、前日のニュージーランド戦が予定通り行われていれば、開幕投手・坂井はなかった!?
 雨で流れたニュージーランド戦の先発予定は高山。'96年のアトランタ、'00年のシドニーと二度のオリンピックで開幕投手を務め、勝利投手となっている高山の豊富な経験と勝負度胸を宇津木監督は誰よりも高く評価している。
「高山はそういう星のもとに生まれている」と宇津木監督はことあるごとに口にしているが、上野、坂井ら新しい力が台頭し、急成長しているとはいえ、 “日本のエース”は誰なのか、幻の開幕投手となったこの事実が何よりも如実にそれを示している。

頼れる相棒!!

 宇津木監督の“右腕”としてチームを支える浦野光史コーチ。チームに加わったのは一番最後だが、今では欠かせぬ存在となっている。
 現役時代には投手としてナショナルチームの一員に名を連ね、世界選手権出場など輝かしい実績を残しているが、現在はそのキャリアを生かしてバッティングピッチャーとして選手の調整相手を務めている。年齢は50に迫ろうかというのに、100?/h以上の球威を保ち、キレ味鋭い変化球を駆使する姿は現役時代を彷彿とさせる。
 プロ野球で一時代を築いた村田兆治氏はいまだに140?/hの速球を投げるというが、浦野コーチも負けてはいない。「ソフトボール界の村田」と呼ばれる日は遠くない!?

明日はダブルヘッダー

 26日に雨天中止となったニュージーランド戦は28日の第1試合に組み込まれることになり、これで明日は17:30開始のドミニカ戦も含めてダブルヘッダーとなる。1日に2勝となれば、勢いも2倍になりそうだ。












世界選手権 第3日 PART1(2002/07/28)

日本2-1ニュージーランド
苦しみながら価値ある逆転勝利!!!


 この日は大会初日に予定されていたニュージーランド戦が雨で流れたため、ダブルヘッダーとなり、まず午前11時からニュージーランドと対戦した。
 日本の先発は高山。オリンピック通算8勝のオリンピックレコードを持ち、最も経験豊富なピッチャーを先発に立て、必勝を期した。
 また、スタメンから斎藤、安藤を外し、DPに新井、ショートに三科、レフトに田中を起用。あえて若手主体の布陣に切り替え、この試合に臨んだ。

〈予選リーグ第2戦 7月28日〉

  1 2 3 4 5 6 7
 日      本 0 0 0 1 0 0 1 2
 ニュージーランド 0 1 0 0 0 0 0 1
  
(日)高山・○上野−山路
(N)●Arnold−Lote
〔本塁打〕
〔三塁打〕Lote(N)
〔二塁打〕Pouaka,Lote(N)

ニュージーランドに先制を許した
3回のピンチで高山を上野に交代
見事なピッチングを見せた上野由岐子
エース高山の先発で必勝を期した日本

 日本は初回、一死一・二塁の先制機を逃し、逆に2回、ニュージーランドに先制を許した。この回の先頭打者を四球で歩かせ、イリーガルピッチで一死二塁。二死後、レフト線にポトリと落ちる不運な二塁打で1点を失った。
 先発・高山は初回、2回と先頭打者を四球で歩かす不安定な立ち上がり。3回には2本の長短打で一死二・三塁とされたところで上野にスイッチ。代わった上野が後続を断ち、ピンチを脱した。
 1点を追う日本は4回、一死から六番・山路が右前安打。すかさず代走に安藤を送り、七番・田中のセカンドゴロが失策を誘い、一・二塁。続く八番・三科がバントの構えで相手守備陣をおびき寄せ、バスターで一塁を強襲。一死満塁とチャンスを広げた。ここで代打・斎藤がキッチリと中犠飛を打ち上げ、同点に追いついた。
 1−1の同点のまま、迎えた7回、日本はこの回先頭の八番・三科が左前安打。左翼手が打球の処理にもたつく間に、一気に二塁を陥れ、勝ち越しのチャンスを作ると、次打者・岩渕の初球に果敢な三盗。岩渕の三遊間安打で決勝のホームを踏んだ。
 その裏、ニュージーランドも必死の反撃。二死一・二塁と一打逆転のチャンスを作って抵抗したが、上野が最後の力を振り絞って後続を断ち、苦しみながらも勝利をモノにした。
 試合後、宇津木監督は、
「ニュージーランドには苦戦するような予感がした。初戦で当たるのは何となく嫌な予感がしていたので、そういう意味では恵みの雨だったと思うし、ツキというか運も味方してくれている気がする。ただ、こういう苦しい試合を経験することは今後に向けて決してムダではない。簡単には勝たせてくれないってことが分かって、選手たちも気合いを入れ直してくれるでしょう」
 と試合を振り返り、
「ただ、負けるという気はしなかった。苦戦はするだろうけど必ず勝てると思っていた」
 と、落ち着いた表情で語った。
 先発・高山の交代時期については、
「ニュージーランド戦ははじめから高山、上野の継投で行くと伝えていた。高山自身はまだ投げたかったみたいだけど……3回まで毎回先頭打者を出していたし、試合のリズムも良くなかったから、スパッと上野に代えました。世界選手権初登板で、しかもあのピンチ(一死二・三塁)を凌いでくれるのだから大したもの」
 と継投の理由を明かし、若い上野の頑張りに表情をほころばせた。

決勝打を放った岩渕有美
試合後会見に臨む岩渕選手
若い上野が堂々たる世界選手権初登板!!

 絶体絶命のピンチが世界選手権初登板となった上野は、「自分では平常心でいるつもりでしたが、やはり普段とは違う大会の雰囲気を感じ、緊張していつものリズムでは投げられませんでした」と心境を語ったが、笑顔すら浮かべてマウンドに上がるその姿はとても緊張しているようには見えなかった。投球練習で一球を投じただけで、そのスピードに満員の観衆が大歓声を挙げ、新たなスターの誕生を感じさせる堂々たるデビューだった。
 予選リーグのキーポイントとなるこのニュージーランド戦で、日本はあえて若手主体の布陣を組んだ。立ち上がりは若い三科の守備は安定感に欠け、2回の失点の場面も初スタメンのショートの三科とレフトの田中が一瞬、譲り合うような形となり、レフト線に打球が落ちた。試合はバタつき、どこか落ち着かないまま、試合は進んでいった。
 しかし、リリーフした上野が試合のリズムを作り出し、試合前の練習から他の選手が気持ちよさそうにホームラン性の当たりを飛ばす光景に目もくれず、泥臭くガムシャラに叩きつけてゴロを転がす練習ばかりしていた三科が同点、逆転のチャンスをお膳立てした。決勝打を放った岩渕の当たりも決して鮮やかなものではなかった。「次につなごう」この一心だけで放った打球に執念が宿った。
 若い選手たちにはミスを犯しかねないリスクがついて回る。しかし、今日のようなゲームを経験し、勝ち切ることが何よりの自信を生む。たった一打席でキッチリ仕事を果たしたベテラン・斎藤の働きはもちろん貴重なものであり、“いぶし銀”の魅力がある。その一方で、ベテランに頼らず、自らの力で逆転劇を演じた若手の台頭に心躍るのもまた事実である。この世界選手権で何かが起ころうとしている。劇的な世代交代の瞬間に立ち会うことになる。そんな予感がしてならない。








世界選手権 第3日 PART2(2002/07/28)

気合いを入れ直して大勝!!

