去る8月4日(木)、日本時間の午前4時46分、ブラジル・リオデジャネイロで行われていたIOC(国際オリンピック委員会)の総会で、2020東京オリンピックにおける5種目18競技の追加が正式に決定。野球・ソフトボールのオリンピック競技「復活」が現実のものとなった。
この正式決定前から、すでに2020東京オリンピックに向けた強化計画『Road to Tokyo』に着手し、「Target Age Project-TAP」をスタートさせている公益財団法人日本ソフトボール協会選手強化本部会が、今度は「ジュニア世代」の本格強化に乗り出し、「新たな強化システム」となる「GEMプロジェクト」を立ち上げた。
今回は、その「GEMプロジェクト」について、三宅豊選手強化本部長、矢端信介選手強化副本部長にお話を聞かせていただいた。
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この「GEMプロジェクト」とは、いったいどんなプロジェクトなのでしょうか?
三宅豊選手強化本部長(以下、三宅) 「Target Age Project(TAP)が2020東京オリンピックを見据え、直接それに該当する世代、2020年に日本代表の『骨格』を担い、中心となるであろう選手たちを対象としたプロジェクトであったのに対し、『GEMプロジェクト』は、日本の女子ソフトボールの強化の『土台』となる将来的な人材の発掘・育成・強化をめざした「ジュニア世代」を対象としたプロジェクトとなります」
矢端信介選手強化副本部長(以下、矢端) 「『GEM』という言葉には、宝石の『原石』、逸品、大切なものといった意味合いがあります。本協会にとって、ソフトボールという競技にとって、その未来を担っていってくれる子どもたち、ジュニア世代の選手たちは、私たちにとってまさに『宝』といえます。その選手たちを、それこそ大切に育て、磨きをかけ、日本のソフトボールの未来を担う存在になっていってもらいたい、との願いを込め、『GEMプロジェクト』と名付けました」
三宅「日本の女子ソフトボールは、現時点で『世界のトップレベル』にあることは間違いありません。世界選手権3連覇こそ逃しましたが、「エース」上野由岐子選手抜きでUSAワールドカップでは優勝。TAP−A・Bの選手たちも今年2月のオーストラリア遠征ではオーストラリア代表を撃破し、6月のカナダ代表チームの来日時にもカナダ代表チームを圧倒するような試合を見せてくれています。その意味では、2020年へ向けた強化は順調な足どりを刻んでいるといえますが、私たちの真の『目標』は2020東京オリンピックでの金メダル獲得だけでなく、さらに『その先』にあります。2020年の東京オリンピックで『確実に』金メダルを手にすることはもちろんですが、その力・地位を2020年以降も維持し続けていくこと。そのためには『ジュニア世代』の強化は必要不可欠なものであり、2020年以降の日本の女子ソフトボールを支えてくれる人材の発掘・育成・強化に取り組む必要があります」
矢端「2008年の北京オリンピックで悲願の金メダルを獲得し、2012年・2014年と世界選手権連覇も果たしました。2013年のジュニア(U19)の世界選手権も優勝しておりますが、今年7月に開催された『第15回世界女子選手権大会』では3連覇を逃し、ジュニア(U19)も昨年の世界選手権では準優勝に終わっています。いずれも日本を破り、優勝したのはアメリカで、2020東京オリンピックでの金メダル獲得の『最大の障壁』となる『ライバル』が、いよいよエンジンをかけてきたな……という印象もあります。また、我々は2020年を『ゴール』と考えているのではなく、そこがすべての『スタート』だと考えておりますので、常に『世界の頂点』に立ち続けていくために、この『GEMプロジェクト』を立ち上げました」
「GEMプロジェクト」の具体的な内容をお聞かせください。
三宅「ジュニア世代を年代ごとに区切り、『GEM1』(U14/14歳以下、中学1〜2年生対象)、『GEM2』(U16/16歳以下、中学3年生〜高校1年生対象)、『GEM3』(U19/19歳以下、高校2年生〜大学1年生・日本リーグ在籍1年目の選手対象)の強化を行っていくことになります。また、当初構想にはなかった『GEM4』の創設も決まりました。『GEM4』(U23/23歳以下)は主に大学生と日本リーグ所属の同世代の若手選手を対象としており、一般的な『ジュニア』のイメージの中には収まりきらない部分もありますが、TOPチームを頂点とした組織的な強化の連携を重視し、このようなカテゴリーを設定しました」
