この事業は2001年に公益財団法人日本オリンピック委員会(JOC)が策定した「JOC GOLD PLAN(国際競技力向上戦略)」に沿う、「一貫指導体制」によるジュニア期からの優秀選手の発掘・競技者育成を目的として実施されているものであり、今回で11回目の開催となった。
この研修会では、選手に対し、励ます・褒める・楽しむ等、「やる気を出させること」を最優先に、選手に楽しく指導しながら育成することを理念とし、その一方で、「NTS優秀選手」17名を選出するため、指導の傍ら、選考委員からは技術面はもちろん、日本を代表する選手としてふさわしい言動・態度をしているかなど、厳しい目が向けられる一幕もあった。
NTS優秀選手に選ばれた17名は、選抜チームを編成し、公益財団法人日本ソフトボール協会(JSA)が強化事業として行っている、「NTS女子中学生台湾遠征(平成27年1月17日/土〜22日/木)」を実施し、「将来の日本代表」を想定した、ジュニア世代のさらなる強化を図ることになっている。
研修会当日には、全国9ブロック(北海道、東北、関東、北信越、東海、近畿、中国、四国、九州)各地区より選出された6名の選手、計54名と、強化推薦6名(全国中学校大会等を協会員が視察し、推薦)をあわせた計60名の選手がこの事業に参加し、4日間の研修がスタートした。
研修会では、研修がはじまる前に大石益代、田中亜香里、石川春奈トレーナーによるウォーミングアップの指導がされ、ケガの予防として、また、万全な状態で身体を動かせるよう入念にストレッチ。例年、体力測定の遠投で、肩や肘の痛みを訴える選手が多いことから、特に肩周りの動きを重点的に、ウォーミングアップを行った。
初日にはまず、選手全員で体力測定が行われ、今回も船渡和男講師(日本体育大学大学院教授)を中心に、高橋流星講師(日本体育大学助教)を含めた日本体育大学トレーニング科学系研究生が測定をサポートし、NTS代表委員・NTS委員・日本中体連スタッフ指導のもと、選手たちが現在どの程度の能力があるのかをチェック。船渡和男講師からは、「全力を出すことは大切だが、ケガがないように十分注意してほしい」と呼びかけられ、測定がスタート。測定項目は、身長・体重などの身体組成や、柔軟性、筋力などに加え、遠投力、30mダッシュ、反復横とび、立ち幅とび、メディシンボール投げなど、フィールドテストも実施。測定後は、個人のデータを集計し、数値化。それを選手たちにフィードバックさせることで、自分の長所、短所を確認した。
また、今回で11回目を迎えたことで、過去のNTS優秀選手のデータとの比較もされ、優秀選手と比べ、自分に足りない部分を理解することで、今後どのように強化していくべきかを考える機会にもなった。
研修は実技のみならず、座学も実施。夕食時にはJISS(国立スポーツセンター)の石井美子管理栄養士が今年も講師として参加。食事はビュッフェ形式となっており、選手たちが思い思いに料理を選んでいく中、石井美子講師はその様子を見ながら、食事のバランスをチェック。その後の講義では、ソフトボール選手のための栄養について、身体作りの基本ともいえる食事の重要さを指導。ビュッフェ形式の食事で料理を選ぶコツや、女性アスリートの身体作りについて、栄養の視点から女性アスリート特有の問題点を挙げながら講義が行われた。石井美子講師は、「今はまだ、食事を親に用意してもらっている段階かもしれませんが、将来的には自分で食事を作ったり、摂ったりするようになります。その時、バランスを考えた食事ができるよう、自立できるようになってください」と、自分自身で「アスリートとしての食事」を考えることの大切さを選手たちに伝えた。
研修2日目は、ボールやバットを使った実技研修となった。午前中は、バットのスイングスピードの計測と並行して、守備の基本動作を指導。すべてのプレーの基本となるキャッチボールの基礎を学んだ後、ポジションごとの研修に入った。