〈予選リーグ第3戦 7月28日〉

  1 2 3 4 5
 ドミニカ 0 0 0 0 0 0
 日  本 2 2 5 1 X 10
  
(ド)●Nunez,Diaz−Mateo
(日)○増淵・前田−山路・鈴木
〔本塁打〕
〔三塁打〕伊藤(良)、伊藤(幸)
〔二塁打〕新井、伊藤(良)

日本3勝0敗

こんな横断幕も登場!!
先発は増淵まり子投手
NZ戦から一転、初回から日本が猛攻!!

 ダブルヘッダーとなったこの日、2試合目はドミニカと対戦。増淵の先発で17時30分、試合がはじまった。
 増淵は立ち上がり、先頭打者にいきなり安打を打たれたが、その後は落ち着いて後続を断ち、本来のリズムを取り戻した。
 一方、この日の第1試合でニュージーランドを相手に苦戦を強いられたこともあり、日本打線は初回から格下のドミニカ相手に容赦なく攻めた。
 この試合、トップバッターに起用された内藤が四球で出塁。二番・三科が手堅く送った後、三番・伊藤(良)が右中間を深々と破る三塁打。さらにワイルドピッチで1点を加え、幸先良く2点を先取。続く2回には相手守備の乱れに乗じて2点を追加。3回には4本の長短打を集中する打者一巡の猛攻。大量5点を加え、4回にも1点を追加し、5回コールド勝ちを収めた。
 ニュージーランド戦の内容にピリッとしたところがなかっただけに、選手も気合いを入れ直し、安打数や得点差以上に内容の濃い試合を展開した。
 1試合の苦戦なら、油断や気の緩みといった言い訳も通用するが、それが2試合続くようなら、対戦相手からも「日本はたいして強くない」というイメージをもたれてしまう。その意味でこの試合の持つ意味は大きかったが、1試合目の課題をキッチリ修正してくるあたりは、“さすが優勝候補”といったところか。

先制の三塁打を放った伊藤良恵選手
日本戦のスタンドは超満員となった
日本ファンも急増中!?
勝負師・宇津木監督の「運を引き寄せる采配」

 宇津木監督は、この試合でも抜け目なく、サード・内藤、セカンド・安藤、ショート・三科の布陣も試した。ニュージーランド戦で三科が持ち味を発揮し、そのプレイに勢いが感じられるだけに、それを生かせる布陣も探っていたようだ。
 こういった大会を勝ち抜くには、いわゆる“ラッキガール”が出てこないと優勝まで辿り着くのは難しい。優勝するチームには必ずツキや運といったものを味方にできる選手の存在が不可欠になる。もちろん、運だけでは勝てない。しかし、勝つには運も必要である。最後に勝敗を分けるのはそういった要素だったりもするのである。そのぐらい世界のトップレベルでの戦いになれば明らかな力の差など存在しない。まさに紙一重のところでのせめぎ合い、ギリギリのところで勝負しているのである。
 ここ一番の勝負どころを知り尽くしたベテランの力にプラスアルファがほしいのである。“世界一”というある意味では常軌を逸した目標を掲げる以上、普段通りでは勝てない。勝つための何かを見いだしたものだけが勝利者になれる。
 宇津木監督は、何度も「普段通り、練習通りの力を出せれば勝てる」と言い続けてきた。しかし、その裏側では、“天性の勝負師”が勝利を決定づける最後の一手を探し続けている。

日曜日のスタンドは超満員にふくれ上がった!!

 今日、28日は日曜日ということもあって、スタジアムにはたくさんのソフトボールファンが駆けつけ、熱い声援を送った。
 大会初日の試合が雨のために流れ、急遽組み込まれた日本対ニュージーランドの試合はほぼ満員。息詰まる熱戦を繰り広げた両チームに惜しみない拍手が送られていた。
 また、15時30分からメインスタジアムで行われたカナダ対アメリカ戦はまさに超満員。地元・カナダに大声援が送られたが、力の差はいかんともしがたく、0−4で敗れた。










世界選手権 第4日(2002/07/29)

日本2−0オランダ
余裕の4連勝!! でも、もっと闘争心を見せてほしい


 大会も4日目を迎え、有力チームの動向も気になりはじめるところだが、“世界の4強”と呼ばれるアメリカ、オーストラリア、中国、日本は順当に3連勝。各セクションの首位を走っている。
 世界選手権5連覇という前人未踏の大記録に挑むアメリカは初戦のイタリア戦こそ2−0と苦戦したが、チェコを13−0、カナダを4−0と一蹴。相変わらずの強さを見せている。
 同じセクションAの中国は、初戦のロシア戦を7−0、続くイタリア戦を3−0、チェコ戦では21−1という記録的な大差で圧勝し、3戦全勝でアメリカに並んでいる。
 一方、日本のいるセクションBでは、日本とオーストラリアが3連勝。日本の当面のライバルとなるオーストラリアは、初戦のドミニカ戦で10−0と大勝すると、続くプエルトリコ戦でも打線が爆発。5本の長打を含む14安打と打ちまくり、12−0と寄せつけず、日本が苦戦を強いられたニュージーランドも7−1で退け、3戦全勝と快調な滑り出しを見せている。
 日本の今日の相手はオランダ。ここまで1勝2敗と調子が出ていないだけに確実に勝ち星を挙げておきたい相手だ。
 日本の先発は上野。試合は約40分遅れの16時9分にはじまった。

〈予選リーグ第4戦 7月29日〉

  1 2 3 4 5 6 7
 オランダ 0 0 0 0 0 0 0 0
 日  本 0 0 2 0 0 0 X 2
  
(オ)●Zijlstra・Baart−Schol
(日)○上野−山路
〔本塁打〕
〔三塁打〕三科(日)