矢端「『GEM1』(U14/14歳以下)は、従来のNTSを発展的解消させたものと考えていただいて差し支えないと思います。『ステップ1』では、都道府県で書類選考を行い、各都道府県5名以内(※北海道はブロック選考会を兼ねるため、10名を選考)で『ステップ2』となる『ブロック選考会』へ推薦する選手を決定。ここでは、全国9ブロック(北海道、東北、関東、北信越、東海、近畿、中国、四国、九州の9ブロック)で実技選考を行い、各ブロック10名程度を選考。この選手たちが『ステップ3』として、『地区選考会』(東日本地区/北海道・東北・関東、中日本地区/北信越・東海・近畿、西日本地区/中国・四国・九州の3地区)に臨み、各地区10名程度が選考されることになります。ここで選考された34名程度の選手たちが『ステップ4』となる『ブロック別練習会』を当該ブロックで行った上で、『ステップ5』となる『中央選考会』に参加。最終的に将来性有望な17名の選手を決定し、来年年明け早々の台湾強化遠征に派遣します」
三宅「従前のNTSでは、『一貫指導体制』の構築をめざし、指導・研修的な内容を数多く盛り込んでいましたが、これをより『強化』に特化した事業とすべく方向転換を図ったということです。『研修会』ではなく、『選考会』としての内容が色濃くなったと考えてもらえればよいと思います」
矢端「NTSでは、『優秀選手』を選出していましたが、これだとどうしても現時点での完成度の高い選手、走攻守のバランスの取れた選手が選ばれる傾向にありました。一方、この『GEMプロジェクト』『GEM1(U14/14歳以下)選考会』で求めているのは、『将来性』という部分であり、現時点での上手・下手、技術的な巧拙ではなく、飛び抜けて足が速いとか、抜群に肩が強いとか、大きな特徴・個性を持った選手も選考の俎上に上がってくるようにしたいと考えました」
三宅「特に『GEM1』(U14/14歳以下)では、将来的には小学6年生にまで範囲を広げ、場合によってはソフトボールをやっている子だけでなく、他の競技をやっていても、適性や能力のある子をソフトボールに引っ張ってくる……ぐらいのことをやらないといけないかもしれません。少子化が進む現状の中で、いかにソフトボールに興味を持ってもらい、競技人口を増やしていくか、あるいは、素質があり、能力の高い子どもたちをどうやってソフトボールに取り込んでいくか……も考えていかないと。黙っていても多くのタレントが入ってくるという競技ではないと思いますので」
矢端「すでに全日本小学生大会には視察員を送り、チェックしています。ただでさえ、諸外国の選手に比べ、体格やパワーでは劣る……といわれるだけに、人材の発掘は今後の強化を進めていく上で大きなポイントになると思いますし、発想の転換や従前にはなかった着眼点、アイディアも必要になると感じています」
選手の評価基準・選考基準はどういったことを基準とするのでしょうか。
三宅「先ほど、『強化に特化する』といった話をしました。また、より特徴のある、個性ある選手を選びたい、との意向も示しました。しかし、そうなると選考する側の『主観』に左右され、選考基準に各都道府県支部でバラつきが出てしまう恐れがあります。そういったことを鑑み、選手強化本部会でまず『検証的基準』を決定し、これに基づいて選考を行うことに致しました」
矢端「具体的には、過去のNTSで日本体育大学の船渡和男教授の長年にわたる支援・協力により、運動能力テスト(パフォーマンステスト)を実施してきましたので、そこに蓄積されたデータを検証し、50m走は8秒以下(スタートはスタンディング)、反復横跳び50回以上(20秒間での回数)、立ち幅跳び200cm以上(踏切に近い方の足のかかと地点を計測)を設定しました。また、ソフトボール競技におけるパフォーマンスの選考基準として、投手であれば、体格的要素として身長160cm以上、球速90km/h以上、変化球ライズ・ドロップ・チェンジアップを有すること、ティー台を使用しての打撃で50m以上(ゴム3号球/ニューボールを使用)飛ばせることを選考基準に設定し、4項目中2項目は選考基準をクリアしていることを条件としました。捕手では、体格的要素として身長160cm以上、盗塁に対する二塁への送球(捕球から二塁到達の速度)を2秒以内、肩の強さとして遠投50m以上、ティー台を使用しての打撃で50m以上(ゴム3号球/ニューボールを使用)飛ばせることを選考基準とし、投手同様4項目中2項目はこの基準値をクリアしていることを条件としました。野手については、体格的要素として身長160cm以上、肩の強さとして遠投50m以上、ティー台を使用しての打撃で50m以上(ゴム3号球/ニューボールを使用)飛ばせることを選考基準とし、4項目目として、数値化できなかった打球への反応の素早さ、守備範囲の広さを加え、投手・捕手同様4項目中2項目はこの基準値をクリアしていることを条件としました」
選考は誰が行うのでしょうか?
