平成24年度全国指導者中央研修会が、去る2月10日(日)・11日(月)の両日、東京・大森東急インにおいて開催された。
研修会には、(公財)日本ソフトボール協会指導者委員会をはじめ、全国各都道府県支部協会の指導者委員長、一般参加者を含めた計61名が参加。ソフトボールの普及・振興を図る上で極めて重要な役割を担っている全国の指導者の代表者たちが、ソフトボール指導者として今後どうあるべきかを考え、活発な意見交換を行うと同時に、指導者のより一層の資質向上を図るべく、自己研鑽を重ねた。
また、大きく変動する社会の中で、ソフトボール指導者の現場での課題を洗い出し、現在全国に広く呼びかけている公認指導者資格の取得について、資格取得の意義と、その重要性を再確認。社会から「真に求められる指導者」を養成していくため、今後どのようなことに取り組んでいかなければならないのかを議論し合うとともに、全国の指導者との連帯感を深め、組織的活動による指導体制づくりを推進していけるよう、熱心な研修が行われた。
研修会初日、冒頭では、(公財)日本ソフトボール協会・笹田嘉雄専務理事が挨拶に立ち、「今、日本のスポーツ界では、指導者の選手に対する体罰が騒がれ、大きな問題となっている。これは、現在の日本のスポーツ指導のあり方を問う非常に重要な問題。我々(公財)日本ソフトボール協会としても、スポーツにおける体罰、暴力は絶対にあってはならないと考えているが、ここに集まった全国の指導者の代表者である皆さんには、この機会に、改めて自身の指導法を見つめ直していただきたいと思っている。時代は、選手たちは、日々刻々と変化している。いかなる状況にあっても指導者が選手に体罰を課してはならないし、絶対服従の上下関係、根性論を過剰に強要するような“一昔前の指導”は、現代では通用しないことをもう一度肝に銘じてもらいたい。指導者の一方的な考え方、思い込みでは、選手との信頼関係は築けない。我々(公財)日本ソフトボール協会も、この問題を深く考え、公益財団法人としてしっかりと襟を正し、気を引き締めながら協会の運営にあたっていく。ここに集まった全国の指導者の皆さんも、指導者として最前線に立つ責任の重さを今一度考え、ぜひ我々と同じ覚悟で現場に臨んでほしい」と、現在のスポーツ現場での「問題」を取り上げ、指導者のあり方、果たすべき役割を再確認するよう参加者に求めた。
指導者連絡会議では、(公財)日本ソフトボール協会・竹島正隆指導者委員長が、ソフトボールにおける公認指導者登録数の内訳、指導者委員会の活動状況を報告。配布された資料に基づき、「昨年、10月1日現在、ソフトボールの公認指導者登録数は13,106名に上り、サッカー、水泳、バレーボールに続いて4番目に多い登録数となっている。これは、ここに集まった皆さんが全国各地で日頃リーダーシップを発揮され、公認指導者の養成に尽力、奔走して下さった結果でもあると感じている。指導者委員長として、まずは皆さんのご協力に感謝申し上げたい」と、まず参加者に労いの言葉がかけられ、「先程、笹田専務理事からも話があったが、現在、スポーツ界は指導者の体罰問題が大きく取り上げられている状況にあり、指導者のあり方、指導法、考え方等、あらゆる部分が見直されはじめている。今回の指導者中央研修会では、今後、我々指導者が真に果たすべき役割とは何かを考え、皆さんに現場の声を聞かせていただきながら、より活発な意見交換を行いたいと思っている。指導者中央研修会でよく使われる言葉の中に、“我々指導者は学ぶことをやめたとき、教えることをやめなければならない”とある。今、このような時代に生きているからこそ、指導者は自ら先頭に立ち、最新の情報を取り入れながら、常に学び続けていかなければならない。それぞれが自己研鑽に励むとともに、指導者委員会としてもさらに全国の指導者と連携を図りながら、組織的な活動を推し進めていく必要がある」と、委員会方針を語った。
また、竹島指導者委員長からは、指導者の資格(公認ソフトボール準指導員、公認ソフトボール指導員、公認ソフトボール上級指導員、公認ソフトボールコーチ、公認ソフトボール上級コーチ)と役割について、再度説明が行われるとともに、その他、公認指導者管理システム導入に伴う指導者登録の変更事項、先に述べた指導者の体罰問題に対するJOC(公益財団法人日本オリンピック委員会)からの文書通達「指導者として相応しい行動の指導徹底について」が紹介される等、指導者として周知徹底を図らなければならない事項が、一つひとつ入念に確認された。
この後、研修会では全国各支部で実施されている公認ソフトボール指導者養成講習会等の事例発表が行われ、千葉県ソフトボール協会指導者委員長の丸山克俊氏((公財)日本ソフトボール協会指導者副委員長)が、「関東地区における『公認ソフトボール準指導員養成講習会』の現状と課題」について、富山県ソフトボール協会指導者委員長の富岡智氏が、「富山県における『公認ソフトボール上級指導員養成講習会』の現状と課題」について、岡山県ソフトボール協会指導者委員長の濱川伸一氏が、「岡山県における『義務研修会』の現状と課題」について、それぞれ発表を行った。