日本4勝0敗

9奪三振で完封劇を演じた上野由岐子
先制タイムリーを放った好調・伊藤良恵
先取点を奪った後、決定打がなく消化不良の展開に

 先発・上野は立ち上がり、いきなりの連打を浴び、この試合スタメンでライトに入った三科のミスもあり、無死二・三塁のピンチを迎えた。このピンチにも上野は動じることもなく、後続を三振、三振、ピッチャーゴロに抑え、ピンチを切り抜けた。
 一方、日本は3回、この回先頭の二番・三科が中前に痛烈な当たりを放つ。センターが懸命に前進し、ダイビングキャッチを試みたが、わずかに届かず、打球が転々とする間に、一気に三塁を陥れた。続く三番・伊藤(良)は、ここまでの3試合で9打数5安打4打点と当たりに当たっている。まだ本調子でないチームにあって、三番打者としての仕事を十分過ぎるほどに果たしてきた。このチャンスでも積極的に初球を狙い、先制の右前タイムリー。先取点を挙げると、一死後、五番・新井のところでヒットエンドラン。打球はライトへの飛球となったが、これを落球。労せずして2点目を挙げ、試合の主導権を握った。
 しかし、その後はランナーを出しながら決定打がなく、追加点を挙げることができない消化不良状態。自慢の打線に火がつかないまま、2−0で逃げ切った。

確かに安心して試合は見ていられるのだが……

三科は守りのミスを自らのバットで帳消しにした
サインをねだられる宇津木麗
「最後は気持ち」と選手に激をとばす宇津木監督
 試合後、宇津木監督は、「疲れる試合だった。試合はホントにやってみないと分からないと感じる。ここまでのオランダの試合ぶりを見ている限りではもう3〜4点は取れると思ってたんだけど……。簡単には勝たせてもらえないのは分かってるけど、何かキレイに、カッコ良くやろうとしている気がして気に入らない」と試合を振り返った。
 三科のライト起用については、「昨日の試合で自信をつけたと思うし、勢いを感じたから。去年の国体ではライトも守っていたし、三科のバッティングと機動力を生かしたかったから」と語った。
 初回にはライトへの打球を後逸し、無死二・三塁というピンチを招く大きなミスもしでかしたが、このミスにしょげることなく、買われたバッティングと足で先制点をお膳立てする三塁打を放つなど、“ガッツ”を見せた。
 宇津木監督自らが語る通り、今の日本はどこか「カッコ良く」「キレイに」勝とうとしすぎているように見える。「優勝候補にふさわしい戦いを見せよう」そんな気負いも見え隠れする。
 確かに、選手個々は力をつけた。技術も体力もメンタルも優勝候補と呼ばれるだけのものは間違いなく有している。これだけ安心して見ていられる世界選手権も珍しい。

最後は気持ち!! これからは“横綱相撲”では勝てない

 ただ、その一方で一抹の不安が頭をもたげはじめている。余力を残して4連勝してはいるが、一度として全力を出しきった試合をしていない。ムチ入れることなく、馬なりで走っても勝ってしまうという強さの証明でもあるが、アメリカ、オーストラリア、中国を相手に、“横綱相撲”で受けに回れるほど、強くなってはいないはずである。三科が見せたような泥臭くてもガッツあるプレイ。自分を殺してもチームプレイに徹する心。世界一の座を勝ち取るために思い出すべきことがあるはずだ。
 かつて日本は今ほど強くはなかった。ただ、かつての日本にはチーム一丸となって結束の強さとガムシャラなまでの闘争心だけは持ったチームだった。
「最後は気持ちだよ」
 宇津木監督はそう口にする。かつてない高いレベルの技術・戦術を持ち、世界に負けないパワー・スピードを有したこのチームの闘争心に火が点いたとき、宇津木監督が標榜する「いいチームから強いチームへ」は完成する。










世界選手権 第5日(2002/7/30)

日本9-0南アフリカ
9得点の完勝!! “強いチーム”へ一歩前進


 試合前の練習で、宇津木監督が選手を全員集め、いつもより長めのミーティングを行った。予選リーグも後半戦に入り、明日は予選リーグ最大の山場となるオーストラリア戦を迎える。ここまでの戦いぶりは、正直“優勝候補”としては物足りない内容の試合に終始している。それだけに宇津木監督としても、もう一度“戦う気持ち”を再確認しておきたかったのだろう。
 今日の試合の相手は南アフリカ。ここまで1勝3敗と低迷しているチームが相手である。ただ勝つだけでなく、オーストラリアとの“決戦”に向け、いい形で入っていくためには、この試合での内容が問われることになる。
 日本は、前田・鈴木の若いバッテリーで臨み、宇津木麗華、斎藤、山路のベテラン組を温存。若手主体のメンバーを組んだ。

〈予選リーグ第5戦 7月30日〉

  1 2 3 4 5
 南アフリカ 0 0 0 0 0 0
 日   本 3 3 3 0 X 9
  ※大会規定により5回コールド

(南)●Moatashe・Mhlubulwana−Bester
(日)○前田−鈴木
〔本塁打〕
〔三塁打〕
〔二塁打〕三科(日)、Scheepers(南)

日本5勝0敗

1安打・7奪三振の好投を見せた先発の前田
厳しい表情で試合を見つめる宇津木監督
日本の良さを生かしたチームづくりへ

 日本は初回、トップバッターに起用された三科がレフト線を破るツーベース。続く安藤は絶妙な送りバント。自らも一塁に生き、一・三塁とチャンスを広げた。三番・伊藤(良)のところでダブルスチール。機動力を生かした攻撃で先取点を挙げると、伊藤(良)のタイムリー、パスボールなどでこの回3点を先制した。
 続く2回には、3安打に敵失を絡めて3点を追加。3回にも打者一巡の猛攻で3点を加え、試合を決めた。
 守っては、初先発の前田が1安打・7奪三振に抑え、5回コールド勝ちを収めた。
 この試合、日本は9安打を放ったが、長打は三科の二塁打のみ。センター中心に打ち返し、ゴロで内野の間を鋭く抜ける打球がほとんどだった。
 また、初回の無死一・三塁からダブルスチールで先制したことに象徴されるように、6盗塁と機動力で相手守備陣を揺さぶり、9安打9得点と効率の良い攻めで大勝した。
 試合前のバッティング練習から、基本に忠実にセンター返しを心がけ、豪快なホームランではなく、最低でも走者を進められるような転がすバッティングを徹底していた。
 そういった意識の変化がこの試合の結果にも結びつき、派手さこそなかったが機動力を生かした“つなぎ”のソフトボールが甦った。

