矢端氏は、2007年の第8回世界女子
ジュニア選手権でもヘッドコーチを務めた


世界女子ジュニア選手権では
準優勝という成績を残している

2007年の第8回世界女子ジュニア選手権に
続き、コーチを務める富岡氏(写真右端)


有住コーチ(写真左)、池田総務兼マネージャーは
指導者としてはもちろん選手としてのキャリアも十分!


ヨーロッパの地にソフトボールの魅力を伝えたい!

出てこい! 新たなスター!!

ジュニア世代では、圧倒的な強さを誇る日本。
この才能、素質を大きく育てていかなければ……

U16の初代ヘッドコーチに就任した
矢端信介ヘッドコーチ(写真右)
その「手腕」に期待は高まる

 今回初めて新設された「女子U16日本代表」のカテゴリー。これは、8月9日(日)〜16日(日)、チェコ・プラハで開催が予定されている「ISF イーストン・ファンデーション・ユースソフトボール・ワールドカップ」に出場するために編成されたチームで、大会には、日本をはじめカナダ、中国、チェコ、ドミニカ、イタリア、オランダ、プエルトリコ、ロシア、ベネズエラ、ジンバブエ、南アフリカの12カ国の参加が予定されている。
 ISF(国際ソフトボール連盟)は、現在、2016年に開催されるオリンピックで、ソフトボールをオリンピック競技に復帰させるために、「Back Softball 2016 Olympic Games」と銘打った復帰活動を推し進めているところであるが、この「ISF イーストン・ファンデーション・ユースソフトボール・ワールドカップ」をヨーロッパで開催することで、ソフトボールという競技が持つ魅力や楽しさ、面白さを大いにアピールし、ソフトボールのオリンピック競技につなげたいという狙いもある。
 その意味では、ただ単に大会へ参加するだけでなく、さらには「勝つ」「優勝する」といったことだけでなく、野球・ソフトボールといったスポーツになじみが薄く、思うように普及が進まないヨーロッパで開催されるこの大会で、「女子U16日本代表」がいかに戦い、何をアピールしようとしているのか、大いに注目が集まるところである。
 この「ISF イーストン・ファンデーション・ユースソフトボール・ワールドカップ」で「女子U16日本代表」の指揮を執る矢端信介ヘッドコーチ(とわの森三愛高校女子ソフトボール部監督/(財)日本ソフトボール協会選手強化本部会・女子強化委員)に話を聞いて見た。



Q1.今回初めて新設された「女子U16日本代表」のカテゴリー。初代ヘッドコーチに就任が決まり、チームを率いることになったわけですが、まず新設された「ISF イーストン・ファンデーション・ユースソフトボール・ワールドカップ」への意気込みをお聞かせください。

 今回、初の試みとして新設された「女子U16日本代表」のカテゴリーは、「ISF イーストン・ファンデーション・ユースソフトボール・ワールドカップ」への参加が大きな目的の一つではありますが、それだけではなく、かねてから提唱されてきた「一貫指導システム」構築のための欠くことのできない「第一歩」であり、現在すでに実施されている「NTS(全国女子ジュニア育成中央研修会)」との効果的な連携を図ることで、強化システムの基礎を築くことができるのではないかと考えております。
 その意味でも、このカテゴリーの初代ヘッドコーチを拝命したことは、非常に名誉なことですし、それ以上に「責任の重さ」を感じています。

