斎藤新体制船出! 本格的な強化はじまる!!(平成18年度第6次国内強化合宿)

斎藤新体制、初の強化合宿が行われた

目標はただ1つ……「世界一」

「屈辱の映像」からも目を逸らさず

タイム計測を行ってのベースランニング

田本コーチの存在がチームを盛り上げる

入念に配球を確認する浦野コーチとバッテリー
新たな船出!

 去る3月19日(月)〜24日(土)、宮崎県宮崎市で女子日本代表の第6次国内強化合宿が実施された。
 この合宿には、先の選考会(3月5日〜10日/沖縄県嘉手納町)で選出された女子日本代表17名が参加。斎藤新体制の下、初めての強化合宿を行い、悲願のオリンピック金メダル獲得へ向け、本格的な強化がスタートした。
 今回の合宿では、明確に「金メダル獲得」「世界一」が目標として掲げられ、練習グラウンドのバックネット脇に掲示されたホワイトボードには、その日の練習メニューとともに、常にこの「目標」がマジックで大書きされていた。
 これなら練習メニューを確認するごとに、嫌でも選手たちの目に入る。今までも、もちろん「金メダル獲得」「世界一」が目標だった。しかし、それをハッキリと明示し、その目で見て、言葉として口に出していくことで、このチームがどこへ向かおうとしているのか、何のために戦うのかが、強く意識されるようになった。

屈辱からの出発

 そして、それに拍車をかけるように練習終了後には、斎藤ヘッドコーチの発案で設けられたビデオ・パソコンルームで、情報分析スタッフの用意したアメリカのエース・オスターマンとの昨年の対戦の映像が何度も流された。
 特に、日本の打者が三振を喫したシーンだけを集めて編集された映像を食い入るようにチーム全員が見つめ、その屈辱を敢えて味わい、その事実から目を逸らすことなく、真っ正面から向き合って、どうすれば打てるか、どうやって得点を奪うか、繰り返し映像を見ては意見をぶつけ、議論を重ねる選手たちの姿があった。
 今回の合宿で、選手たちが合言葉のように繰り返したのは、「44打数3安打・打率6分8厘・25三振からの出発」だった。オスターマンに抑え込まれた苦い記憶。思い出したくもない屈辱のシーン、そこから目を逸らさず、敢えてその記憶と向き合うことによって、従来以上の高いモチベーションが生まれ、チームは「戦う集団」として生まれ変わった。

変わった練習内容

 具体的な練習スケジュールも大きく変貌した。「アメリカを倒す」「世界一になる」「金メダルを必ず手にする」といった目標を鮮明に際立たせたことで、練習内容はより実戦的なものとなり、自らの課題を自覚した上で、それを乗り越え、克服するための具体的な練習スケジュールが立案された。
 世界一の座に君臨し続けるアメリカに勝つために、情報分析スタッフが導き出した「答え」は、今夏のUSAワールドカップ(7月11日〜17日/アメリカ・オクラホマシティ)で、「エース・上野抜きでアメリカと互角に戦う」ことであり、具体的には「アメリカの投手陣から1試合で最低3点〜5点取れる攻撃力を身につける」ことであった。
 そのために、この合宿には昨年の日本男子リーグを制した西日本シロアリの協力を得て、小谷良朋投手、黒瀬淳投手、山_泰稔捕手を練習パートナーに招き、アメリカの投手陣を想定した110キロを超える球速の切れ味鋭いライズ、ドロップを打ち込んだ。
 当初は完全に抑え込まれていた打者たちが、日を追うごとに対応できるようになり、適応力の高さを感じさせた。
 この分野は、「世界の大砲」として名を馳せた斎藤ヘッドコーチの「専門分野」であり、「得意分野」でもあるだけに、今後さらなる上積みが期待できそうだ。もちろん強化合宿や遠征に男子のピッチャーを常に招聘・帯同させる計画や高速度のマシンを活用した徹底した打ち込みを行うことも計画されている。

