去る9月13日(土)〜15日(月・祝)の3日間、和歌山県紀の川市・橋本市を会場に、「第66回全日本総合女子選手権大会」(第70回国民体育大会・2015紀の国わかやま国体ソフトボール競技リハーサル大会)が開催された。
大会には、推薦出場の日本女子リーグ1部12チーム(昨年度優勝のトヨタ自動車、準優勝のルネサスエレクトロニクス高崎を含む)、各県・各ブロックの厳しい予選を勝ち抜いてきた日本女子リーグ2部所属の9チーム、大学9チーム、クラブチーム2チーム(うち1チームは開催枠で出場)の精鋭32チームが集い、「日本一」の座をかけて激突した。
組み合わせ番号を上から順に、1〜8までをAブロック、9〜16までをBブロック、17〜24をCブロック、25〜32をDブロックとすると(大会トーナメント表はこちら)、前年度優勝のトヨタ自動車が入ったAブロックは、トヨタ自動車が順当に勝ち上がり、初戦のIPU・環太平洋大学戦を鈴木美加の本塁打を含む4本の長打、12安打と打ちまくり、11−1の4回コールド勝ちで「連覇」へ向け、好スタートを切ると、2回戦の日立戦では「絶対的エース」モニカ・アボットが7回ツーアウトまで一人の走者も許さぬパーフェクトピッチング。「あと一人」のところで杉山真里奈にピッチャー強襲安打を許し、大記録達成こそ逃したものの、「強打」が売り物の日立打線を完全に抑え込み、1−0の完封勝利。準々決勝へ駒を進めた。
準々決勝では、初戦で女子リーグ1部のHondaに5回コールド勝ちするなど、今大会の「台風の目」となった靜甲と対戦。山崎早紀の2打席連続ホームラン、ナターシャ・ワトリーのツーランホームランで全得点を挙げる「一発攻勢」で靜甲の「勢い」を止め、4−1の貫禄勝ち。堂々の「横綱相撲」「王者の戦い」でベスト4進出を決めた。
Bブロックでは、リーグでも好調のデンソーが6年ぶりにベスト4進出。初戦のカネボウ化粧品小田原戦では、2部のチーム相手に途中逆転を許す苦しい試合展開。3−2とリードして迎えた7回表にも無死二・三塁の「一打逆転」のピンチを招くなど、四苦八苦。最後は「エース」ジョーリン・ヘンダーソンが三者連続三振に斬って取り、事無きを得たが、とても1部で上位争いを演じているチームとは思えない試合内容に終始した。
これが「良い薬」となったか、続く2回戦は東北福祉大学に5−0、準々決勝では伊予銀行に6−0と圧勝し、準決勝に駒を進めた。
このブロックでは、「1部昇格」に「王手」をかけている大垣ミナモソフトボールクラブが、2回戦で1部の伊予銀行と延長タイブレーカーにもつれ込む熱戦を演じ、3−4で惜しくも敗れはしたが、念願の1部昇格へ向けたチームの「充実」を感じさせ、「存在感」を発揮した。
Cブロックでは、SGホールディングスグループが珍しく!?(といっては失礼か)打線が爆発し、快進撃。日本リーグ1部第8節までチーム打率2割2分のチーム(リーグ10位)が、初戦の平林金属戦では14安打と打ちまくり、14−0の4回コールド勝ち。続く2回戦の山梨学院大学戦もステーシー・ポーターの先頭打者本塁打で先制し、打線に火をつけると、4本の長打を含む10安打と打線が爆発。8−2で圧勝し、準々決勝でもペヤングを相手に、ステーシー・ポーターの2打席連続ホームラン、山科真里奈の2試合連続ホームランなど、効果的な「一発攻勢」で圧倒。11安打・9得点の猛攻で6回コールド勝ち。初のベスト4進出を決めた。
このブロックでは、来年の「第70回国民体育大会・2015紀の国わかやま国体」へ向けて結成されたクラブチーム「和歌山Dreamers」に期待がかかったが、初戦で山梨学院大学に0−7で敗れ、地元の熱い声援に応えることができなかった。
Dブロックでは、「王座奪還」をめざすルネサスエレクトロニクス高崎が、初戦の日本精工戦を6−0、2回戦のシオノギ製薬戦を7−0の5回コールド勝ちと順当に勝ち上がったものの、準々決勝でともに群馬県高崎市に本拠地を置く太陽誘電との「上州対決」「高崎ダービー」が「意地と意地」がぶつかり合う白熱の好ゲームとなり、延長タイブレーカーにもつれ込む「死闘」の末、4−3でルネサスエレクトロニクス高崎が勝利を収め、何とかベスト4進出を決めた。
