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「ソフトボールコーチプレミアムサミット2024」開催

開会にあたり、「基調スピーチ」を行う栗山指導者委員長

「パネルディスカッション」に登壇した男子TOP日本代表・江口真史ヘッドコーチ(右)

ワールドカップ「連覇」の輝かしい経歴を誇る男子U18日本代表・田中徹浩ヘッドコーチ

「世界の舞台」で戦った経験を語る女子U18日本代表・佐藤洋介ヘッドコーチ

北京オリンピック金メダリストであり、トヨタ レッドテリアーズをJD.リーグ「連覇」に導いた馬場幸子氏

日本を代表するトップレベルの指導者が集結! 研鑽を積んだ

サッカー界から西川誠大氏が「パネルディスカッション」に招かれた

柔道界からは野瀬英豪氏(左)が招かれ、パリオリンピックの「裏話」まで披露してくれた

バレー界からは松井泰二氏が招かれ、「パネルディスカッション」を熱く盛り上げてくれた

「ソフトボールコーチプレミアムサミット2024」は成功裏に終了! 次なる機会へつなげて……

 去る1月19日(日)、「ソフトボールコーチプレミアムサミット2024」が(公財)日本ソフトボール協会主催で東京・日本青年館ホテルを会場に開催され、JSPO(公益財団法人日本スポーツ協会)公認ソフトボールコーチ3またはコーチ4の有資格者を対象とし、実施された。

 (公財)日本ソフトボール協会では、競技種別のみならず、学生種別や生涯種別においても公認指導者資格の取得・運用を広く制度化し、ソフトボールコーチの資質向上に努めており、一方で、この制度・施策は「資格の取得自体を目的とするものではなく、グッドコーチ育成の一手段となるべきものである」の理念のもと、「取得後の自己研鑽や切磋琢磨によって成長し続けること」を願い、長年指導者委員会で構想を温めてきた「ソフトボールコーチプレミアムサミット2024」を実現するに至った。

 本サミットは、ソフトボールコーチのコーチングスキル向上と情報共有を目的として、ソフトボール男子及び女子U18のスタッフや他競技のトップコーチとのディスカッションを行うことにより、日本のみならず世界のソフトボールの動向・情勢、また、国際大会、「世界の舞台」をめざしていく上での選手育成に必要となる要素・条件、そこで戦う上での戦術・戦略等、「日本代表」チームのビジョン・方向性への共通理解・共通認識を図り、同時に、ソフトボールのみならず他競技の選手育成、指導現場の現状を知ることにより、ソフトボールの置かれている「現状・現実」と向き合い、ソフトボールに「足りないもの」、ソフトボールが「めざすべき場所」を明確にし、ソフトボール競技のさらなる普及、発展に寄与することができるコーチの育成をめざしていこうという趣旨のもと開催された。

 サミット開催に先立ち、(公財)日本ソフトボール協会・栗山利宏指導者委員長が「基調スピーチ」を行い、今回のサミット開催趣旨を改めて説明・確認。併せて、日本ソフトボール協会がめざす「コーチ像」、JSPOが指し示す「グッドコーチ」の在り方について、全員で再確認を行い、本格的な内容に入っていった。

 午前中は、「トップレベルのソフトボールコーチによるパネルディスカッション」が行われ、男子TOP日本代表・江口真史ヘッドコーチ(トヨタ自動車)、男子U18日本代表・田中徹浩ヘッドコーチ(新島学園高校/群馬)、女子U18日本代表・佐藤洋介ヘッドコーチ(花巻南高校/岩手)の各カテゴリーの「日本代表」ヘッドコーチが集結。また、昨シーズンまでJD.リーグ・トヨタ レッドテリアーズの監督としてチームを率い、3シーズンで2度のリーグ優勝「連覇」を成し遂げ、勇退した馬場幸子氏もパネリストに加わり、登壇。デモレーターを(公財)日本ソフトボール協会・鎌田英樹指導者副委員長、ファシリテーターを二瓶雄樹氏(中京大学女子ソフトボール部監督)が務め、「次世代を切り拓くコーチング~育成と強化のシームレスな連携に向けて~」と題し、パネルディスカッションが行われた。

 まず男子TOP日本代表・江口真史ヘッドコーチが、自身が「日本代表」として「世界の舞台」を戦い、現在、TOPチームを率いる立場となって「ワールドカップ」のアジア予選にあたる「アジアカップ」、各大陸予選を勝ち抜いたチームによる「ワールドカップ グループステージ」を戦い、見事「ワールドカップ ファイナルステージ」出場権獲得を果たしたその戦いの軌跡を振り返り、その対戦相手となる世界トップレベルのピッチャーの映像を紹介。MAX140㎞/hを超える「異次元」の球速、切れ味鋭いライズ、ドロップを有するピッチャーを相手にする場合、何の準備もせず「初見」で打席に入ったのでは対応不可能。事前にできる限りの情報収集を行い、対戦するピッチャーがどんな球種を有しているか、その球種ごとに「癖」はないか等を徹底的に研究・分析した上でなければ到底対応できない「現実・現状」があることが説明され、その上で「狙い球」を絞って、それを積極的に狙っていくこと、相手投手の「癖」がわかっているような場合には、試合における「最も効果的な場面」でそれを使えるよう、試合展開等も見ながら「ここぞ!」という場面で、相手投手にその球種を「投げさせるように仕向ける」という「高度な駆け引き」を行っていることも語ってくれた。
 2019年の世界選手権(現・ワールドカップ)では、予選リーグから連戦連勝の快進撃で「無敗」のまま、決勝に進出。延長タイブレークにもつれ込む「死闘」の末に敗れ、優勝こそ逃したものの、「限りなく金メダルに近い銀メダル」と称賛された。その後、「コロナ禍」で2022年に延期され、思うような強化もできないまま臨んだ前回のワールドカップでは、男子TOPカテゴリー「史上初」となる「優勝」「世界一」を期待されたが……「世界一」の座を争う「スーパーラウンド」進出すら叶わず……想定外の7位という「惨敗」に終わった。
 ただ……男子U18日本代表はワールドカップ「連覇」、男子U23日本代表もワールドカップ準優勝、アンダーカテゴリーではしっかりと「結果」を残しており、日本の技術水準は決して世界に引けを取るものではない。今夏開催される「ワールドカップ ファイナルステージ」での「リベンジ」に期待したいところだ。