三宅「各都道府県に公益財団法人日本体育協会の公認スポーツ指導員以上の資格を有する『GEM1委員』を置き、公益財団法人日本中学校体育連盟の各都道府県専門委員長(中体連GEM1委員)がその選考に当たります」
矢端「ブロック選考会では各ブロックの『GEM1委員』(各ブロック1名ずつ9名のGEM1委員が選出され、選考委員となる。ブロック選出のGEM1委員は原則として公認コーチ以上の有資格者とする)と公益財団法人日本中学校体育連盟の方から同様に各ブロック1名ずつ9名の中体連GEM1委員を選出していただき、選考にあたっていただきます。地区選考会ではブロックのGEM1委員、中体連GEM1委員に加え、地区担当GEM委員(東日本・中日本・西日本の3地区で各1名の委員を選出)によって選考を行います。『GEM1』最終選考となる『中央選考会』においては、選手強化本部会の強化委員、地区GEM委員(3名)、公益財団法人日本中学校体育連盟GEM委員(ソフトボール専門部長を含む3名)によって選考を行い、台湾強化遠征に派遣する17名を決定致します」
現行の強化体制と大きく変わる点はどこになるのでしょうか?
三宅「まず先ほど述べました通り、NTSが発展的解消され、従前は中学3年生までを対象としていたものが、『GEM1』(U14/14歳以下)では14歳以下が対象となりますので、中学1年生・中学2年生がその対象となります。都道府県での書類選考、全国9ブロックでの実技選考、全国3地区での実技選考を経て、17名の選手が選び出され、例年年明け早々に行っている台湾への強化遠征に派遣されることになります」
矢端「この『GEM1』(U14/14歳以下)で選出・派遣されたメンバーが、翌年の夏、『GEM2』(U16/16歳以下)のメンバーとなり、台湾を日本に招いての強化合宿に参加することになります。この『GEM2』(U16/16歳以下)の強化合宿は、今年8月4日(木)〜7日(日)、『初の試み』として宮崎県宮崎市に台湾U16代表チームを招き、強化試合をメインとした強化合宿をすでに行っています」
三宅「台湾に派遣されたときは『GEM1』(U14/14歳以下)のカテゴリーで、翌年、台湾を迎えるときには『GEM2』(U16/16歳以下)のカテゴリーでの事業参加となります」
矢端「従来のNTSでは中学3年生までを対象としていましたが、そうなると『高校受験』を迎える時期でもあり、中学から高校へと取り巻く環境も大きく変わる時期とあって、強化事業への参加が難しいという問題がありました。実際、受験のために台湾への派遣を辞退するといったケースも出ていたこともあり、対象となる年齢・学年の設定を変更することにしました」
『GEM2』(U16/16歳以下)が台湾を招いて合宿を行ったとのことでしたが、今後、国際大会に派遣する等の具体的なプランがあれば、お聞かせください。
三宅「まず『GEM1』(U14/14歳以下)については、先に説明した通り、昨年までNTSで行っていたような流れで『GEM1(U14/14歳以下)選考会』を行い、年明けに台湾に強化遠征を行います。また、今夏宮崎で実施した強化合宿に、来年の夏、『GEM2』(U16/16歳以下)のメンバーとして参加することになります」
矢端「具体的な大会への参加については、10月15日(土)〜27日(木)、中国・四川省で開催が予定されている『第6回アジア女子ジュニア選手権大会』に『GEM2』(U16/16歳以下)を派遣することが決定しています。この派遣メンバーは、今年3月に開催された『第12回都道府県対抗全日本中学生女子大会』、今年8月の『第16回全日本中学生女子大会』『第38回全国中学校女子大会』を視察し、選手をピックアップする予定です。ただし、『第12回都道府県対抗全日本中学生女子大会』で大会のMVPにあたる『JOCジュニアオリンピックカップ』を受賞した丸山美海選手は、今夏の2大会の視察結果に関わらず、大会へ派遣することを決定しています。また、12月3日(土)〜15日(木)、タイ・チャイヤプームで開催が予定されている『第11回アジア女子選手権大会』には『GEM3』(U19/19歳以下)を派遣します。こちらは従前通り公募による選手選考会を行い、そこで選出された選手を派遣することになりますが、すでにTAP−Aに選出されている勝股美咲選手、TAP−Bに選出されている後藤希友選手は選考を免除し、大会に参加・出場させることが決まっています」
