第1回学校体育ソフトボール
 全国指導者養成研修会を開催


(2011.8.3)  

第1回学校体育ソフトボール全国指導者
養成研修会が岐阜県羽島市で開催された

ともに「ベースボール型」の普及をめざす社団
法人日本野球機構、社団法人日本プロ野
球選手会が、研修会へ参加・視察を行った

学校体育ソフトボール専用用具もお披露目。
メーカー各社の専用用具を集め、展示された

基調講演を行う丸山克俊氏
(東京理科大学教授)


シンポジウムでは活発な質疑応答、意見
交換が行われ、建設的な議論が熱を帯びた
「学校体育ソフトボール事業を楽しく安全に
実施するのに大切なこと」と題した講演を行
う上條隆氏(群馬大学教授)

「学校体育ソフトボール基本ルール」について
その策定の経緯・内容を解説する丸山教授

学校体育ソフトボールを授業で展開するために…。
学校現場の現状や問題点・課題が話し合われた

2日目は実技研修も実施! グラウンドに出て
「学校体育ソフトボール」の試合を行ってみた

「キャッチボールコンテスト」で盛り上がる!
ベースボール型(ソフトボール)の普及には
「キャッチボール環境」を整えることが大切

「学校体育ソフトボール」授業の単元計画・
指導案作りについても熱心な研修が行われた

白旗和也教科調査官が研修会へ駆けつけ、
「特別講演」。また、その後の「情報交換会」
まで参加し、研修会参加者との交流を深めた

教育委員会との連携について講演する栗山利宏氏
(ぎふ清流国体推進局 総務企画課 課長補佐)

最後はブロック別分科会で、各都道府県の実状・
問題点等が話し合われ、「学校体育ソフトボール」
伝達講習会の実現に向け、熱心な討議が行われた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 










 去る7月27日(水)〜29日(金)の3日間、岐阜県羽島市・羽島市民会館、はしま清流スタジアムを会場に、平成23年度「第1回学校体育ソフトボール全国指導者養成研修会」が開催された。
 この研修会は、(財)日本ソフトボール協会・学校体育ソフトボールプロジェクト委員会が主催するもので(後援:岐阜県、岐阜県教育委員会、羽島市教育委員会、主管:岐阜県ソフトボール協会)、研修会の開催趣旨は、平成24年4月からはじまるベースボール型の必修化に伴い、文部科学省の中学校学習指導要領解説保健体育編には例示としてソフトボールが示されていることから、中学校における保健体育・体育分野(第1学年及び第2学年)では、ベースボール型の授業の中心として全国的にソフトボールを教材とした授業が展開されることを想定し、(財)日本ソフトボール協会が新たに研究・開発を行った、従来のソフトボール以上に学校の教育現場で採り入れやすく、授業展開をしやすい、安全性の高い用具を使用し、誰もが楽しくソフトボールを行うことができる「学校体育ソフトボール」への正しい理解と全国的な普及・展開をめざそうというものである。

 また、現代では、子どもたちの体力水準の低下や「運動する子ども」と「そうでない子ども」の二極化傾向等の指摘を踏まえ、体育授業等学校教育活動を通して体を動かす楽しさや心地よさを経験することにより、運動意欲を高める取り組みが求められている。そのため、本研修会では、子どもの体力向上に資するとともに、ベースボール型の授業の指導法について、指導者として必要な知識や技能の習得を図り、参加者が各地域(ブロック)や都道府県において、本研修会の内容を踏まえた伝達研修会等の講師として活動し、学校体育ソフトボール授業担当者へ指導助言等を行うことのできる資質・能力の向上を図るとともに、「学校体育ソフトボール」の全国的な普及・展開のための「指導者」を育成することを目的として開催された。

 研修会初日(7月27日/水)、まず(財)日本ソフトボール協会・土江和良副会長が挨拶に立ち、「本協会としては、相当な意気込みを持って、この事業に取り組んでいる」と、この事業展開への意気込みを語り、学校体育ソフトボールプロジェクト委員会・豊嶋芳紀委員長は、「ソフトボール必修化は、ソフトボールのさらなる普及のための『ビッグチャンス』であり、この事業の重要性・重大性を鑑み、財務委員会とも協議・交渉を重ね、この事業展開に必要な予算を確保している」と、挨拶。この事業の主管協会である岐阜県ソフトボール協会・高橋清生理事長は、「私が教員をしていた頃、昔は『今日は予定を変更してソフトボールをやるぞ!』と声をかければ、クラス中が歓声に包まれ、喜ぶ生徒たちの姿が見られたものだった。それが退職間近な頃になると、そんな姿が見られることはなくなり、寂しい限りであった。どうかこの『学校体育ソフトボール』を一つの起爆剤とし、ソフトボールを楽しみ、歓声を上げる生徒たちの姿が戻ってきてほしいと願っている。ソフトボール『復権』のためにも、この研修会が実り多いものとなるよう期待し、そのお手伝いをさせていただきたいと思っている」と、この研修会への期待を口にした。
 この後、講師の紹介、メーカー各社の紹介等が行われ、ともに「ベースボール型」の普及・発展をめざす野球界から、社団法人日本野球機構から中村勝彦氏、中島隆夫氏が、社団法人日本プロ野球選手会から森忠仁氏、加藤諭氏が視察に訪れる等、この研修会への注目度の高さ、期待の大きさを感じさせた。