予選リーグを勝ち上がると……

宇津木麗華は志願の代打出場
選手たちだけでミーティングを行った
大村氏と入念にバッティングチェック
 日本とオーストラリアはここまで5戦全勝。明日の試合で勝った方がセクションBの1位で決勝トーナメントへ駒を進めると予想される。セクションBの1位はセクションAの2位と、セクションBの2位はセクションAの1位と対戦することになり、セクションAの1位はアメリカとなる可能性が高く、できれば1位で予選リーグを通過したいところだ。
 予選リーグを1位もしくは2位で通過した場合、ページシステムで行われる決勝トーナメントでは敗者復活のチャンスがある。前回の世界選手権、アメリカはこの敗者復活の優遇措置を生かし、一度はオーストラリアに敗れながら、敗者復活で勝ち上がり、世界選手権4連覇を達成した。
 また、予選リーグを1位もしくは2位で通過したチームは、決勝トーナメントの初戦を勝てばアテネ・オリンピックの出場権が確定(システム上、4位以下になることがないため)。仮に初戦に敗れ、敗者復活戦に回った場合でも、1勝すればオリンピック出場権が確定する。ただし、2試合続けて敗れた場合には5位が確定し、アテネ・オリンピックの出場権は与えられない。その場合にはアジア・オセアニア地区最終予選に回ることになり、そこで1位にならない限り、オリンピックには出場できない。



















世界選手権 第6日(2002/7/31)

日本5-0オーストラリア
6戦全勝で予選リーグ通過!!


 予選リーグ最大の山場・オーストラリア戦がやってきた。ここまで日本、オーストラリア共に5戦全勝。勝った方が予選リーグ・セクションBの1位通過が決まる。
 この日は朝からあいにくの雨。第3試合までを夜のナイトゲームに組み込むことになったが、幸い日本のゲームには影響なく、予定通り18時30分に試合が開始された。
 しかし、午後から雨は上がったものの、気温が10度を切るという100年に一度の異常気象。凍えるような寒さの中で“大一番”のプレイボールがかかった。
 日本の先発は開幕戦以来の登板となる坂井。オーストラリアは日本リーグ2部の三洋島根に在籍していたこともあるケリー・ハーディーを先発に立てた。

〈予選リーグ第6戦 7月31日〉

  1 2 3 4 5 6 7
 日     本 0 1 4 0 0 0 0 5
 オーストラリア 0 0 0 0 0 0 0 0
  
(日)○坂井ー山路
(オ)●Hardie・Wilkins−Carpadios
〔本塁打〕山路(日)
〔三塁打〕内藤(日)
〔二塁打〕

日本6勝0敗

満員の観客でスタンドは埋まった
山路は四番に起用され、攻守に大活躍
酷寒の中、冷静さを保った試合運び

 日本は2回、この試合、久々に四番に起用された山路が期待に応え、左中間に先制の本塁打。猛攻の口火を切ると、続く3回には一番・三科が意表を突くセーフティーバントで出塁。二番・安藤のショートゴロがフィルダースチョイスとなり無死一・二塁とチャンスを広げた。
 ここで今大会当たりに当たっている三番・伊藤(良)が一・二塁間を鋭く破り、1点を追加。さらに四番・山路が一塁線ギリギリを抜けるタイムリーを放って2点を加え、続く内藤もしぶとくライト前に落とし、この打球の処理を誤る間に(記録は三塁打)、一塁走者が長駆ホームイン。この回一挙4点を挙げ、試合を決めた。
 日本の先発・坂井は異常気象にも全く動じることなく、快調なピッチング。快速球で内角を抉り、ドロップ、シュートを巧みに織り交ぜ、5回までノーヒットの完璧なピッチング。オーストラリア打線を寄せつけず、被安打2・奪三振9の完封勝利。
 日本は無傷の6連勝で予選リーグ・セクションBの1位を確定させた。

予選リーグ山場で坂井が完封勝利

 先制本塁打を含む2安打3打点と活躍した山路は、「やっと……やっと仕事ができました。調子も今ひとつの状態でまさか四番に起用されるとは思ってもみませんでした。相手投手がドロップ主体の組み立ての投手で、監督からも“思い切りすくい上げろ”と指示されていたので迷いなく振れました。ちょっと上がりすぎたかなとも思いましたが、良く入ってくれました。走塁は苦手なので中途半端に塁に出なくて良かったです(笑)」とベテランらしい余裕のコメント。
今やチームの大黒柱の伊藤良恵
日本に完封されたオーストラリア
被安打2・奪三振9で完封した坂井
 予選リーグの最大の山場で見事な完封勝利を挙げた坂井については、「今日はコントロールも良く、サイン通りにキッチリ決まっていました。以前ならオーストラリアなどの強豪と対戦する場合には、練習試合ですべてを出し尽くしてしまって、本番になると研究し尽くされて痛い目にあうようなこともありましたが……。坂井をはじめ投手陣が成長し、練習試合では手の内を明かすことなく抑え込み、本番ではまったく違った配球で勝負できるようになったのが大きいと思います。オーストラリアとは今年の春先からいろんな大会で何度も対戦していますが、今日のような配球は一度としてしたことがありませんでした。見逃しの三振が多かったのは、それも理由の一つではないでしょうか」と、この試合に至るまでに様々な駆け引きや心理戦が早くから行われていたことを明かした。
 この大一番で完封勝利を収めた坂井は、「山路さんのミットをめがけて投げました。開幕戦のベネズエラ戦では緊張から自分のピッチングができなかったので……。今日は少しは自分らしいピッチングができたと思います」と大役を果たし、安堵の表情を浮かべた。
 5回までノーヒット・ノーランだったことに質問が飛ぶと、「それはまったく意識していませんでした。ノーヒットとか何とかいうことより、一人ひとりを確実に、丁寧に打ち取っていくことだけを考えました」と語った。

見えてきた!! 目標の“世界一”

 打つ手打つ手が当たった宇津木監督は、「山路は昨日あたりから感じが良くなってきていたし、何かやってくれそうな予感があったから四番に据えた。シドニー・オリンピックでは四番に起用し続けて、結果的には打てなかったけど、結果云々で山路に対する信頼が変わることはないし、命がけでプレイしている山路のような選手には必ず結果もついてくるもの。監督の気持ちを一番分かってくれる選手だから」と語り、三科の一番・ライトの起用については、「今、一番乗っている選手だから。実際、ライトの守備ではミスもしているし、不安もある。それでもそれを補うガッツがあるし、何よりその機動力はチームに欠かせない戦力になっているから。ウチの“ラッキガール”だから、勢いに任せて行けるところまで行こうと思って」と、その起用の意図を語った。
 先発・坂井が従来の日本のピッチャーのイメージを完全に覆し、力でオーストラリア打線を完全にねじ伏せれば、四番に起用された山路が宇津木監督の信頼に応える一発を放った。
 勢いを買われた“ラッキーガール”三科が若さの勢いで溌剌とダイヤモンドを駆けめぐり、斎藤、宇津木麗華は七番、八番という似合わぬ打順で本来の当たりこそなかったが、その存在感でオーストラリアを十二分に威圧した。
 今やチームの“大黒柱”に成長しつつある伊藤(良)、内藤の中堅組は今日も堅実なプレイでチームを支え、ベンチもサポートスタッフも、観客席も一丸となって大声援でチームを後押しした。
 予選リーグ最大の山場を最高の戦いで乗り切った日本。目標とする“世界一”の座がハッキリと見えた気がする。