Q2.今大会での「目標」をお聞かせください。

 「日本代表」を率いて大会に参加する以上は、「優勝」「世界一」が目標となるのでしょうが、この世代においては、大会での結果以上に、国際大会を経験し、広い世界を知ることが、何よりも重要だと感じています。
 勝負の世界である以上、勝つことにこだわらないわけにはいかないのですが、この段階では、言葉も通じない、文化・生活習慣も違う、異国の地で大会に臨み、「ソフトボール」という唯一の共通点を頼りに、人種や民族の違いを乗り越え、あるいは国境という壁を突き破り、世界中のソフトボールプレーヤーと触れ合うことは、何物にも代え難い経験・財産になると思いますし、世界のソフトボールとはどんなものなのかを肌で感じ、その目で確かめることは、この世代の選手たちにとって、その将来に与える影響は計り知れないほど大きなものがあると考えています。
 また、大会の開催地が、ヨーロッパ(チェコ・プラハ)であることを考えれば、オリンピック競技復帰を実現させるためにも、U16とはいえ、この競技が持つ真の魅力や楽しさ、面白さを、一人でも多くのヨーロッパの人たちに伝えることができるよう、選手・スタッフ力を合わせて頑張ってきたいと思っています。

Q3.その上で今回の選手選考会では、どのあたりに選考基準を置き、どんなチームを編成したいとお考えでしょうか? また、コーチングスタッフの人選についてもお聞かせください。

 選手選考においても、この大会で勝つこと、優勝するといったこと以上に、選手の「将来性」という部分を重視して選考を行いました。この時点で完成している選手というよりは、将来大きく伸びる可能性のある選手、将来の日本のソフトボールを背負って立つような素材・人材を求めました。
 コーチングスタッフにつきましては、日本体育協会のコーチ以上の資格を有していることを前提条件とし、前回の世界女子ジュニア選手権(2007年/オランダ・エンスヘーデで開催)の際に、コーチを務めてくれた富岡智氏(滑川高/富山県)、自身も男子日本代表として世界選手権3位(1996年/アメリカ・ミッドランドで開催)、準優勝(2000年/南アフリカ・イーストロンドン)という輝かしい実績を持つ有住隆氏(上山明新館高/山形県)にコーチを依頼し、総務兼マネージャーの池田紀子氏(須磨ノ浦女子高/兵庫県)も現役時代には、園田学園女子大、日本電装(現・デンソー)で投手として活躍。1986年には日本リーグの最優秀投手賞に輝き、各種国際大会に「日本代表」の一員として派遣されるなど、豊富な選手経験・指導経験を持っています。
 私自身だけでなく、このコーチングスタッフの選手としての経験、指導者としての選手育成、チーム強化のノウハウを惜しみなく注ぎ込み、将来性豊かな選手たちに、進むべき道筋をしっかりと指し示すことができるようにしていきたいと考えています。

Q4.今回の「女子U16日本代表」では、ただ「勝つ」「優勝」するといった結果だけではなく、ヨーロッパでの開催となるだけに、ソフトボール競技が持つ魅力や面白さ、楽しさといったところをアピールし、「Back Softball」活動やヨーロッパ・アフリカへの普及といった役割も求められると思いますが、このあたりについてはいかがでしょうか? その一方で、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランドといった強豪が参加していないことについてどう思われますか?

 この大会を本当の意味で成功させ、「Back Softball」のためのPRにしたいと真剣に考えているとするなら、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランドの不参加は理解しがたいものがあります。また、ISF(国際ソフトボール連盟)が、どのように位置づけ、どの程度真剣に臨んでいたのか、疑問が残る部分があります。
 このソフトボールという競技の魅力を伝え、「Back Softball」につなげたいというのであれば、よりレベルの高いチームが集まり、魅力あるソフトボールを展開することが必要です。昨年の北京オリンピックがあれだけの注目を集めたのは、日本の選手たちの懸命の戦いが金メダルの獲得に結びついたことが大きな要因であることは間違いありませんが、アメリカ、オーストラリアといった強大な敵が日本の前に立ちはだかり、金メダルをかけて死闘を演じたことが、より多くの人々の心を動かし、大きな感動を与えることができたのだと思います。
 その意味では、これだけ「Back Softball」を唱えながら、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランドを大会に参加させることができなかったISFの指導力には疑問が残りますし、日本にはISF副会長でもある日本協会・尾崎正則専務理事がおりますから、そこを窓口として、もっともっと強力にプレッシャーをかけ、「Back Softball」実現のための働きかけ、活動を行っていかなければならないのではないかと思います。

Q5.矢端ヘッドコーチは、前回の世界女子ジュニア選手権(2007年/オランダ・エンスへーデで開催)で、U19日本代表のヘッドコーチを務め、準優勝という成績を残しておりますが、そのときと今回と違いはあるでしょうか? 違いがあるとすれば、どのような点で違いがあるとお考えでしょうか?