 この後、研修会は、本格的な研修内容へと入り、(財)日本ソフトボール協会・丸山克俊学校体育プロジェクト委員会副委員長( (財)日本ソフトボール協会指導者副委員長:東京理科大学教授)が、「中学校(1・2年生)体育授業におけるソフトボールの必修化について−その経緯と課題−」と題した「基調講演」(13:40〜14:40)を行った。

 続いて、「シンポジウムT」(14:50〜15:50)として、「中学校(1・2年生)体育授業におけるソフトボールの必修化に伴う(財)日本ソフトボール協会の取り組み」と題し、丸山克俊氏が座長を務め、(財)日本ソフトボール協会・豊嶋芳紀常務理事(総務委員長)、高橋義明理事(指導者委員長)、竹島正隆理事(普及委員長)がシンポジストとなり、シンポジウムが行われた。
 この体育授業におけるソフトボールの必修化に伴い、(財)日本ソフトボール協会の関連専門委員会がどのような活動を行っているかが説明され、研修会参加者から、今後の「学校体育ソフトボール」事業展開に関する質問や各都道府県あるいは市町村教育委員会とどのように連携を図り、具体的に、何を、どのように進めていけばよいかについて、活発な質疑応答、意見交換が行われた。

 次に、「講義T」(16:00〜16:50)が、久保田豊司氏(大阪国際大学教授)を座長に、上條隆氏(群馬大学教授)を講師として、「学校体育ソフトボール授業を楽しく安全に実施するために大切なこと」と題し、講演が行われた。
 ここでは、「学校体育ソフトボール」を授業の中で、楽しく、安全に実施するためには、どんな点に留意していかなければならないかが語られ、発育発達期におけるスポーツの魅力は、自らの力で成功に導くことで、「できた!」という達成感を味わい、「スポーツが好き」になり、生涯にわたってスポーツを好きであり続ける、ということにあることが強調された。
 最後に、スポーツ活動には、つねに「危険性」が内在しており、安全確保は指導に不可欠であり、施設・用具等の点検も含め、どのようにケガの予防と安全管理を行っていくべきかについても、その留意点が語られた。

 続いて、「講義U」(17:00〜17:50)として、竹島正隆氏が座長を務め、丸山克俊氏を講師として、文部科学省「ベースボール型(ソフトボール)指導要項」並びに(財)日本ソフトボール協会「学校体育ソフトボール基本ルール」解説」と題した講演が行われた。
 ここでは、文部科学省の「ベースボール型(ソフトボール)指導要項」は、@体ほぐし運動の趣旨を生かした学習指導の在り方、A体力を高めるための体を動かす意識を持たせる学習指導の在り方、運動の意欲を高めるための学習指導の在り方、以上の3つの視点で、それぞれの種目の特性を生かし、まとめることが求められていることが説明された。@では「自己紹介キャッチボール」(自己紹介をしながら、相手のベースボール型の経験や興味を理解してからキャッチボールを行う)を行うことで、「思いやり」を育て、コミュニケーション能力を高めることを柱とし、Aでは、巧緻性、敏捷性、瞬発力、筋力を高めるために、基本的なボール操作をチームとして行う「キャッチボールコンテスト」の導入。@Aはいずれもバット操作に置き換えても実施可能であることにも触れられ、Bとして、ソフトボールのゲームが楽しむことができるようにする。以上に重点が置かれたものになっていることが解説された。
 「学校体育ソフトボール基本ルール」は、今、実際に小学校・中学校の教育現場に立たれている先生方のご意見・お考えに耳を傾け、現場の声を反映。安全性が高く、指導しやすい、「ヘルメットもマスクもいらないソフトボール」を実現するべく、新たに策定したものであることが説明され、また、そのルールに基づき、安全で、危険性のない用具の開発(柔らかいボール・バットの研究・開発)にも取り組み、メーカー各社の協力・努力により、「学校体育ソフトボール」専用の用具が完成。すでに販売を開始していることも紹介された。