世界選手権 第7日(2002/08/01)

日本 15-0 プエルトリコ
圧勝!! 7戦全勝で予選1位通過


 予選リーグ最終日、日本はプエルトリコと対戦。ここまで6戦全勝の日本は、この試合の勝敗に関わらず、予選リーグ・セクションBの1位通過が決まっており、対するプエルトリコもここまで4勝2敗と好調。セクションBの4位以上を確定させ、決勝トーナメント進出が決まっている。
 日本の先発は高山。最終戦をしっかりと締めくくり、決勝トーナメントへ弾みをつけたいところだ。

〈予選リーグ第7戦 8月1日〉

  1 2 3 4
 日    本 5 3 0 7 15
 プエルトリコ 0 0 0 0 0
※大会規定により4回コールド
  

(日)○高山・増淵−山路・鈴木
(プ)●De Palma・Arias−Santago
〔本塁打〕新井(日)
〔三塁打〕三科(日)
〔二塁打〕新井、伊藤(幸)(日)

日本7勝0敗

落ち着いたピッチングを見せた先発・高山
初回、一番・三科がいきなりの3塁打を放つ
初回5得点で勝負を決め、4回コールド勝ち

 日本は昨日のオーストラリア戦に快勝した勢いをそのまま持ち込み、一番・三科がレフト線にいきなりの三塁打。二番・安藤が四球で歩き、無死一・三塁とすると、三番・伊藤(良)が中前に先制のタイムリー。先取点を挙げ、なお無死一・三塁と攻め立て、一塁走者の伊藤(良)が二盗。一・二塁間で挟殺される間に、三塁走者の安藤は本塁へ。四番・山路は中飛に倒れて二死となったが、五番・内藤が四球でつなぎ、六番・新井、七番・伊藤(幸)の連続二塁打で2点を追加。八番・宇津木の四球をはさみ、九番・岩渕がレフト前にタイムリー。打者11人を送る猛攻で大量5点を挙げ、初回で早くも勝負を決めた。
 日本はその後も攻撃の手を緩めず、2回には六番・新井が中越に豪快なスリーランを放ち、3点を追加。4回には再び打者10人を送る猛攻で7点を追加。一方的な展開で4回コールド勝ちを収めた。
 守っては、先発・高山が落ち着いたピッチングで3回を1安打に抑え、4回からマウンドに上がった増淵も簡単に三者凡退。プエルトリコ打線につけいるスキを与えなかった。
 予選リーグ最大の山場・オーストラリア戦を理想的な展開でモノにし、勢いに乗る日本の前に敵はなく、火の点いた打線を止める術はなかった。
 これで日本は7戦全勝。無傷で予選リーグを通過。決勝トーナメントの初戦は、明日の夜、20時30分からのナイトゲームでセクションA2位の中国と対戦することが決定した。

対戦相手のプエルトリコ
2回、とどめのスリーランを打った新井
試合後、すぐにミーティングに入った
中国を破り、アテネ五輪の出場権を獲得

 中国との対戦は、オリンピック・世界選手権に限れば、'96年のアトランタ・オリンピックから4連勝中。しかし、アジア大会では'90年の北京、'94年の広島、'98年のバンコクと3大会続けて中国が金メダルを手にしており、日本は銀メダル止まり。昨年の世界選手権アジア地区予選でも、最終的には日本が優勝し、アジア・チャンピオンの座についたが、ページシステムで行われた決勝トーナメントの初戦(1位・2位戦)では、中国が勝っており、決して楽観できる相手ではない。
 一時のような“苦手意識”こそなくなったが、中国の潜在能力は恐るべきものがある。
 ただ、一時代を築いた大エース・王麗紅が引退した後は、その後継者の育成が遅れ、投手力に決め手を欠いている。また、変化球全盛の時代にあって、王麗紅の幻影を追いかけるかのように頑なに速球とチェンジアップの組み立てだけで勝負するピッチングスタイルは時代から取り残された感がある。王麗紅を擁して一度は“打倒アメリカの一番手”と目されながら、その衰えと共に徐々に下降線を辿り、'98年の世界選手権、'00年のシドニー・オリンピックと連続してメダルを逃したのは、そのあたりが原因と考えられる。

気持ちを引き締め、決勝トーナメントへ

 日本の先発は上野が有力だが、球威があり、ドロップのキレの鋭い坂井の起用も面白い。実際、昨年のアジア予選では上野、坂井は完全に中国打線を抑え込んでいた。
 ピッチャーが中国打線をある程度抑えてくれれば、当たりとつながりの出てきた日本打線が中国投手陣を必ずつかまえてくれるだろう。3点から5点ぐらいの得点は見込めるはずである。すんなり勝って、まずはアテネ・オリンピックの出場権を確定させた上で、目標の“世界一”に挑みたいところだ。
 予選リーグ7戦全勝にも、1位通過にも、日本に浮かれたところは微塵もない。宇津木監督は試合が終わるとすぐに選手全員を集め、試合終了後の記者会見もキャンセルし、ミーティングに入った。
 宿舎からの迎えのバスを待つ間も、選手たちは寸暇を惜しんで練習を行っていた。
 「本当の勝負はこれから」選手たちの表情が何よりもそう物語っていた。









決勝トーナメント組合せ 結果
8月2日
(金)
14:00 Aグループ3位 
台湾
VS Bグループ4位 
プエルトリコ
C3  
16:00 Aグループ4位 
イタリア
VS Bグループ3位 
ニュージーランド
C4  
18:30 Aグループ1位 
アメリカ
VS Bグループ2位 
オーストラリア
C1  
20:30 Aグループ2位 
中国
VS Bグループ1位 
日本
C2
8月3日
(土)
14:00 C1敗者
オーストラリア
VS C3勝者
台湾
C5  
16:00 C2敗者
中国
VS C4勝者
ニュージーランド
C6  
18:30 C1勝者
アメリカ
VS C2勝者
日本
C7
20:30 C5勝者 VS C6勝者 C8  
8月4日(日) 3位決定戦  
11:00 C8勝者
台湾
VS C7敗者
日本
C9
優勝&準優勝決定戦  
13:30 C9勝者
日本
VS C7勝者
アメリカ
C10