 前回の世界女子ジュニア選手権では、史上初の大会3連覇もかかっており、ある程度結果を求められる立場にあったと思いますが、今回は先ほどから述べているように、結果以上に「世界のソフトボール」というものを選手たちに肌で感じさせ、国際大会というものを経験させることに大きな意味があると思っています。
 また、選手への指導法にしても、目先の結果にとらわれるのではなく、将来その選手が大きく伸びていくための、世界の舞台で通用するような選手となるための、指導を施すことが第一で、目先の勝利や優勝という結果にこだわらず、この世代の選手たちが世界の舞台へ羽ばたいていくための第一歩を踏み出させてあげられるような指導を心がけたいと思っています。

Q6.前回の世界女子ジュニア選手権もヨーロッパでの開催でした。大会の雰囲気や運営、参加国の取り組み等で印象に残っている部分はございますか? また各種国際大会における技術的な傾向や日本との差異などを感じる部分はどういった部分でしょうか?

 前回の世界女子ジュニア選手権は、オランダでの開催でしたが、思った以上に観客も多く、また地元のクラブチームなどでも海外から指導者を招き、強化に励むなど、こちらが予想していた以上にソフトボールが盛んで熱心な取り組みを行っている印象がありました。
 また、どのクラブチームの施設にも、必ずちょっとしたクラブハウスがあり、そこでお茶を飲みながら談笑したり、夜ともなれば、バーコーナーもオープンして、ビールを飲みながら試合を観戦したり、その日のゲームのことを語り合ったり、スポーツが一つの「文化」としてしっかり根付き、そこを社交場・交流の場として、心からスポーツを楽しんでいる姿が印象に残りました。そこには、ただただ試合の勝敗だけにこだわるのではなく、いったん試合が終われば、ともにその競技を愛し、スポーツをこよなく愛し、楽しみ、人生を豊かにしている。そんな姿が強く印象に残っています。
 技術的な傾向については、ジュニア世代でありながら、大会の上位に食い込んでくるチームのエースクラスはMAX110km/hを超える球速を誇り、特にボールの「回転」を意識した指導に重点が置かれ、切れ味の鋭いライズ、ドロップを操る投手がほとんどであったことに衝撃を受けました。投球距離(投・捕間の距離)が13.11mに変更され、実施された初めての大会であったこともあり、投手育成の国際的な傾向としては、細かいコントロールや緩急で勝負するのではなく、たとえど真ん中でも打者を空振りさせることができるような切れ味の鋭い変化球、あるいは打者を力で抑え込む球威、こういったものを重視し、実際それを追い求めるハッキリとした姿勢・指導方針が感じられました。
 日本では、日本リーグのトップクラスの投手でも100km/hを超える投手は残念ながら稀で、投手の指導法・育成法については、根本的な発想の転換の必要があるように思います。
 また、打撃面でもしっかりと振り切り、一発で試合を決めてしまうようなゲームプランが主流で、日本の打者のスイングのメカニズム・身体の使い方とは異なり、「上から叩く」とか、「ダウンスイング」といった発想はないように見受けられました。
 また、日本のようにまず守備を固め、投手を中心とした守備で「守り勝つ」といった考え方はないように見えました。確かに、特にジュニア世代では、まだ守備も整備されておらず、戦術的にも未成熟で、日本のように機動力や小技を絡めて守備から揺さぶられると弱い面はありましたが、日本のように守備を鍛えて失点を少なくするという考え方ではなく、強力な投手力を前面に出し、「打者を三振に取ってしまえば守備は必要ない」「投手力を強化して難しい打球を飛ばさせなければよい」といったアプローチが主流であるように感じました。
 ある意味で、大雑把ではありますが、日本人のような勤勉さ、きめ細かさ、繊細さを持ち合わせていない以上、苦手な部分には目をつぶり、自分たちの特徴であるパワーを前面に出し、それに磨きをかけることで弱点を覆い隠してしまえというやり方は、合理的でもあると感じました。
 実際、試合では日本独特のソフトボールが相手守備陣を混乱に陥れ、準優勝という成績は残すことができましたが、優勝したアメリカに対しては、完全に「力負け」の感がありましたし、その他の国との対戦でも、何点リードしていても、「一発で流れを変えられてしまうのではないか」「ランナーをためて一発を食らったら」と考えると、勝っている気がしないというか、ある種の強迫観念、一発による恐怖感は常についてまわっていたように思います。

