2015.2.13
 

 

平成26年度 全国指導者中央研修会




平成26年度 全国指導者中央研修会を開催
委員長報告を行った日ソ協・寺村健人指導者委員長

  研修会には、日ソ協指導者委員会をはじめ、
全国から計70名が参加した



関東地区を代表し「幼児ソフトボール体験教室」の実施など
を発表した初鹿野美則氏



東海地区を代表し「義務研修会・指導者対象講習会実施の実態と課題」を発表した白井雅博氏



四国地区協会を代表し
「高知県における『準指導員養成講習会』の現状と課題」
を発表した濱口恭男氏



事例発表の後には、地区別のブロック研修会を開催。
事例紹介や今後の指導者のあり方、課題について議論し合った



ブロック研修会後には全体での意見交換を実施。
U19男子日本代表を指揮し、国内外で実績を積む
名将・山口義男氏も新任委員長として積極的に発言



研修2日目
「公認スポーツ指導者制度と指導者のあり方について」
をテーマに講演した公益財団法人日本体育協会
スポーツ指導者育成部部長・岡達生氏



「JADAの活動とドーピング防止」について講演した
公益財団法人日本アンチ・ドーピング機構(JADA)
シニアマネージャーの打谷桂子氏



「野球界における指導者の役割について」講演した
公益社団法人全国野球振興会(日本プロ野球OBクラブ)
理事長の八木澤荘六氏



平成26年度 全国指導者中央研修会

 平成26年度全国指導者中央研修会が、去る2月7日(土)・8日(日)の両日、東京・大森東急インにおいて開催された。

 研修会には、(公財)日本ソフトボール協会指導者委員会をはじめ、全国各都道府県支部協会の指導者委員長らおよそ70名が参加。ソフトボールの普及・振興を図る上で重要な役割を担っている全国の指導者の代表者たちが、真に社会的評価が得られる指導者となるべく、連帯感を深めた。また、そのような公認指導者養成ために、同じ目的意識を持つものとして、最新の情報を共有しつつ、意見交換して一層の資質向上に努めた。

 研修会当日、冒頭では主催者を代表して(公財)日本ソフトボール協会・煖エ清生専務理事が挨拶に立ち、オリンピック復帰に向けて行っている活動や現状を報告。そして、「日々変化する社会に生きる我々は、社会の求めに応じて活動できる環境や体制づくりが急務となっており、日本協会も組織改編を行ってきているが、今後は、それに加えて、財政面での大きな見直しが急務の課題となっている。まず、すぐに出来ることとして、会議日数の短縮、開催数の削減や日当の減額等、自分たちの身を削ってはいるものの、それだけでは十分でなく、支部の皆さまにお願いすることもあるかと思う。財政の立て直しをしっかりと行い、オリンピック競技復帰を果たしたあかつきには、その追い風に乗って健全な組織運営をめざしたい。ただ、オリンピック競技復帰がすべての悩みを解決してくれる『特効薬』ではないことを認識しておかなければならない。ソフトボールの未来に光明を見出す『起爆剤』であることは確かだが、それを一過性のものに終わらせず、地に足の着いた組織運営につなげることが大切である。いずれにしても、『身の丈』に合った組織でなければならない」と日本協会の当面の課題を述べ、「また、このような変化の激しい社会的情勢の中で、指導者が担うべき役割は非常に大きなものがあり、指導者なしでの『ソフトボールの普及・発展』は考えられないことである。この2日間の研修会で見聞を深めることはもちろんであるが、大事なのは、これを地元に持ち帰り、支部や関係各所の指導者の方々やチームのメンバーに伝えてもらうことがこの研修会の開催意義であり、研修で学ぶと同時にしっかりとした伝達をお願いしたい」と締めくくった。

