第8回世界女子ジュニア選手権大会・第11日(6月30日)
 
決勝トーナメント、ゴールドメダルゲーム(ファイナル/優勝決定戦)
 アメリカに惜敗、史上初の大会3連覇ならず……




「最強の敵」アメリカと再戦

日本は「エース」安福にすべてを託した

日本が「超攻撃型」オーダーで先手を取ったが……

アメリカの強力打線を止められず……

アメリカ優勝! 史上初の3連覇は夢と消えた
アメリカを頂点に強化の流れは変わりつつある
日本はこれ以上ない戦いで準優勝を勝ち取った


●決勝トーナメント/ゴールドメダルゲーム(ファイナル/優勝決定戦)

  1 2 3 4 5 6 7
 日 本 1 0 0 0 0 0 0 1
 アメリカ 0 2 0 0 1 0 x 3
(日)●安福(1回2/3)・片山(2回2/3)・安福(1回2/3)−峰(6回)
〔二塁打〕山本

 史上初の「大会3連覇」に王手をかけた日本は、昨日のセミファイナルで敗れたアメリカと再戦。昨日の対戦ではアメリカのエース・ブリグナックに散発4安打・10三振を奪われ、完封負けを喫しているだけに、矢端信介ヘッドコーチは、イチかバチかの「バクチ」に打って出た。
 今大会当たっており、意外性のある森を1番に起用。3番・山本を2番に入れ、3番・蔭山、4番・峰、5番・林と続く、「超攻撃型打線」を組んだのである。その「バクチ」がいきなり当たった。
 先攻の日本は初回、一死から2番・山本がレフト前に上がる飛球を放つ。この打球に対し、レフト・ラストラペスが猛然と前進。最後はダイビングキャッチを試みるがおよばず、打球をはじく間に山本は二塁へ進塁(記録は二塁打)。3番・蔭山が初球を叩き、痛烈な打球がファースト・ハフを強襲。これをはじき、焦って一塁へ送球するとベースカバーに入ったセカンド・ハンセンと打者走者・蔭山が一塁で交錯。この送球が逸れる間に二塁走者・山本が一気にホームイン。日本が先取点を奪った。
 日本の先発は安福。今大会8試合目の登板であり、すでに投球回数は36回1/3。決勝トーナメントに入ってからの4試合はすべて先発を務め、日本の躍進を支えてきた。この左腕に日本はすべてを託した。
 その安福にアメリカの強力打線が襲いかかる。初回の二死三塁は何とか凌いだものの、2回裏には、5番・ハリソンに右中間を破られ、これは日本守備陣の見事な中継プレーで三塁寸前タッチアウトにしたものの、4連投の疲れか、二死から7番・ハフ、8番・ブリグナック、9番・メジャ、1番・ラストラぺスに怒濤の4連打を浴び、2点を失い、逆転を許し、マウンドを片山に託した。
 日本はその直後の3回表、一死から2番・山本がライト前ヒット。3番・蔭山のセカンドゴロを一塁走者・山本にタッチにいったセカンド・ハンセンが落球。チャンスが広がったかに見えたが、これが守備妨害の判定。二死となり、4番・峰が四球を選び、一・二塁とした後、5番・林の5球目にダブルスチールを敢行。これもスチール成功に見えたが、二塁走者・蔭山が三塁をオーバーランし、ベースを離れたと判定され、結局タッチアウト。惜しいチャンスを逃した。続く4回表には、6番・伊藤、7番・益田の連打で一死一・二塁とし、アメリカのエース・ブリグナックをKOしたが、リリーフしたシュレーダーに後続を断たれ、無得点。5回表にも2番・山本、3番・蔭山の連打で一死一・二塁のチャンスを作るが、4番・峰、5番・林が凡退。どうしても得点を奪うことができない。
 一方、アメリカは5回裏、2番。ハーバーがショートゴロエラーで出塁し、無死二塁。3番・ハンセンのセーフティーバントで一死三塁となったところで、日本は中継ぎで好投していた片山から再び安福にスイッチ。安福は4番・ヴィファーズを四球で歩かせ、5番・ハリソンをショートゴロに打ち取ったものの、併殺崩れの間に三塁走者が生還。逆に追加点を奪われてしまった。
 日本はそれでも必死に食い下がり、6回表にもこの回先頭の6番・伊藤が、代わったばかりの3番手・シスクから痛烈な当たりのレフト前ヒット。7番・益田のショートゴロで走者が入れ替わったが、8番・野木がしぶとく三遊間を破り、一・二塁。しかし、ここも9番・椀田が三振、1番・森が粘りに粘り、「何か」を予感させる雰囲気はあったが、惜しくもショートゴロ。続く7回表も2番・山本が四球で出塁し、3番・蔭山は自分も生きようというセーフティーバント(記録は犠打)。一死二塁とし、4番・峰の一打に期待がかかったが、粘った末に見逃し三振。今大会首位打者(予選リーグの成績で決定)・林のバットに望みを託したが、レフトフライ。この瞬間、大会史上初の3連覇は夢と消えた。
 「未完成のチーム」日本は、一戦ごとに力をつけ、成長を続けてファイナルまで辿り着いた。その戦いは観る者を魅了し、今大会で一番大きな拍手が送られたのは紛れもなく日本だった。若き17名の選手たちの戦いは賞賛に値するものであった。