関東地区の丸山氏からは、まず、自身が10年間運営事務局を担当し、リーダーシップをとってきた「関東地区・指導者養成講習会」への熱い思いが語られ、これまで関東地区1都7県を対象に、「公認ソフトボール準指導員養成講習会」を、勤務先でもある東京理科大学野田キャンパスを会場として実施し続けてきたこと。そこで得た様々な経験から、@人集め、そして組織運営には「文書処理」が極めて大切である。A組織運営に際しては、人事・会計(財務)が何より重要であり、常に組織のルールに基づいて公明正大に物事を決定し、誠実に遂行しなければならない。B会計処理については、収入と支出を常に明確にし、「領収書」等の証拠書類を可能な限りキチンと残し、必ず監査を受け、理事会・総会等報告すべきところで丁寧に報告しなければならないことが強調された。また、「当たり前のことではあるが、講習会の場では、講師自らが先頭に立ち、受講生に対して常に“手本”を見せることが肝心である。ウィンドミル投法や、守備、バッティング等、プレー面、技術面でのデモンストレーションも当然必要だが、まずは、しっかりとした言動、立ち居振る舞いで受講生に接し、規律ある講習会となるよう、努めなければならない。講師の身なり、服装も重要な要素の一つ。講師がまずビシッと“ユニフォーム姿”で現れるだけでも、その場の雰囲気は引き締まる。そういった細かな部分にも気を配り、講習会をぜひ有意義なものにしてもらいたい」と力説した。
富山県の富岡氏からは、まず「上級指導員の資格と役割」が説明され、「上級指導員とは、地域のソフトボールクラブ等において、年齢や競技レベルに応じた指導にあたるための資格であり、この資格を取得することによって、地域スポーツクラブが実施するソフトボール教室の事業計画や、立案を学ぶこともできる。クラブの指導者の中心的な役割を担う方、市町村エリアにおいてソフトボール競技の指導にあたる方、指導員を養成する立場の方にはぜひ取得してもらいたい」と、資格取得の意義や重要性が具体的に述べられた。また、養成講習会を実施した中での反省点についても言及し、「講習会の日程が3週間(毎週日曜日)にわたるものであったため、県外に住む受講希望者が対応できなかった。毎回朝9時から夕方6時まで講習を詰め込むと、時間的なゆとりがなかった」こと等が課題として挙げられた。そして、その対応策を考えた結果、「3日間連続での講習(宿泊講習)にすれば、県外の受講希望者にも対応できるのではないか」、講師の依頼や受講生の確保についても、「隣県やブロックで協力し合えば、もっとスムーズに講習会を計画、立案できるのではないか」という意見が出され、改善に取り組んでいることが報告された。
岡山県の濱川氏は、これまで岡山県ソフトボール協会指導者委員会が実施してきた事業や、義務研修の内容を紹介。今年度の取り組みとして、岡山県体育協会・スポーツ指導者協議会が主催する指導者研修会(第1回・5月13日/講演:発育期のスポーツ障害 実習:ストレッチとテーピング実習)(第2回・2月3日/講義:子どもの身体活動の意義、場・しかけの重要性 実習:基礎的動きを身につけることの重要性、遊びプログラム)への参加を義務研修に兼ねたことが発表された。今後の取り組みとしては、毎年2月下旬の指導者伝達研修会の中で実施されている講義(救急法、心肺蘇生法・AEDの使用方法を隔年で実施)を、平成25年度から義務研修とすることを予定しており、県内の指導者に対して参加を呼びかけていることが報告された。
各支部の事例発表の後には、全国各ブロック(北海道・東北、関東、北信越、東海、近畿、中国、四国、九州)に分かれての地区別研修会を実施。各都道府県での指導者の活動報告、指導者資格の活用に関して、また、地区別に実施されている指導者養成講習会について、活発な意見交換が行われた。
地区別研修会終了後には、参加者全員が互いの親睦を深めるための情報交換会を開催。全国から集まった指導者たちが、和やかな雰囲気の中、他の都道府県との活動状況の情報収集や意見交換を行い、初日の日程を終了した。
研修会2日目は、2名の講師による講演がそれぞれ行われ、はじめに尾武ウ則氏((公財)日本オリンピック委員会理事・(公財)日本ソフトボール協会副会長)が、「2020東京五輪招致とソフトボール五輪復帰活動 そして世界の動向」をテーマに講演。講演では、まず、2020年東京五輪招致について、その現状が報告され、夏季五輪開催立候補地としては、日本・東京をはじめ、トルコ・イスタンブール、スペイン・マドリードの3都市が名乗りを上げ、招致活動が展開されていること。開催地は、今年の9月7日、アルゼンチン・ブエノスアイレスで開催されるIOC(国際オリンピック委員会)総会で、IOC委員の投票により決定されることがそれぞれ説明された。また、日本・東京の五輪招致の問題点として、日本国内における支持率の低さが懸念されており、今回は東日本大震災からの『復興』を大きなテーマに掲げてはいるものの、海外からは地震、原発問題等、他の不安要素も指摘されていることが説明された。