 最後に、「シンポジウムU」(18:00〜19:00)として、高橋義明氏、上條隆氏を座長に、岩撫ァ氏(矢板市立泉小学校校長、牧田義浩氏(越前市武生第二中学校教諭)、吉野傳一氏(関西大倉中学校・高等学校教諭)、保坂哲也氏(群馬県立藤岡中央高等学校教諭)をシンポジストに、「学校体育ソフトボール授業の現状と課題」と題し、シンポジウムが行われた。
 ここでは、実際の教育現場で、ベースボール型(ソフトボール)の指導に際し、どのような悩みがあり、課題があるのか。あるいは、現実的に直面している指導現場における問題点は何なのか等が赤裸々に語られ、熱心な議論・意見交換が行われ、研修会初日のスケジュールを終了した。

 研修会2日目(7月28日/木)は、研修場所を「はしま清流スタジアム」に移しての実技研修でスタート。司会進行を柳田信也氏(東京理科大学助教)が務め、丸山克俊氏、上條隆氏、久保田豊司氏を講師に、まず「演習・協議T」(9:00〜11:30)が行われた。
 ここでは、@「学校体育ソフトボール」授業のための競技場づくりの要点、A「ボールを持たない動き」を授業の中でどう考えるか、B「学校体育ソフトボール」授業における審判法の要点、C運動の意欲を高めるためのベースボール型(ソフトボール)の学習指導の在り方、についての実技研修が行われた。

 昼食を挟み、午後は羽島市民会館・大ホール(体育館)で「演習・協議U」(13:00〜14:20)を実施。午前中に引き続き、柳田信也氏の司会進行、丸山克俊氏、上條隆氏、久保田豊司氏を講師として行った。
 ここでは、「体ほぐしの運動の趣旨を生かしたベースボール型(ソフトボール)の学習指導の在り方」をテーマとし、基本的なボールの操作(捕球・送球)の学習への活用を、実際にボールを使った運動の中で研修。ボールの握り方や送球・捕球の構え、基本動作の指導について確認され、特にここでは、「自己紹介キャッチボール」を実践。1分間の自己紹介(ベースボール型の経験・興味等について話す)を行いながら、次々に相手を変え、コミュニケーションを図っていくことに重点が置かれた研修内容となった。
最後に、各ブロック(北海道・東北、関東、北信越・東海、近畿、中国、四国、九州)に分かれ、体ほぐしの趣旨を生かしたベースボール型(ソフトボール)の学習指導の在り方について、研修参加者が自らの体験・経験から、様々な形でのボールを使ったドリルを披露。その指導のポイントやどのような技能習得に役立つか等を語り合い、確認し合いながら、研修が進められた。

 引き続き、「演習・協議V」(14:30〜15:50)を行い、ここでは、「体力を高めるために体を動かす意識を持たせるベースボール型(ソフトボール)の学習指導の在り方」をテーマとし、各ブロック(北海道・東北、関東、北信越・東海、近畿、中国、四国、九州)に分かれ、「キャッチボールコンテスト」を実施。この「キャッチボールコンテスト」は、見た目以上にハード。短時間で多くの運動量を確保することができ、なおかつ非常に盛り上がるものであった。
 ソフトボールが体育祭やクラスマッチで取り上げられなくなった今、この「キャッチボールコンテスト」がそれに代わり、家庭で「お父さん! 明日、キャッチボールコンテストがあるから、キャッチボールしようよ」といった姿が見られ、学校で「来週、キャッチボールコンテストのクラスマッチがあるから、放課後ちょっと練習しようぜ」等という光景が見られたら……。「キャッチボール環境」を整えることが、ベースボール型(ソフトボール)の普及のために必要不可欠な要素であり、「キャッチボールコンテスト」がその「起爆剤」となることを期待したい。