 しかし、それでも勝てなかった。最後はアメリカを慌てさせ、追いつめはしたが、少なくとも「ディフェンディングチャンピオン」と「チャレンジャー」の構図は逆転していた。105〜110km/hを常時記録する球威・球速を誇り、もちろんキレ味鋭いライズ、ドロップを自在に使いこなす投手を4人も5人も揃えていたアメリカ。1番から9番まで全員がオーバーフェンスできるだけのパワーを有し、しかも決して打つだけでなく、バントやスラップ、ヒットエンドランに盗塁と、どこからでも得点できる能力を兼ね備えた打線。日本ほどの華麗さはないが、実に基本に忠実で堅実な守備陣。日本の守備力は「世界一」と評されるが、技術だけでなく、ボールに向かう闘争心や集中力を加味すれば、それさえも最早アメリカが上回っているかもしれない。
 これは何もアメリカだけに限ったことでなく、3位のオーストラリア、4位のベネズエラ、5位タイのカナダのエースピッチャーは軒並み105〜110km/hを記録し、変化球もキレ味鋭く、実に多彩な球種を有していた。一方、日本の投手陣はほとんど90km/hの後半。100km/hを超えることは稀で、コントロールと緩急を武器に戦うしかなかった。
 今大会で好投し、日本の「エース」となった左腕・安福も球速は90km台。もちろんスピードだけがピッチングではないことを、この安福のピッチングが証明してはいるが、打者にとってもっとも対応しづらく、嫌なのは「速いボール」であることは間違いない。このレベルのスピードを記録できるのは、「世界最速」であり、「世界一の投手」である日本代表のエース・上野由岐子(ルネサス高崎)を除けば、代表クラス、日本リーグクラスでも数えるほどしかいないのではないだろうか。
 今のところ、諸外国の強化策は、投手力と打撃に特化した強化策が主流となっており、それだけの投手力とパワー溢れる打線を有するオーストラリアが、日本の小技と機動力で守備から崩され、大敗するようなケースもあった。だが、これである程度守備力が整備されたら、日本の「お家芸」も通用しなくなってしまう可能性がある。また、実際にオーストラリア戦では、日本が大差でリードを奪っていながら、点差ほどの余裕はなかった。いつどこで爆発するかもしれないそのパワー、長打力に脅えながら試合をしていたのが現実である。
 世界のソフトボールの技術傾向、強化傾向は確実に変わりつつある。投球距離が12.19mから13.11mに延長されたことが、それに拍車をかける。少なくとも日本が今まで追い求めていたのとは違う方向に。今大会では、まだ日本のソフトボールが世界に通用することが証明された。しかし、4年後は、あるいは代表レベルでは……。たとえ今大会で史上初の3連覇を達成していたとしても、その偉業がすべてを解決してくれる「特効薬」にはならなかったであろうことを認め、受け止めなくてはならない。
 今大会での戦いは賞賛に値するものであり、連覇は途切れたとはいえ、胸を張れる結果である。内容的にもこれ以上できないほど、すべての手を打ち、考え得る対策はすべて講じた。JISS(国立スポーツ科学センター)のサポートもあり、相手チームの情報収集や戦力分析、それに基づく戦術・戦略の構築にも抜かりはなかった。だが、それでも勝てなかったという現実を直視しなくてはならない。もう「マイナーチェンジ」の繰り返しでは追いつかない。「フルモデルチェンジ」を断行しなければ、いずれ世界では戦えなくなってしまう。選手たちが懸命にボールを追い、必死の戦いを繰り広げ、勝利を重ね続けたその傍らで、言い知れぬ危機感と恐怖感が心の奥底に忍び寄り、消すことができずにいる。
 
●決勝トーナメント/ゴールドメダルゲーム(ファイナル/優勝決定戦)
 アメリカ戦スターティングラインアップ

 1番・DP     森 さやか(東京女子体育大)
 2番・サード    山本  優(ルネサス高崎)
 3番・センター   蔭山 遥香(レオパレス21)
 4番・キャッチャー 峰  幸代(ルネサス高崎)
 5番・ライト    林  佑季(日立ソフトウェア)
 6番・ファースト  伊藤 綾香(レオパレス21)
 7番・レフト    益田沙弥香(ルネサス高崎)
 8番・セカンド   野木 あや(デンソー)
 9番・ショート   椀田 安紀(佐川急便)
 DEFO(ピッチャー)安福  智(シオノギ製薬)
 ※選手交代
 2回裏 安福OUT→片山 由希(デンソー)IN ※投手交代
 4回表 伊藤OUT→田邊奈那(環太平洋大)IN ※代走
 4回裏 田邊OUT→伊藤 綾香(レオパレス21)IN ※ファーストにリエントリー
 5回裏 片山OUT→安福  智(シオノギ製薬)IN ※ピッチャーにリエントリー