ソフトボールの五輪復帰活動についても、まずその現状が説明され、「昨年7月、IBAF(国際野球連盟)とISF(国際ソフトボール連盟)が統合し、野球・ソフトボールを一つの競技(男子・野球、女子・ソフトボールを一つの競技とする)として、2020年夏季五輪での復帰をめざすことが発表された。IOCは今年はじめに理事会を開き、昨年のロンドンオリンピックで実施された26競技の中から1競技を削減。その後、プログラム委員会で新加入の候補に挙がっている7競技(野球・ソフトボール、空手、ローラースポーツ、スカッシュ、スポーツクライミング、ウェークボード、武術)を吟味し、5月の理事会で新たに加入する1競技を決定。実施競技は9月の総会で最終決定される」と述べると、「野球・ソフトボールは、連盟を統合させたことにより、他の6競技に比べて立候補が遅れた。ロビー活動でも立ち遅れている状況にあるので、5月のIOC理事会に向けて、早急に行動を起こしていかなければならない」と、競技復帰へ向け、より積極的な行動を起こす必要性が示唆された。
最後に、世界の動向として、昨年11月にアルゼンチン・パラナで開催された「第9回世界男子ジュニアソフトボール選手権大会」について報告。片道30時間を超える過酷な移動、現地での生活環境、食事の違いなど、様々な困難に直面したことが語られるとともに、大会では、選手・スタッフが一丸となって、世界の強豪に挑み、準優勝という結果を勝ち取ったことが、現地で撮影された映像とともに紹介された。
続いて、山下義則((公財)日本ソフトボール協会医事委員長/香川県さぬき市津田診療所所長)より、「スポーツ障害とアイシングの知識・熱中症の予防について」をテーマに講演が行われ、まず、ソフトボールで起こり得る外傷・障害について、具体例を挙げながらその種類、内容が説明された。また、ソフトボール選手が怪我をしやすい、手の指や手首、足首や膝において、実際にどのような怪我が多く起こっているのか。それぞれの部位の骨、間接の構造から、捻挫や骨折、靭帯損傷の例まで、詳細に示され、捻挫や骨折に対する応急処置、救急の固定方法等も、パワーポイントを利用しながら分かりやすく紹介された。
アイシングについては、「まずは、アイシングを行う意味、アイシングの効果を正確に理解してもらいたい。スポーツの現場では、今や運動後のアイシングは当たり前。アイシングは怪我をした部位の慢性的な痛みを和らげるためだけではなく、疲労の蓄積の軽減や、筋肉痛の改善など、運動後のケアとして欠かすことができないものである。昔は、運動中、捻挫したとき等に、よく“湿布を貼れ”といわれたが、これは現在のスポーツ医学的に説明すれば間違った行為。市販の冷湿布等は、実際のところ冷却効果はアイシングに比べて少なく、怪我をした後の応急処置には適していない。また、温湿布も血行促進の薬剤が塗られているため、血行がよくなり、内出血が進行して症状が悪化してしまう。打撲や捻挫等、外傷のない怪我に対して、また筋肉の疲労を軽減させる際は、まず患部をしっかりと“冷やす”ことが重要である。正しい理解のもと、迅速な処置を行ってもらいたい」と、アイシングの効果、必要性を解説し、「運動後の身体のケアに関して、正しい知識を持ち、その対処法を正確に実践することが重要である」と語った。
熱中症の予防に関しても、「まずは熱中症がどのようなものなのか正しく理解しておくことが大切である」と、事前に正しい知識・情報を得ておくことの重要性を説き、「熱中症には、熱失神、熱疲労、熱けいれん、熱射病の4つの症状がある。少しでも、このような症状が見られた場合は、いち早く正しい応急処置を施さなければならない。現代社会では、スポーツ現場においても熱中症による死亡者が増加してきている。現場に立つ指導者の方々には、事前の備えを十分に整え、正しい知識とともに適切な応急処置の方法を習得してもらいたい」と、参加者に呼びかけた。
全国から多くの指導者が集まり、今年度も開催された全国指導者中央研修会。公認指導者“13,106名”を数えるソフトボール指導者に求められる役割は、年々大きく、重要なものになってきている。大きく変動する社会の中で選手を指導する立場にあるからこそ、指導者は常に最新の情報を得ながら、謙虚に、ひたむきに学び続けていかなければならない。組織的な活動においても、今後はさらに具体的な指導体制づくりに着手していかなければならないだろう。「真に社会から求められる指導者」が、このソフトボール界から数多く輩出されることを切に願う。 |