投手の研修では、投球フォームの見直しから入り、どのポイントで力を込めれば、強く、速いボールが投げられるか、という点を理論的な視点から指導が行われたが、投球フォームをいきなり変えるのは難しいのか、悪戦苦闘する様子が見られた。また、現在男子日本代表ヘッドコーチも務める西村信紀技術副委員長が今年も選手の指導にあたり、実際に投球を行いながら、技術的なポイントをレクチャー。選手たちは、少しでもその投球に近づこうと、真剣な眼差しで指導を受けた。指導後には、スピードガンによる球速の測定も行われ、球速と同時に回転、回転数などもチェックされた。また、スーパースローカメラを利用し、全体のフォーム、ボールをリリースする際の手、指先の動きも確認した。西村信紀講師は「正しいフォーム、合理的な身体の使い方を身につけることで、もっと伸びる選手がいる。ここで学んだことを持ち帰り、自分なりのステップアップにつなげてほしい」と、アドバイスした。
野手の指導には特別講師として、今年8月にオランダ・ハーレムで開催された「第14回世界女子選手権大会」で連覇、9月に韓国・仁川で行われた「第17回アジア競技大会」で4大会連続金メダル獲得という偉業を成し遂げた、「女子日本代表」のメンバーである西山麗選手、山田恵里選手(ともに日本女子1部リーグの日立に所属)が、昨年に引き続き、今年もこの研修会を訪れ、参加した選手たちに「お手本」を示し、自ら指導する場面も見られた。「ソフトボール界の大スター」を前に緊張しながらも、熱心に指導を受ける姿からは、「いつか私も西山選手、山田選手のようになりたい!」という熱い思いが感じられた。
内野手、外野手の指導では、共通して捕球の際の足運び、スローイングを念入りにチェック。捕球してからどうステップをすればスムーズに送球できるか、捕球してからのスローイングまでの注意点は何か、などをNTSスタッフや西山麗選手、山田恵里選手が実際にお手本を見せながら指導を行った。どのようなプレーをするにも「基本に忠実」であることが重要であり、教わったことはやってみる、わからなければ知ったかぶりをせず、恥ずかしがらずに素直に質問し、疑問を残さず、解消できることが成長につながる、と技術を伸ばしていくためには、心の素直さや謙虚な姿勢も大切であることが伝えられた。
午後には、守備研修の「総まとめ」としてシートノックを行い、午前中指導された守備の基本を、実際に打球を処理する際にどう応用していけばいいかを学ぶ研修となった。その後、打撃の基本技術が指導され、フリーバッティング、ティーバッティングの中で、基本的な構え、理想的なバッティングフォームについて、その基本となる動きや留意点が指導され、また、正確にボールをとらえるにはどのような点について注意すればよいかなど、バッティングの基本技術が伝授された。
宿舎に戻り、夕食を済ませたあと、大石益代トレーナーによるウォーミングアップ・クーリングダウンについての講義が行われた。開講前には、女子日本代表の北京五輪当時のトレーニングの映像が流され、選手たちはその激しいトレーニング風景に驚きの声を上げていた。講習ではウォーミングアップ・クーリングダウンの役割や重要性について研修。どんな運動をするにも「準備」が必要であり、ウォーミングアップによって運動をする「意識」を高めることで、ケガのリスクを減らし、ハードなトレーニングにも耐えることができ、それが自らの成長につながっていくと説明した。また、疲労が溜まることでケガにつながりやすいことも指摘。その日の疲れを蓄積させることなく、身体のケアを行い、回復に努めることがトレーニングや練習の効果を高めることにつながるということが改めて強調された。選手たちは自己管理の意識を持ち、身体を動かす準備の段階から自らの体調を把握し、万全な状態でトレーニングに励むことが「アスリート」にとって大切であり、日々の練習の効果・効率を高めることになるのだということを研修した。
研修3日目・4日目は実戦形式による研修が行われ、60名の選手をA、B、C、Dの4つのチームに分け、試合を行った。ここでは、場面に応じた状況判断ができているか、これまでに学んだ基礎・基本が身についているかなど、技術面はもちろん、向上心、判断力、将来性がチェックされた。投手では、ドロップ回転のボールを主体とした「打たせて取る」選手や、昨年のNTS最高球速となった103km/hに並ぶ選手も現われ、講師陣は、「それぞれの個性がこの研修を経てどのように成長していくのか、とても楽しみ」と、期待を膨らませていた。打撃面でも、ボールを的確にとらえ、長打を連発する選手もおり、研修で身につけた技術を試合の中で存分に発揮していた。とても中学生とは思えない、「高校生にも負けないようなプレーをしている」と、今回の参加者のレベルの高さに驚きを見せる場面もあった。