Q7.日本のソフトボールは昨夏の女子日本代表の北京オリンピックでの金メダル獲得に代表されるように、各カテゴリーで輝かしい成果を収めています。今後もこの流れは続いていくと思われますか? また、国際的な競技競争力を維持し、国際的な技術的潮流の中で、日本のあるべき姿とはどうあるべきか、お考えがあればお聞かせください。

 前述した通り、世界の技術的な潮流・考え方というものは、かなり日本とは異なってきているように感じます。
 日本独特の試合運びや技術がものをいう局面もありますが、ある程度パワーやスピードにおいても対抗できないと、「力でねじ伏せられる」試合が多くなることも考えられます。
 もちろん、そもそも体格やパワーに劣る日本が、機動力や小技、相手との駆け引きなどに活路を見出してきたわけですから、その部分は生かした上で、少しでも相手とのパワー、スピードに対応する術を考えなくてはなりません。
 そのためには、従来の延長線上ではなく、一度すべてを白紙に戻し、根本的に発想の転換を行うぐらいの「覚悟」が必要になるかもしれません。栄光に輝く今だからこそ、次なる準備を用意周到に行っておかないと、気がついたときには、国際的な競争力を失い、世界のレベルから取り残されてしまう恐れもないとはいえません。
 そのための準備を今からはじめておくべきだと強く感じています。

Q8.私たちが期待する通り、2016年のオリンピック競技復帰が実現するとすれば、そのとき、「日本代表」の骨格を担うのは、今ここにいる「女子U16日本代表」の選手たちになると思われます。その選手たちに何を期待していますか? また、その選手たちに一番求めたいものは何でしょうか?

 ここで選ばれた選手たちは、本当に将来有望で、将来が楽しみな選手たちばかりです。日本のソフトボールにとって「宝」のような選手たちですから、大切に育てていかなければならないと、大きな責任を感じています。
 どうかこの大会を通じて、世界を知り、その世界の舞台で通用する選手になれるよう、試合の勝敗だけではなく、様々な経験を積んでほしいと願っています。
 また、選考会のときに、「私は上野選手を超える選手になってみせます!」「上野選手よりすごい選手になります!!」と、ハッキリと口にする選手が多数いたことも、嬉しいことでした。彼女たちの心意気は頼もしく感じましたし、その決意を忘れることなく、日々努力を重ねていってほしいものです。この世代から上野選手を超えるような「新たなスター」が出現することを心から期待していますし、また、そんな選手を一人でも多く育てていかなければ、ソフトボールに明るい未来はないと思います。世界でも有数の競技レベルを維持し、常に「世界一」を争うポジションに居続けたいと思うなら、何よりも次世代の選手たちの育成に力を注いでいくべきではないでしょうか。そして……そんな彼女たちの純粋で熱い想いに応えるためには、何としても「Back Softball」を成し遂げなくてはならないと思っています。