 続いて、場所を羽島市民会館の会議室に移し、「講義V」(16:00〜16:50)が行われ、座長を上條隆氏が務め、燒リ健氏(佐賀県立鳥栖高等学校・香楠中学校教諭)を講師として、「指導と評価の一体化に向けたベースボール型=ソフトボールの学習指導の在り方(学習指導案作成で留意することを含む)」と題した講演が行われ、最後に、白旗和也氏(国立教育政策研究所教育課程研究センター教育課程調査官、文部科学省スポーツ・青少年局企画体育課教科調査官)が、「中学校(1・2年生)体育授業における『ベースボール型=ソフトボール』の必修化について−文部科学省の基本方針−」と題した「特別講演」(17:00〜18;15)を行った。
 学習指導要領とは、法的拘束力を持つもので、教師が指導すべき「最低基準」であり、すべての教師が指導すべき内容であることが強調され、学習指導要領は概ね10年に一度改訂されており、前回の改定は2008年であり、あと3年ほどすれば、もう次の改訂へ向け、動き出さなくてはならないことが改めて説明された。
 ベースボール型(ソフトボール)は、残念ながら世界的にはほとんど認知されておらず、このような形で採り入れられているのは日本が唯一という状況であるが、日本においては、一昔前のように圧倒的な状態ではないにしろ、これだけ国民の関心・注目を集めているベースボール型を学習指導要領に採り入れないのは、逆に不自然であり、「一度は通らなければいけない道」として、ベースボール型に触れ、親しむ必要があると判断し、学習指導要領に採り入れたとの理由・根拠が明かされ、今回、中学校(1・2年生)体育授業で必修化されたといっても、その成果が見られなければ、当然次の学習指導要領の改訂で見直しの対象となる可能性もあり、「やはりベースボール型(ソフトボール)を採り入れてよかった」といっていただき、豊かなスポーツライフの形成に寄与できるよう、今後の活動に全力を尽くしていく必要があるとして、講演を締めくくった。

 この日は、夕食を兼ね、「情報交換会」(19:00〜20:30)を実施。白旗和也氏も参加し、プロ野球選手会の森忠仁氏、加藤諭氏も交え、意見交換。それぞれの「本音」をざっくばらんにぶつけ合い、議論を重ね、意見を交わし合い、濃密な時間を過ごした。

 研修会最終日(7月29日/金)は、「講義W」(9:00〜10:00)で研修開始。高橋義明氏が座長を務め、栗山利宏氏(ぎふ清流国体推進局総務企画課課長補佐)が「各都道府県における『学校体育ソフトボール伝達講習会』開催に向けての教育委員会等との連携について」と題し、講演。実際に行政に身を置く中で、現時点での教育委員会と(財)日本ソフトボール協会の「温度差」等に触れながらも、現状を傍観するのではなく、まず「自分の都道府県で研修会・伝達講習会を開催してみよう」と積極的な姿勢を持ち、「やってみる」ことが大事で、失敗を恐れず、失敗を糧とし、そこから学んでいくぐらいの姿勢でチャレンジしてほしいと叱咤激励。
 高橋義明座長からも、群馬県、高崎市での教育委員会との連携の成功例が具体的に示され、「図々しいくらいの感じでこちらからどんどん働きかけ、行動に移していくことが大切」と、理屈ではなく、「まず行動する」「実行に移す」ことの重要性が説かれた。

 この後、「各都道府県において『学校体育ソフトボール伝達講習会』を開催するのに大切なこと」をテーマに、ブロック別分科会(10:10〜11:00)を実施。北海道・東北、関東、北信越・東海、近畿、中国、四国、九州のブロックに分かれ、各都道府県の実情・現状報告を踏まえた上で、今回の研修会での収穫、今後の伝達講習会の開催へ向けての課題・問題点等が話し合われ、最後に、「総括・質疑応答」(11:10〜11:50)が行われ、今回の「第1回学校体育ソフトボール全国指導者養成研修会」の全日程を終了した。

 3日間にわたり、「初の試み」として開催された「第1回学校体育ソフトボール全国指導者養成研修会」。文部科学省の後援申請を含め、現状では様々な問題も抱えている。
 また、一般的な認識として、「ソフトボールは従来も選択とはいえ、行ってきている。必修化になったからといって、そんなに騒ぐ必要はないじゃないか」という意見も根強く、新たに研究・開発された「学校体育ソフトボール」の導入に懐疑的な意見があることも事実である。
 ただ、一昔前とは違い、ベースボール型(ソフトボール)を十分に指導できるだけの教員がおらず、放っておいても日々の遊びの中でキャッチボールをし、学校の休み時間や放課後に同級生が集まって、草野球や草ソフトボールに興じていた子どもたちの姿を見つけることすらできないのが「現状」である。
 また、ボール一つあればできるサッカー等とは違い、用具を使用し、ケガの予防や安全性の確保に十分な配慮をしなければならないベースボール型(ソフトボール)においては、今回策定された「学校体育ソフトボール基本ルール」とそのルールに対応して研究・開発が進められた「学校体育ソフトボール」専用用具は、必ずや学校の体育授業での導入に際し、役立つものとなるはずである。
 学習指導要領の改訂は、概ね10年に一度。数年後には、もう次の改訂へ向け、動き出すのである。その意味では、ここ数年が「勝負」であり、この研修会に参加した皆さんが、今度は「講師」として全国各地で大活躍してくれることを期待したい。