この試合では、今シーズンの日本リーグを席巻している太陽誘電の「驚異の二刀流」藤田倭が「世界のエース」上野由岐子からレフトスタンドにぶち込む「文句なし」の一発を放ち、敗れはしたものの、「輝き」を見せた。
準決勝、トヨタ自動車対デンソーは、トヨタ自動車・モニカ・アボット、デンソー・ジョーリン・ヘンダーソン「両エース」の投げ合いで3回まで両チーム無得点。4回裏、トヨタ自動車は二死一塁から8番・山下りらが右中間を切り裂くタイムリースリーベースを放ち、待望の先取点を挙げると、続く9番・渡邉華月もしぶとくライト前に運び、貴重な追加点。この回2点を挙げ、試合の主導権を握り、5回裏には5番・長楓]未、6回裏には3番・鈴木美加がタイムリーを放つなど、小刻みに加点。じわじわとリードを広げた。
4点をリードされたデンソーは7回表、四球、内野ゴロで一死二塁とし、二死後、途中出場の6番・狩野香寿美が二遊間を破るタイムリーを放ち、1点を返し、「意地」を見せたが、反撃もここまで。「絶対的エース」モニカ・アボットの14三振を奪う力投もあり、4−1でトヨタ自動車が勝利を収め、決勝進出。「連覇」へ「王手」をかけた。
もう一方のゾーン、SGホールディングスグループ対ルネサスエレクトロニクス高崎の一戦は、ルネサスエレクトロニクス高崎が「エース」上野由岐子の先発を回避。チームの「キャプテン」でもある黒川春華を先発に立てた。
この起用に「燃えた」SGホールディングスグループが、黒川春華の立ち上がりを攻め、先頭打者がピッチャーゴロエラーで出塁すると、次打者が手堅く送り、3番・寺本有希が先制のタイムリー。相手投手自らのミスで生じた「動揺」を見逃すことなく、わずか9球で先制。ここでルネサスエレクトロニクス高崎も「傷口」を最小限に抑えようと、早めの投手交代に出たが、代わった濱村ゆかりが4番・山科真里奈は三振に抑えたものの、5番・駒野まみにライトオーバーのタイムリーツーベースを浴び、2点目を失ってしまった。
2点を追うルネサスエレクトロニクス高崎は、毎回のように走者は出すものの、打線がつながらず、得点に結びつけることができない歯がゆい試合展開が続く。逆に5回表、SGホールディングスグループは死球で出塁した走者を犠打、ワイルドピッチなどで三塁まで進め、二死後、4番・山科真里奈が右中間を破るタイムリーツーベースを放ち、決定的な3点目を挙げた。
SGホールディングスグループの先発・カーヤ・パーナビーは毎回のように走者を背負いながら、粘り強いピッチングで決定打を許さず、ルネサスエレクトロニクス打線を完封。「初」の決勝進出の立役者となった。
「エース」上野由岐子の先発回避は、「油断」や「相手を甘く見た」というよりは、世界選手権決勝トーナメントでの連投、リーグ再開後、下位を低迷するシオノギ製薬、伊予銀行戦でも「スクランブル」的に登板せざるを得ない状況が続き、さらには前日の準々決勝「高崎ダービー」での延長8回に及ぶ「死闘」を完投。できることなら「エース」を温存できれば……といった「チーム事情」、「エース」のコンディションに理由があったように見えるが、いずれにせよ、その「千載一遇の大チャンス」をしっかりとモノにしたSGホールディングスグループの戦いを褒めるべきだろう。
2年連続4度目の優勝をめざすトヨタ自動車と「初」の栄冠をめざすSGホールディングスグループの対戦となった決勝は、トヨタ自動車が3回表、SGホールディングスグループの先発・カーヤ・パーナビーを攻め、この回先頭の9番・渡邉華月が意表を突くセーフティーバントで出塁。1番・ナターシャ・ワトリーがスラップで転がすと、何でもないショートゴロに見えたが、ナターシャ・ワトリーが俊足を飛ばし、一塁・二塁オールセーフ。2番・渥美万奈が手堅く送り、一死二・三塁とチャンスを広げ、このチャンスに3番・鈴木美加が三塁手のグラブをはじく、痛烈な当たりのタイムリーを放ち、二者生還。続く4番・坂元令奈も左中間フェンス直撃のツーベースを放ち、相手守備の中継プレーが乱れる間に一塁走者が一気に生還。この回3点を先制した。
トヨタ自動車は5回表、相手守備の乱れに乗じて2点を追加。6回表には、2本の安打と犠打、盗塁などで一死二・三塁のチャンスを作ると、2番・渥美万奈がキッチリとヒットエンドランを決め、6点目。7回表にも、「キャプテン」としてチームを引っ張る7番・小野真希のタイムリーでダメ押しの1点を追加。7−0と大きくリードを奪った。