 また、従来はあまり踏み込まれることがなかった「走塁」の分野で、大きな意識改革と練習内容の変化が見られた。
 ベースランニングはタイム計測を行いながらやるのが当たり前。常にハッキリとした「数字」を突きつけられては選手も気を抜けない。それどころか、いつの間にかベストタイムの更新を競い合うようになり、大きな刺激と活力を生み出した。
 試合形式の練習でも、田本コーチがきめ細かくベースランニングを指導。打球をどの位置で判断するか、タッチアップかハーフウェイか、リスクを犯しても次の塁を狙うべきか自重すべきか、様々なケースが想定され、それに応じたベースランニングができるよう何度も繰り返し練習を重ねた。
 ともすると「地味」と思われがちな「走塁」という分野だが、塁間が狭く、スピードのある選手の多い日本のようなチームにとっては、実は「生命線」となる技術である。アメリカのように一振りで得点するパワーはないかもしれない。しかし、常に相手にプレッシャーをかけ、隙あらば次の塁を狙う姿勢と意識が、日本の持つ「スピード」と真の融合を果たしたとき、相手チームを混乱に陥れることができるはずだ。それは王者・アメリカとはいえ決して例外ではなく、むしろアメリカの最大の弱点は破壊力抜群の打線と強力な投手陣の影に隠された「守備力」にあるのである。
 今、アメリカはどのチームとやってもワンサイドで勝つ力を有している。極論すれば上野以外のすべての投手がそれを封じる術を持っていない。オーストラリアがいい例だ。昨年の世界選手権でオスターマンを攻略しかけながら、終わってみれば2−11、1−5と大敗。こういう展開ではアメリカにはさほどプレッシャーはかからない。たとえ先行されても「いつか逆転できるさ」と気楽なものだ。
 しかし、上野という「切り札」を持つ日本が2点、3点と得点していくような試合展開になったとしたらどうか。1点差、2点差のクロスゲームになったとき、アメリカが守備から崩れる可能性は大いにあると考えられる。いつも楽な試合展開しか経験していないチームが、1点また1点と追い上げられたら……。しかも、いつ登板してくるか分からない「切り札」の存在に怯えながら、それでも「王者」は「王者」のままでいられるだろうか。だからこそ……日本は攻撃力を身につけなければならないのだ。

 また、いくらアメリカから得点を奪ったとしても、投手陣がアメリカ打線を止められなければ話にならない。
 そこで浦野コーチの手腕が生きる。自ら男子の日本代表として世界の舞台を戦った記憶が、金メダル獲得を期待され、未曾有のプレッシャーの中で戦ったアテネ・オリンピックのコーチとしての経験が、投手陣に伝授されていく。
 今回の合宿でも、必要とあれば練習の流れを止めてでも、バッテリーを呼んで配球を確認し、「なぜ打たれたのか」「打者の狙いはどこにあったのか」「自分の持ち球・ウイニングショットを生かすための組み立てとは何か」がチェックされ、問いかけられていた。
 もちろん簡単に抑えられる相手ではない。しかし、打者はしょせん打っても3割程度でしかないのだ。必要以上に恐れることなく、それぞれの武器・持ち味を最大限に発揮できれば、戦う道はあるはずである。
 しかも、日本には「世界一」と評される鉄壁の守備陣がついている。他のチームなら抜けてしまう打球をアウトにする能力がある。次の塁を簡単に許さない守備組織がある。ここに磨きをかけ、「総合力」で戦えば、道は必ず開けるはずである。
 グラウンドでは、「7回裏ツーアウト満塁、1点リード。バッターはメンドーサ。これを抑えれば勝ちだよ」「バッターはブストス。外野下がって長打警戒」「北京オリンピックファイナル、1点リードされて7回裏、ワンヒットで回すから、絶対セーフになれ」そんな声が普通に飛び交った。
 合宿で繰り返される練習風景を見る限り、次のアメリカとの対戦が、北京オリンピック本番が、待ち遠しいと思える。何よりそれを嬉しく感じた。
                                 
女子日本代表(A代表) 第6次国内強化合宿参加メンバー

▽ スタッフ
・選手強化本部長
 尾崎 正則(日本ソフトボール協会)
・総監督
 井川 英福(トヨタ自動車)
・ヘッドコーチ
 斎藤 春香(日立ソフトウェア)
・コーチ
 浦野 光史(日本ソフトボール協会)
 田本 博子(日立ソフトウェア)
・トレーナー
 大石 益代(日本ソフトボール協会)
 鈴木  勝(グローバルスポーツ医学研究所)
・マネージャー
 亀田 悦子(日立ソフトウェア)
・情報科学
 福島 豊司(日本ソフトボール協会)

▽選手
・投手
 上野由岐子(ルネサス高崎)
 江本 奈穂(豊田自動織機)
 染谷 美佳(デンソー)
 藤原麻起子(日立ソフトウェア)
 増淵まり子(デンソー)
・捕手
 乾  絵美(ルネサス高崎)
 鈴木 由香(日立ソフトウェア)
・内野手
 伊藤 幸子(トヨタ自動車)
 内藤 恵美(豊田自動織機)
 佐藤 理恵(レオパレス21)
 西山  麗(日立ソフトウェア)
 廣瀬  芽(太陽誘電)
 三科 真澄(ルネサス高崎)
・外野手
 狩野亜由美(豊田自動織機)
 松崎絵梨子(太陽誘電)
 馬渕 智子(日立ソフトウェア)
 山田 恵里(日立ソフトウェア)

※ポジション別50音順。