 指導者連絡会議では、(公財)日本ソフトボール協会・寺村健人指導者委員長が「まず、スポーツ指導者の基本姿勢として、日本協会では、協会サイトのトップページでの会長からのメッセージとしても呼びかけているように、(公財)日本体育協会の『暴力根絶宣言」は『指導者として絶対に守らなくてはいけないもの』として遵守してほしい。研修会等々、あらゆる機会において、このことについて周知徹底してほしい」と呼びかけた。つづいて、委員長報告として「2014年10月現在の日本体育協会公認スポーツ指導者の登録人数は、数ある競技団体のある中で、12,289人と4番目に多い人数を誇っている。しかし、注目してもらいたいのが、前年比で−1,160人となっていること。これは、1割にあたる人が、指導者資格の更新をしなかったということである。どうしたら、このような現状を打破できるかが課題となっており、指導者資格を有するメリットを生み出し、活用の場を増やす努力をするなど、委員会でも対策を検討している。また、お待たせしている『指導教本』については、現教本をベースにしながら新しい情報を加え、平成28年春の発行を目標に、作業を進めていきたい」と述べた。

 この後、研修会では、全国各支部で実施されている公認ソフトボール指導者養成講習会等の事例発表が行われ、関東地区指導者委員長の初鹿野美則氏(山梨県協会指導者委員長)、東海地区協会指導者委員長の白井雅博氏(愛知県指導者委員長)、四国地区協会を代表して高知協会指導者委員長の濱口恭男氏の3名が発表を行った。

 トップバッターの山梨県・初鹿野氏は、低年齢層のソフトボール人口が減少している山梨県の状況を踏まえ、保育園や幼稚園の園長先生にご理解をいただき、指導者委員と手分けをしてまずはボール遊びから教える「幼児ソフトボール体験教室」を実施したことを報告。また、長年にわたる指導者委員長としての経験をひもときながら、「誰でも初めは新人。右も左もわからないところからはじまり、『分からないときには質問する』という素直で謙虚な姿勢が大切」と、自身の経験も交え、新任委員長に温かいエールを贈った。

 つづいて、愛知県・白井氏は「義務研修会・指導者対象講習会実施の実態と課題」を報告。「就任当初は、財政面で厳しく、義務研修会を行うことができなかったが、やっと、安定して毎年開催できるようになり、開催時期や場所、タイムリーな情報を学ぶことや、その分野で実績を挙げている講師を招いて毎年テーマを替え、内容を工夫し、様々な機会において告知を行い、広く参加を呼びかけている」ことが報告された。また、指導者対象講習会については、中学校からの要望が多く、実施することになった旨も合わせて報告された。

 高知県・濱口氏は「高知県における『準指導員養成講習会』の現状と課題」について発表。若者が少なく、人口減少に悩む高知県で平成26年度に行った「準指導員講習会」について報告。「実技講習においては、初心者を対象としているため、ウォームアップやストレッチ、キャッチボールなどをワークショップ形式で行い、元日本代表、現役日本代表の所属する高知パシフィックウェーブのメンバーがサポートしてくれている。また、高知ソフトボール協会では、日本リーグ所属のチームだけではなく、一般チームの協力も仰ぎ、男女の底辺拡大をめざし、ジュニア層育成のためのソフトボール教室を行い、競技人口の増加を目指している。指導者は、チームや競技人口を増やし、競技としての裾野を広げていくことはもちろん、競技力向上にも大きな影響力を持っていることを考え、協会として指導者の育成に力を入れている」と、協会一丸となって競技人口の減少を食い止め、普及・発展を図るための取り組みを行っていること、そのためにも指導者の存在が重要なカギを握っており、その育成にも力が注がれていることが報告された。

 その後の質疑応答では、それぞれの発表に関して、全国各都道府県の取組みの実情やどのような形で課題解決に向けっているかなど、活発に意見が交わされ、「新たな時代」に即応した指導者育成のあり方が真剣に議論された。

 事例発表の後には、全国各ブロック(北海道・東北、関東、北信越、東海、近畿、中国、四国、九州)に分かれての地区別研修会を実施。地区別に実施されている指導者養成講習会について、また、指導者資格の活用に関して活発な意見交換が行われ、その後の全体での質疑応答では、義務研修会を実施する上での開催時期、実施内容などの注意点を参加者全員と共有するために、積極的に発表する姿がみられ、「指導者資格は大会に出場するために必要なのではなく、ソフトボールを指導するために必要である」という「大前提」が再確認された。研修初日を終え、新たに長崎県協会指導者委員長となった山口義男氏(大村工業高校監督。平成24年、平成26年度男子U19日本代表監督として世界ジュニア選手権で準優勝、第3位の好成績を残し、春の選抜大会、夏のインターハイで連覇を成し遂げた名将)は、「ソフトボールの競技としての価値を高めることも、指導者の重要な役割なのだと改めて感じた。この研修会を受け、地元に帰って日本リーグを誘致する際などにも、『観るスポーツ』として魅力を高めるための会場の設営、小学生や小さい子どもたちに見に来てもらえるような工夫を、何かできないか、真剣に考えたい。特に男子はオリンピック競技でもなく、少子高齢化に伴い競技人口も減少するという厳しい状況にあり、選手たちが高校卒業後の『目的』や『夢』を持てるスポーツにしていかなければ……」と、初めて中央研修会に参加した新任指導者委員長としての新たな目標と意欲を語った。