世界選手権 第8日(2002/08/02)


決勝トーナメント1、2位戦
日本5−0中国


 今日の中国戦に勝てば、アテネ・オリンピックの出場権を手にすることができる。それが現実のものとなれば、“アテネ・オリンピック出場権獲得第1号”になるとあって、日本から大挙して報道陣が駆けつけ、JOC(日本オリンピック委員会)からも飯塚十朗理事、笠原健司主事が激励に訪れるなど、物々しい雰囲気の中で試合前の練習が開始された。
 ここまで、報道陣に対して寛容な姿勢を貫き、「わざわざ日本から駆けつけてくれるのだからありがたいこと。できる限りの協力はしたいし、選手にも感謝の心を持って接するようにと言っている」という宇津木監督も、この日ばかりは初めて報道陣を遠ざけ、試合に集中できる環境とするよう協力が求められた。
 大事な試合の前とあって、一種ピリピリした雰囲気も流れたが、選手は至ってリラックスムード。むしろ大試合の前の緊張感を楽しむかのように練習を行っていた。
 この日からはじまった決勝トーナメントは、第1試合でチャイニーズ・タイペイ(セクションA3位)がプエルトリコ(セクションB4位)に5−1で勝ち、第2試合ではニュージーランド(セクションB3位)がイタリア(セクションA4位)に3−0の完封勝ち。まずプエルトリコとイタリアが姿を消し、7位が確定した。
 第3試合では、アメリカ(セクションA1位)がオーストラリア(セクションB2位)のオーストラリアに一時は4−0とリードしながら、1点差まで詰め寄られ、急遽エースのリサ・フェルナンデスを投入し、辛くも逃げ切り、アテネ・オリンピックの出場権を獲得。敗れたオーストラリアは敗者復活戦に回り、明日の14時からチャイニーズ・タイペイと対戦する事が決定した。
 日本は第4試合に登場。この中国戦に勝てば、明日18時30分からの第3試合でアメリカと対戦することになり、敗れた場合は16時からの第2試合でニュージーランドと対戦することになる。
 この日の最終試合となる第4試合は、予定より50分近く遅れた21時17分にはじまった。
 日本の先発は上野。“現役世界最速”の呼び声高い、若きエースにこの大事な一戦の命運が託された。

〈決勝トーナメント1位・2位戦〉

  1 2 3 4 5 6 7
 中国 0 0 0 0 0 0 0 0
 日本 3 0 0 1 1 0 X 5

(中)●李・張−郭
(日)○上野−山路
〔本塁打〕
〔三塁打〕宇津木(日)
〔二塁打〕斎藤(日)


JOC飯塚理事、笠原主事が激励に訪れた
試合前の練習にも熱が入る
試合開始から主導権を握った日本

 日本の先発・上野は、MAX113kmを記録した快速球を武器に三者三振の絶好調の立ち上がり。試合の流れを日本に引き寄せた。
 日本はその裏、一番・三科が粘って四球。続く安藤が送りバント失敗でツーストライクに追い込まれながら、しぶとくセカンドゴロを転がして一死二塁。三番・伊藤(良)が内野安打で一・三塁とチャンスを広げ、すかさず二盗。四番・山路の当たりはボテボテのピッチャーゴロとなったが、三塁走者の三科が判断良く本塁に突入。この積極果敢な走塁に慌てたのか、ピッチャーが本塁に悪送球。二塁走者の伊藤(良)も一気にホームを踏み、2点を先制。なお一死二塁とチャンスは続き、五番・新井がセンター前にタイムリー。山路の代走・田中が二塁から生還し、この回3点を挙げ、試合の主導権を握った。
 4回には、一死から七番・宇津木がレフト線に三塁打。八番・斎藤が詰まりながらも中前に落とし、1点を追加。
 5回にも二死二塁のチャンスに六番・内藤が三遊間を破るタイムリー。ダメ押しの1点を加え、試合を決めた。
 守っては、上野が一人の走者も許さず、完全試合ペースのピッチング。6回、一死からレフト前にフラフラッと上がった打球もレフト・新井がスライディングキャッチ。このスーパープレイで「完全試合」達成の予感はさらに高まった。

意識しながら完全試合を成し遂げた上野

 最終回、上野は先頭打者に対してスリーボール・ツーストライクのフルカウントとなったがショートゴロ。二番、三番が連続三振に切って取り、完全試合を達成。アテネ・オリンピック出場権獲得がかかった大試合で、強豪・中国を相手に、まさに“パーフェクト”なピッチングを展開して見せた。
 試合後、上野は「初回の三者三振で今日は調子がいいのかな……と思いまし、今日はボールが走っていたので、打たれる気はしませんでした。完全試合は知っていましたし、もちろん意識もしていました」と、意識してなおかつ完全試合という大記録を成し遂げたことを告白。その一方で、「今日ほど一人じゃないと感じたことはありませんでした。抑えてやるとか、自分が何とかしなければとか、そういう気持ちではなく、みんなが守ってくれていると感じながら投げていましたから」とバックを信頼して投げたことを強調。大記録の達成にも興奮した様子はなく、普段通りの淡々とした口調で会見に臨んでいた。
大挙して駆けつけた日本の報道陣
中国対策を細かく指示する宇津木監督
中国を撃破!! さあ、いよいよアメリカ戦だ
大会優勝で五輪出場権獲得に花を添えよう!!

 アテネ・オリンピックの出場権を手にした宇津木監督は、「まず“第一関門”を突破し、最低限の役目は果たせたとホッとしています。しかし、今回の目標はこれが終着点ではありませんから……。明日のアメリカ戦を含め、あと2試合になるか3試合になるか分かりませんが、頂点まで登り詰めたい。ここからが本当の勝負だと思っています」と優勝への決意を新たにしていた。
 キャプテンの宇津木麗華選手は、「キャプテンとしての仕事は最低でもアテネ・オリンピックの出場権を獲得することだと思っていました。ただ、宇津木麗華個人としてはここから先が本当のスタートだと思っていますし、20数年にわたるソフトボールプレイヤーとしての集大成として、この大会で優勝を飾りたいと思っています」と語った。
 若きエース・上野はアテネ・オリンピックの出場権がかかった大一番で、事も無げに完全試合を成し遂げ、“世界のエース”の称号を我がものにしようとしている。

ベテランと若手の融合で「打倒アメリカ」へ!!