守っては、「絶対的エース」モニカ・アボットが7回一死までパーフェクトピッチング。不運な内野安打で大記録達成はまたしても逃してしまったが、後続を空振り三振、ライトフライに打ち取り、「連覇」を達成! 2年連続4度目の優勝を飾った。
敗れたSGホールディングスグループは、ここまでチームの快進撃を支えてきた「エース」カーヤ・パーナビーがトヨタ自動車の「強力打線」につかまり、12安打を浴び、7失点。打線もトヨタ自動車の「絶対的エース」モニカ・アボットにわずか1安打と抑え込まれ、「力投」のエースを援護することができず、決勝で力尽きた。
優勝したトヨタ自動車は選手層の厚さ、戦力の分厚さを感じた。もちろん、「絶対的エース」モニカ・アボットの存在は大きいが、「若き天才打者」長楓]未でさえ、状況によっては送りバントが命じられ、左投手相手となれば容赦なく右打者を代打に送られる。そして、その代わった選手たちが何事もなかったように、「自分の仕事」をしっかりと果たし、まったく遜色なく、あるいは「それ以上」の結果を出すところにトヨタ自動車の「強さ」がある。
次世代を担うスラッガー・長楓]未、売出し中の山下りら、将来を嘱望される選手だけに、もう少しじっくり使ってあげて、育ててあげても……と、思わないではないが、例外なく、その「競争原理」の中で勝ち残り、生き残った者だけがチャンスをつかめるのが、「トヨタ自動車方式」であり、それが「強さ」の源であり、常勝チームを作り、支える「哲学」ともなっている。
SGホールディングスグループは、今までリーグでは、「オーストラリアからの助っ人頼み」の印象が強く、しかも国際的にも超一流の選手を迎えながら、なかなか上位争いに絡むことができない、1部残留できればよい、といった戦い方に不満を覚えることも多かったが、今回の「準優勝」という結果が、チームを変える「きっかけ」となってくれれば……と思う。
「やればできる!」と選手たちが自信を持ち、貪欲に勝利を求め、勝負にこだわる姿勢が出てくれば、潜在的な力は持っているチームだけに、リーグでも上位を狙えるチームになると思うのだが。
ベスト4に終わったデンソーは、やはり増山由梨、永吉理恵の「リーグ最高の1番・2番コンビ」の出来にかかっているところが大きく、ここを封じられてしまうと、チーム全体の「勢い」「元気」までなくなってしまう。
リーグでトヨタ自動車を破り、あるいは互角の勝負を演じたときは、やはりこの二人が攻撃の「起点」となっていた。他チームからすれば、この二人をどう抑え、どう封じるかがカギになってくるし、デンソーとしては、この1番・2番コンビがどれだけ暴れられるかで、リーグの残り試合、決勝トーナメントの行方が見えてきそうだ。
ルネサスエレクトロニクス高崎は、今シーズンは「耐える」ときであり、「辛抱」のときなのかもしれない。
チームを支え続けてきた「エース」上野由岐子が万全のコンディションではなく、しかも、世界選手権、アジア大会など、国際大会も目白押し。そこでも「連覇」「4大会連続の金メダル獲得」を求められ、過酷なスケジュールの中、シーズンを戦っている。
ただ、それだけに「チーム」としての「真価」、「総合力」が問われるシーズンでもあり、「エース」をサポートする、あるいはそれに代わる投手の出現、育成が急務であり、打線の援護にも期待したいところだ。
「上野ありき」の戦い方から脱却し、苦しいときに「上野に頼る」のではなく、上野の存在を「+α」にしていくこと。これは「日本代表」にも言えることであり、いつまでも「スーパーエース」の存在に頼っていては「明るい未来」はやってこない。
ここ数年続いていた「2強対決」、決勝はトヨタ自動車とルネサスエレクトロニクス高崎の対戦という「お決まりの構図」は崩れた。
しかし、本当にそこに割って入るチームが出現したのかといえば、今回の結果をもって、その図式が崩壊した……とまで言及するのは早計だろう。
それでも……何か変わりつつある「予感」はある。この大会がその「序章」となっていくのか、あるいは「2強」がまだまだその時代を謳歌していくのか……。その「答え」が出るのは、もう少し先になりそうだ。
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