 地区別研修会終了後には、参加者全員が互いの親睦を深めるための情報交換会を開催。全国から集まった指導者たちが、和やかな雰囲気の中、他の都道府県の指導者たちと活動状況の情報収集や意見交換を行い、初日の日程を終了した。

 研修会2日目は3名の講師による講演が行われ、まずは、公益財団法人日本体育協会スポーツ指導者育成部部長・岡達生氏が「公認スポーツ指導者制度と指導者のあり方について」をテーマに、「スポーツの意義と価値(スポーツの高潔性)」と「日本体育協会における暴力根絶の取り組み」「2014年10月登録現状と義務研修受講率」「指導者マイページ」の4本柱で講演。まず「スポーツとは何でしょうか。『スポーツの意義と価値』を脅かす要因とは何でしょうか」と語りかけ、「スポーツの価値を脅かすのは、スポーツ活動をしている自身。しかし、スポーツの価値を高めていくことができるのも人も同じくスポーツ活動を行っている人であり、スポーツの価値を高めていくためにも、スポーツ指導者は非常に重要な役割を担っている」と述べ、「日本体育協会における暴力根絶の取り組み」として、2013年に日本体育協会が作成した「スポーツ指導者のための倫理ガイドライン」を基に、最新の情報と動向を説明。2014年9月に「日本スポーツ法支援・研究センター」が設立され、暴力行為等の相談窓口となっていることが説明された。
 そして、「一つの案件に対して、事実確認を行うには、非常に時間がかかる。ここにいるみなさんが窓口になる時は、冷静に、公正に、事実関係の調査をしなくてはなりません」と、アドバイス。続いて、「2014年10月登録現状と義務研修受講率」については、全体の1割が指導者資格を更新していないというソフトボールの現状を鑑み、「安全で楽しくスポーツを行うためにも、適切な指導のできる指導者が必要となる中、義務研修を受けない人がいる中では、有資格者は増加していかない」と指摘。そして、パソコンがなくても、「仮パスワード」があればスマートフォンや携帯電話で「指導者マイページ」の利用が可能なこと、登録を行うことで、指導者を必要としている総合型地域スポーツクラブとのマッチングが行われることが説明された。
 質疑応答では、「スポーツ指導者の活用」について質問がされ、「明確な解決方法があるわけではないが、国体参加チームの監督には資格取得を義務付けられたように、指導にあたるものは原則として有資格者であることが望ましく、子どもたちが部活動で専門的な指導を受けられるようになるため、外部指導者の活用についての話し合いがはじまる兆しがある」と、今後の見通しが語られた。

 つづいて、公益財団法人日本アンチ・ドーピング機構(JADA)シニアマネージャーの打谷桂子氏が「JADAの活動とドーピング防止」をテーマに「スポーツとアンチ・ドーピング(アンチ・ドーピング理念)」と「日常生活における注意点(禁止表)」「TUE(治療使用特例)」について講演。
 「スポーツは世界共通の人類の文化であり、その中で『ドーピング』とは、『競技力を高めるために薬物を使用したりそれらの使用を隠したりする行為』である。スポーツの魅力や価値を損わせるものには、人種差別やパワーハラスメント、賭博・八百長、暴力など様々なものがあり、『ドーピング』もその中に含まれる。様々な講習会を行う中で、なかなか答えとして上がってこないが、ドーピングが禁止されている理由としては、『フェアプレイの精神に反する』『健康を害する』『反社会的行為』が挙げられる」と述べ、2015年に2つの項目が新たに追加された10の下記「アンチ・ドーピング規則違反」10項目が説明された。