 ここまで当たりの出ていなかった宇津木、斎藤に当たりが戻り、“さすがベテラン”の存在感を感じさせ、爆発の舞台が整いつつある。
 地味ながらチームの屋台骨を担いはじめている伊藤(良)、内藤の中堅組は今日も先制、ダメ押しと貴重な働きを見せた。
 若手、中堅、ベテランが絶妙なバランスで融合し、チームとしての円熟味は増し、日本は世界の頂点に立つにふさわしいチームに成長した。
 長く世界の王座に君臨し続けたアメリカ。その王者にこの手で引導を渡し、世界の頂点に立つ。今、まさに“機は熟した”歴史的な瞬間はもうそこまで来ている。












決勝トーナメント・セミファイナル
日本0−1アメリカ


惜敗!! しかしVへの可能性はまだ十分にある

 決勝トーナメント2日目、第1試合はオーストラリアとチャイニーズ・タイペイが対戦。オーストラリアが初回に2点を先制しながら、6回にまさかの逆転を許し、4−2で敗れる波乱の幕開け。
 続く第2試合でも、中国がニュージーランドに食い下がられ、4−2で何とか振り切ったが、“世界の4強”と呼ばれた国々も他国との力の差が接近し、あるいは逆転され始めている事実を改めて感じさせた。
 これで、チャイニーズ・タイペイと中国はアテネ・オリンピックの出場権を獲得。この日の最終試合となる第4試合で勝った方がブロンズメダルゲーム(3位決定戦)に進出。第3試合の日本対アメリカの敗者と対戦することになる。
 この日の第3試合は、ここまで予選リーグから共に負けなしで勝ち上がった日本とアメリカが対戦。シドニー・オリンピックの決勝の再現となるこのカードに、日本は坂井を先発に立て、必勝を期した。

〈決勝トーナメント・セミファイナル〉

  1 2 3 4 5 6 7 8 9
 日  本 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
 アメリカ 0 0 0 0 0 0 0 0 1X 1

(日)●坂井−山路
(ア)ハリガン・○フェルナンデス−ヌーベマン


大一番の前でも選手たちはリラックスムード
日本は果敢な攻めでアメリカを追いつめたが…
最強アメリカが日本を恐れて奇襲戦法をとった

 アメリカは先発・ハリガンを一球も投げさせず、エース・フェルナンデスと交代。実質的にはフェルナンデスが先発という形になった。
 試合前の練習ではミッシェル・スミスに熱心に投球練習をさせ、先発をカムフラージュ。オーダーの交換時にはハリガン先発と記入し、試合開始直前までベンチ前でピッチングを行うなど、日本を攪乱する奇襲戦法を取ったが、日本は「先発はフェルナンデス」と読み切り、備えは万全。試合前の心理戦は日本に軍配が上がった。
 日本の先発・坂井は初回こそ四球、安打で一死一・二塁のピンチを招いたが、四番。ヌーベマンを三振。五番・フェルナンデスを一塁ゴロに打ち取ってリズムに乗り、2回、3回を三者凡退に抑え、序盤を無難に乗り切った。
 一方、日本は“世界のエース”フェルナンデスを果敢に攻め、2回には一死から五番・新井がチーム初安打をライト前に放ち、六番・内藤が確実に送って二死二塁。七番・宇津木のバットに期待がかかったが、空振りの三振に倒れ、先制機を逃した。
 4回には、四番・山路が右中間を深々と破るツーベースで一死二塁と再びチャンスを作り、二死後、六番・内藤のサードゴロが失策を誘い、二死一・三塁とチャンスを広げ、七番・宇津木は意表を突くセーフティーバント。勝利への執念を見せたが、フェルナンデスの動物的な反応の前に、間一髪一塁アウト。惜しくも先取点はならなかった。
 続く5回にも、この回先頭の八番・斎藤が右中間二塁打。九番・岩渕が手堅く送り、一番・三科のところでスクイズを敢行。これも惜しくもファウルとなり、どうしても得点することができない。

強打アメリカに対して力投した先発・坂井
アメリカのエース、フェルナンデスが立ちふさがる
何度もピンチを凌いだが1点が遠かった
3時間8分にわたる死闘が終わった

 序盤は坂井の力投の前に凡打を繰り返していたアメリカだが、次第に坂井をとらえはじめ、4回に一死二・三塁、5回に一死一・二塁とこちらもチャンスは作るが、坂井の力投と日本の堅い守りに阻まれ、ホームが遠い。特に5回は一死一・二塁から二番・アミコがライト前ヒットを放ち、先取点と思われたが、ライト・三科、ファースト・伊藤(良)の見事な連係プレイに本塁寸前タッチアウト。一進一退の攻防が続いた。
 両チームその後もチャンスはあるものの得点を挙げることができず、延長タイブレーカーに突入した。
 迎えた9回、アメリカは一死一・二塁から代打・ゴールドバーグが力投を続ける坂井の128球目をとらえ、しぶとく二遊間を破り、二塁走者がサヨナラのホームを駆け抜け、3時間8分にわたる“死闘”に決着をつけた。
 喜びを爆発させるアメリカ。茫然と立ちすくむ日本。王者の意地とプライドが最強の挑戦者を退け、世界一の座を賭けた戦いの第1ラウンドはアメリカに軍配が上がった。
 日本はこれで明日11時からのブロンズメダルゲームに臨むことになり、中国対チャイニーズ・タイペイの勝者とぶつかり、これに勝てば再びファイナルでアメリカと雌雄を決することになる。

まだまだ勝機あり。第2ラウンドは明日プレーボール

 負けた……。確かに負けた。しかし、アメリカを相手に互角以上の戦いを見せた。内容的には勝っていてもおかしくない試合だった。王者・アメリカの厚い壁に跳ね返されはしたが、日本にもまだチャンスは残されている。
 かつてアメリカがここまで追い込まれたことはなかった。先発投手をカムフラージュするような駆け引き、心理戦を必要とするまでに日本を恐れている。
 第1ラウンドはアメリカの勝利に終わった。しかし、この勝利が最終的な勝利者を意味するものではないことをアメリカは嫌と言うほど思い知るだろう。最後に笑うのは日本。王座交代の儀式が1日延びただけに過ぎない。








世界選手権 第10日(2002/08/04)