今回で11回目の開催となった全国女子ジュニア育成中央研修会。NTS代表委員・NTS委員・日本中体連スタッフ共通理解のもと、第1回から構築されてきた「一貫指導システム」は、年々内容を充実させており、ジュニア世代の技術の向上に貢献している。また、今回も参加いただいた北京オリンピック金メダリストで、いまだに「現役・日本代表」として活躍を続けている西山麗選手、山田恵里選手との交流では、トッププレイヤーの姿を夢見る選手たちにとって、その存在を間近に感じることができる貴重な経験ともなった。
この研修会のもう一つのテーマである「優秀選手の発掘」については、今回も優秀選手17名による、台湾遠征が決まっている。選手たちにとって、ジュニア世代の段階から「国際経験」を積み、海外遠征を通じて生活環境の違いや、文化・言葉の違いなどを経験することも「大きな財産」になることは間違いない。
2020年東京オリンピックでの女子ソフトボールのオリンピック競技復帰が実現すれば、今回ここに集った選手たちの中から「オリンピック代表選手」が出る可能性もある。また、「世界一」に君臨している女子ソフトボールの競技レベルを維持し、保ち続けていくためには、ジュニア世代からの人材発掘と一貫した指導による才能の開花、ダイヤモンドの「原石」を「本物の輝き」とするためには、それに磨きをかけていく作業が必要となる。この「全国女子ジュニア育成中央研修会」がジュニア世代の技術力・競技力の向上とともに、今後の日本ソフトボールを盛り上げていくための事業として、今後さらに発展していくことに期待したい。
平成26年度全国女子ジュニア育成中央研修会(NTS)優秀選手 2015台湾遠征 参加選手団名簿 |
選手 *ポジション別五十音順 |
人数 |
守備 |
氏名 |
支部 |
所属先 |
学年 |
1 |
投手 |
勝股 美咲 |
岐阜 |
瑞浪市立稲津中学校 |
3 |
2 |
〃 |
後藤 希友 |
愛知 |
名古屋市立日比野中学校 |
2 |
3 |
〃 |
佐藤 有紗 |
栃木 |
那須町立黒田原中学校 |
3 |
4 |
〃 |
増田 侑希 |
香川 |
高松市立龍雲中学校 |
3 |
5 |
〃 |
渡辺 聖菜 |
栃木 |
那須町立黒田原中学校 |
3 |
6 |
捕手 |
女鹿田 千紘 |
島根 |
雲南市立大東中学校 |
2 |
7 |
〃 |
山内 早織 |
広島 |
広島市立翠町中学校 |
3 |
8 |
内野手 |
伊波 菜々 |
東京 |
日出中学校 |
3 |
9 |
〃 |
奥田 芽衣 |
三重 |
度会町立度会中学校 |
3 |
10 |
〃 |
川畑 真愛 |
福岡 |
福岡市立三筑中学校
(福岡レッドドリームズ) |
3 |
11 |
〃 |
川村 莉沙 |
岡山 |
岡山市立福浜中学校 |
3 |
12 |
〃 |
工藤 環奈 |
青森 |
平川市立平賀東中学校 |
3 |
13 |
〃 |
妹尾 沙梨菜 |
岡山 |
倉敷市立西中学校 |
3 |
14 |
〃 |
柳谷 穂乃佳 |
北海道 |
札幌市立北都中学校 |
3 |
15 |
外野手 |
植田 きらら |
京都 |
京都市立樫原中学校 |
3 |
16 |
〃 |
川村 莉緒 |
茨城 |
水戸市立双葉台中学校 |
3 |
17 |
〃 |
塚本 蛍 |
佐賀 |
神埼市立千代田中学校 |
3 |
台湾遠征参加スタッフ
人数 |
役職 |
氏名 |
支部 |
所属先 |
1 |
チームリーダー |
渡辺 祐司 |
京都 |
京都市立樫原中学校 |
2 |
ヘッドコーチ |
吉田 央 |
鳥取 |
北栄町立北条中学校 |
3 |
アシスタントコーチ |
田本 博子 |
京都 |
京都市立嵯峨中学校 |
4 |
トレーナー |
大石 益代 |
|
(公財)日本ソフトボール協会 |
5 |
総務 |
藤井 まり子 |
|
(公財)日本ソフトボール協会 |
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