1.採取した尿や血液に禁止物質が存在すること
2.禁止物質・禁止方法の使用または使用を企てること
3.ドーピング検査を拒否または避けること
4.ドーピング・コントロールを妨害または妨害しようとすること
5.居場所情報関連の義務を果たさないこと
6.正当な理由なく禁止物質・禁止方法を持っていること
7.禁止物質・禁止方法を不正に取引し、入手しようとすること
8.アスリートに対して禁止物質・禁止方法を使用または使用を企てること
9.アンチ・ドーピング違反を手伝い、促し、共謀し、関与すること
10.アンチ・ドーピング規則違反に関与していた人とスポーツの場で関係を持つこと

 「この中で、9と10が2015年に追加されたものであり、8、9、10は選手だけでなく、サポートスタッフも対象となっている。指導者たちはまず、自分自身で正しい知識、必要な知識を持つことはもちろんのこと、陸上競技・ハンマー投げのオリンピック金メダリスト・室伏広治氏が常々公言しているように、『ドーピング検査に選ばれることが誇り』と、アスリートの意識を変えていく必要がある。そして、『日常生活における注意点(禁止表)』としては、『正しい情報を入手する』ことが必要であり、JADAのサイト等を通じて、『Global DRO』で薬の成分に禁止物質が含まれていないかを検索したり、同じ薬でも顆粒か錠剤かで禁止薬物の有無も異なることから、『スポーツファーマシスト』に相談し、アスリートは治療時などに『自分はアスリートである』ことを伝え、また、医薬品だけではなく、表示外のものを含んでいるサプリメントや漢方薬は極力、摂取を控え、規則違反とならないように『身体に摂りいれるものに責任を持つ』ことが求められる」と説明。
 また、JADAのアスリートサイトを利用することで、様々な情報が入手可能であり、自分の行動履歴(『Global DRO』の検索結果やスポーツファーマシストへの質問メールなどの履歴)を残しておくことや、海外での検査においては、検査員にもバラつきがあることから、自分が検査を受けた際には自分が受けた検査の時の状況について「コメントを残すこと」(日本語でも可能)が後で活きてくるなど、「TUE(治療使用特例)」と合わせ、アスリートにとして持つべき「意識」、指導者にとって必須の知識が教示された。

 最後に、公益社団法人全国野球振興会(日本プロ野球OBクラブ)理事長の八木澤荘六氏が「野球界における指導者の役割について」講演。冒頭では、同じくオリンピック復帰を願う仲間として、2020年東京オリンピックでの実施に期待を寄せ、自身の投手としての経験から考える野球とソフトボールのピッチングの特徴・相違点を語った。そして、指導者としての経験を基に、「入れ替わりの激しいプロ野球の世界において、チームづくりの中で大切なことの一つに、『選手のモチベーションを高く保ち続けること』つまり、『心のケア』が挙げられる。また、選手同士が声をかけ合い、信頼関係を築くように、指導者と選手のコミュニケーションはとても大切なものであり、特に、今の子どもには我々の時代と異なり、『叱咤激励』では『叱咤』の段階でダメになってしまい、『激励のみ』の方が良い効果があるように、言葉の使い方に気を付ける必要がある」と語った。また、技術面では、「技術の基本は、『原理原則』であり、その原理原則はひとつである。原理原則に基づく正しい技術を身につけるためには、毎日の反復練習が大切であり、『近道』はない」と述べ、精神面については、「メンタルが弱い選手は、技術の不足に起因していることが多い。技術的な裏付けがないと、自分に自信がもてないからである。強い精神力を持つためには、技術を磨くことが大切である。そのためにも指導者は、『心のケア』をすると同時に、選手の実力に応じた技術指導がとても大切なものとなってくる。一人ひとりが、その日ごとの目的を持ってスポーツ活動に臨めるように、指導者がその方向性を示すことができるよう日々の指導に取り組んでほしい」と温かい語り口でエールを贈った。

 全国から多くの指導者が集まり、今年度も開催された全国指導者中央研修会。変化し続ける時代の中で、公認指導者“12,289名”(平成26年10月1日現在)を数えるソフトボール指導者に求められる役割は、年々大きく、重要なものになってきている。多様な社会の変化に対応し、日本のソフトボールが抱える課題を解決し、未来によりよい礎を残し続けるためにも、指導者の担う役割は大きい。