ブロンズメダルゲーム(3位決定戦)
日本2−1チャイニーズ・タイペイ


辛勝!! ファイナル進出へ

 大会もいよいよ最終日。日本は11時からの第1試合・ブロンズメダルゲームで、チャイニーズ・タイペイと対戦。思わぬ苦戦を強いられた。
 前日、第1試合でオーストラリアを4−2、第4試合で中国を6−5と、2試合連続の逆転勝ちを収めたチャイニーズ・タイペイはチームに勢いがあり、いい当たりが正面を突くなど、運も味方につけた状態。日本を相手に互角の戦いを演じ、5回まで両チーム無得点のまま、試合は終盤を迎えた。
 日本は6回、一死から三番・新井が右越二塁打。四番・山路が敬遠の四球(INTENTIONAL WALK/投球しないで球審に四球を告げるだけでよい)で一・二塁。このチャンスに五番・内藤、六番・斎藤が連続タイムリー。2点を先制し、試合を決めたかに見えた。
 しかし、チャイニーズ・タイペイも最後まで粘り、最終回に1点を返し、なお一死一・二塁の一打同点のチャンスをつかんだが、後続が三振、セカンドライナーに倒れ、日本が2−1で逃げ切った。
 日本はこれでファイナル進出。再びアメリカと対戦することになった。

〈ブロンズメダルゲーム〜3位決定戦 8月4日〉

  1 2 3 4 5 6 7
 台  湾 0 0 0 0 0 0 1 1
 日  本 0 0 0 0 0 2 X 2

(日)坂井・○上野−山路
〔二塁打〕新井


苦戦の末、チャイニーズ・タイペイに勝利
最後までフェルナンデスを崩せず
またしても準優勝。しかし、世界一は見えてきた
ゴールドメダルゲーム(決勝戦)
日本0-1アメリカ


無念の完封負け、銀メダル獲得

 アメリカはまたしてもスターティングラインアップの投手の欄に、「ロリ・ハリガン」と記入し、提出。試合開始と同時にエース・フェルナンデスをマウンドに送る攪乱戦法に出た。
 一方、日本はエース・高山が満を持して登板。世界一の座を賭けた戦いがはじまった。
 日本はフェルナンデスの多彩な変化球に翻弄され、三者凡退を繰り返し、アメリカも高山の巧みな投球術の前に決定打を奪えずにいたが、3回、試合の均衡が破れた。
 アメリカは3回、一死から一番・ワトリーがレフト前ヒットで出塁。持ち前の俊足を生かして、すかさず二盗を決めると、二番・アミコが中前にポトリと落ちる先制のタイムリー。アメリカに先制を許す、苦しい展開となった。
 1点を追う立場となった日本だが、フェルナンデスをなかなかとらえることができず、5回まで一人の走者も出すことができない。

最終回で一打逆転のチャンスも生かせず……

 ようやく6回、この回先頭の七番・斎藤が三遊間を破るチーム初安打を放ち、反撃開始かと思われたが、八番・安藤の痛烈な当たりはショート真っ正面。代走・田中が当たりにつられて飛び出し、一瞬にしてダブルプレイ。
 土壇場の最終回、一死から二番・三科がレフト前ヒット。三番・伊藤(良)のショートゴロで一塁走者がセカンドでフォースアウトで二死となったが、四番・山路がライト前ヒット。二死ながら一・三塁と一打同点のチャンスをつかんだ。
 続く打者は五番・内藤。ヒットがでればもちろん同点。長打なら逆転とあって、スタジアムのボルテージは最高潮に達した。
 “世界のエース”フェルナンデスが渾身の力を込めて投げ込む。内藤のバットが唸る。打球はレフト前ヘフラフラッと上がった。
 一瞬、「落ちた! 同点だ!!」と思った次の瞬間、アメリカのショート・ワトリーが驚異の俊足を飛ばして落下点に現れた。試合終了……日本の世界一への挑戦は終わり、アメリカが世界選手権5連覇を達成した。

メダルの色は望んだものと違った
準優勝の日本
優勝したアメリカ
驚異の俊足ワトリーひとりにしてやられた!!

 差はなかった。ないように思えた。しかし、“負けた”という事実がある以上、何かが足りなかった。
 今回のチームは優勝をハッキリと意識し、優勝するために作られたチームだった。実際、それだけの戦力を有していたし、優勝するための万全のサポート体制も敷かれていた。
 今までであれば、明らかに「ここが弱い」「ここが劣っている」という課題や敗因が見つけられた。しかし、今回のチームにはそういったハッキリした弱点は見当たらない。
 唯一、差があったとすれば機動力か。このファイナルがそうであったように、アメリカには驚異の俊足を誇るトップバッター・ワトリーがいた。大会前から、この選手をどう封じるかがアメリカ戦のキーポイントであった。ゴロを転がしさえすれば、ツーバウンドすればセーフになる。そんなワトリーを止める術を最後まで見出せなかった。“世界一の遊撃手”安藤に、一塁へ投げるのを諦めさせるほどの俊足は、アメリカの大きなアドバンテージとなった。実際、最後はこのワトリー一人にやられたような試合だった。

新たな力の台頭を感じさせた日本チーム

 しかし、差は確実に縮まっている。アメリカの背中はすぐそこに見えている。手を伸ばせば届くほどに……。
 投手陣では、坂井、上野という世界に力で対抗できる本格派の投手がデビューした。
 野手では、シドニー・オリンピックを経験した伊藤(良)、内藤の中堅組が大黒柱に成長。三科、新井といった“ニューパワー”も台頭した。
 この悔しさが選手たちをさらに成長させてくれることだろう。金メダルはアテネまで取っておいたと思えばいい。彼女たちならきっとやってくれる。そう信じて……。

(ゴールドメダルゲーム〜決勝戦 8月4日)

  1 2 3 4 5 6 7
 日  本 0 0 0 0 0 0 0 0
 アメリカ 0 0 0 0 0 X

(日)●高山・上野−山路
(ア)ハリガン・○フェルナンデス−ヌーベマン


日本 準優勝





第10回世界女子ソフトボール選手権大会
代表選手名簿
  守備 氏名 所属先 投・打 背番号
1 投手 上野 由岐子 日立高崎 右・右 17
2 投手 高山 樹里 豊田自動織機 右・右 18
3 投手 増淵 まり子 デンソー 右・左 20
4 投手 坂井 寛子 戸田中央総合病院 右・右 21
5 投手 前田 樹里 日立高崎 左・左 23
6 捕手 鈴木 由香 日本体育大学 右・右 10
7 捕手 山路 典子 太陽誘電 右・右 25
8 内野手 三科 真澄 日立高崎 右・右 3
9 内野手 内藤 恵美 豊田自動織機 右・右 4
10 内野手 安藤 美佐子 デンソー 右・右 6
11 内野手 伊藤 良恵 日立高崎 左・左 19
12 内野手 宇津木 麗華 日立高崎 右・左 28
13 外野手 新井 直美 太陽誘電 右・右 1
14 外野手 岩渕 有美 日立高崎 右・左 7
15 外野手 伊藤 幸子 トヨタ自動車 右・右 9
16 外野手 田中 幹子 ミキハウス 右・左 13
17 外野手 斎藤 春香 日立ソフトウェア 右・左 26