三宅「いずれも『一つ上』のカテゴリーに挑戦することになります。アジア女子ジュニア選手権はU19の大会ですので本来であれば『GEM3』(U19/19歳以下)が参加対象となる大会です。また、アジア選手権は各国の『代表チーム』が集う大会で、当然年齢制限等ありませんが、そこにあえて『GEM3』(U19/19歳以下)を派遣します。現状、アジアのレベルを考えると、日本が各カテゴリーで突出してしまっており、『強化』ということで考えた場合、どれだけの成果があるか、疑問符がつく部分もあります。そこで、それぞれのカテゴリーの『一つ上』のカテゴリーに挑戦し、より厳しい状況で国際経験を積ませ、自分たちより強い相手と戦うことで、心身ともにタフな選手を育てたいと思っています」
矢端「勝股美咲選手、後藤希友選手、丸山美海選手の取り扱いを見てもわかる通り、必ずしも年齢区分によるカテゴリーにあてはめていくだけではなく、素質・能力・将来性が評価されれば、早い段階から『飛び級』的に上のカテゴリーにチャレンジさせ、より多くの国際経験を積ませ、その素質・能力を開花させるべく『ベスト』と思われる柔軟な対応を取っていくことは今後も十分にあり得ます」
「GEMプロジェクト」の成果を期待しております。
三宅「『GEMプロジェクト』は渡辺祐司氏(京都府・京都市立樫原中学校)をプロジェクトリーダー、清水正氏(山梨県・山梨学院大学)をサブリーダーとし、『GEM1』(U14/14歳以下)『GEM2』を松田和広氏(宮崎県・西都市立三納小中学校)が、『GEM3』(U19/19歳以下)を宗方貞梹=i神奈川県・神奈川県立厚木商業高等学校)、GEM4(U23/23歳以下)は清水正氏(山梨県・山梨学院大学)がサブリーダーと兼務する形で各カテゴリーの『リーダー』として取り纏め、プロジェクトを推進してくれています。いずれも実績・経験十分なメンバーがプロジェクトを牽引してくれていますので、全幅の信頼を置いています」
矢端「『GEM2』(U16/16歳以下)を派遣するアジア女子ジュニア選手権には、今回の台湾チームを招いての宮崎合宿でも指導に当たっていただいた渡辺祐司氏にチームリーダーを、松田和広氏にヘッドコーチを、山本かんな氏(京都府・京都市立洛南中学校)にアシスタントコーチを継続してお願いしています。また、『GEM3』(U19/19歳以下)を派遣するアジア女子選手権には、清水正氏にチームリーダーを、宗方貞梹≠ノヘッドコーチをお願いし、アシスタントコーチは、春の選抜、夏のインターハイを制し、『春夏連覇』を達成した佐藤洋介氏(千葉県・千葉経済大学附属高等学校)にお願いしました。必ず『大きな成果』を持ち帰ってくれるものと信じておりますし、特に『GEM3』(U19/19歳以下)は、来年世界選手権を控えておりますから、それを見据えた戦いをしてもらえたら……とも思っています」
三宅「いずれにしてもジュニア世代の強化は、そこが『ゴール』ではありません。あくまでもTOPチームの強化に結びついて初めて意味あるものとなります。そのことを忘れることなく、結果だけにとらわれず、真に世界に通用する技術、力を蓄えさせ、より高く、より大きく、羽ばたいていける選手たちを育てていかなければならないと思っています」
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