 続いて、男子U18日本代表のヘッドコーチとしてワールドカップに3回出場。準優勝、優勝、優勝という輝かしい成績を残している田中徹浩氏は、男子のジュニアカテゴリーにおいては、日本に守備、走塁における優位性があり、パワーではかなわないものの、他国に比べて鍛え抜かれた守備で失点を最小限に防ぎ、バントやバスター、スラップや盗塁といった小技を絡めた機動力を駆使した攻めで相手の守備を攪乱し、勝利に結びつけてきた、とこれまでの戦いを振り返った。
 ただ……TOPカテゴリーでは、圧倒的な投手力を持つチームが出現し、徐々に他国の守備も整備され、日本ほどの守備力はなくても、投手力の優位性を活かし、まず打たせない(三振を取る)こと、難しい打球はさばけなくても平凡な当たりを確実にアウトにする守備力さえあれば大きな失点にはつながらないことを挙げ、ジュニアカテゴリーでの戦い方がそのままTOPカテゴリーで通用するわけではない、という「厳しい現実」があることにも言及した。
 確かに、日本のソフトボールが好成績を残すことができているのは、女子においては上野由岐子という「スーパー」な存在がいることに負うところが大きく、そこに後藤希友という左腕が出現してくれたという「事実」がオリンピック金メダル、ワールドカップ優勝という結果をもたらす大きな「要因」となっている。
 男子においても松田光(現・JDリーグ・シオノギ レインボーストークス兵庫監督)と小山玲央(日本体育大学→平林金属)の「二枚看板」がトップコンディションであった2019年に準優勝、「世界の頂点」に近づいたことを考えると、「投手力の優位性」がソフトボール競技においては大きなウエートを占め、世界の舞台で戦うには、日本選手の「スピード」という武器を活かしながら他国のパワーに対抗し、事前の情報収集や分析により、「少しでも有利に戦える状況」を作り出すことができるか否かが大会結果を左右することになる。

 次に、女子U18日本代表・佐藤洋介ヘッドコーチは、自身が都市部→地方、私立→公立と指導の場所を移し、指導した経験に基づきながら、その差異について説明。それぞれの置かれた環境や選手たちの現状をしっかりと見定めながら、その中でどのような指導を行っていけば良いかといった「指導現場での悩み」にも触れながら、それぞれの長所短所、利点や難しさ等があることを「実体験」を交えて語ってくれた。
 また、代表チームにおいては、長い期間活動すること、指導することができないため、それぞれの選手が持っている「武器」「長所」を活かし、チームとして組み合わせて戦うことになり、選手の個性や特徴を把握し、いかにそれを「チーム」として活かすことができるか、反映させることができるかが重要になる、と代表チームならではのチームづくりの難しさを吐露する一方、その意味では、各都道府県における「国体チーム」の編成と共通するところがあるのでは……とも語った。

 最後に、JD.リーグ・トヨタ レッドテリアーズを3年間で二度のリーグ優勝に導いた馬場幸子氏が、そこでの指導における「実例」を紹介。シーズン前、シーズン前半終了時、シーズン終了時に選手一人ひとりと面談し、シーズン前には今シーズンの目標を立案、前半終了時にはその達成度の確認と後半戦に向けた軌道修正、シーズン終了後には1年を総括し、また次のシーズンにつなげていく……といった選手との対話、コミュニケーションをとることの重要性を強調。また、高い技術を身につけるには、その土台となる身体づくり、トレーニングが必要で、こちらについても個々の状況・状態をしっかりと把握した上でパーソナルメニューを立案し、それぞれのレベルアップにつなげていること等が説明され、ソフトボールを通じた社会貢献、地域への還元等にも話が及んだ。

 パネルディスカッションの「ファシリテーター」である二瓶氏が四者それぞれの話のポイントとなる部分を掘り下げ、時には話を広げ、参加者にわかりやすいように嚙み砕き、解説・補足を加えながら進行。参加者からの質疑応答も実施され、その中で、パネリスト全員に共通していたのは「人間性」「人間力」というキーワードであり、世界TOPレベルをめざすには、「人」としての適応力・即応力の高さと柔軟性が求められ、様々な状況に臨機応変に対応でき、なおかつ、自分の状況にかかわらず「チームのために」何ができるかを常に考えられるような選手、資質が必要である、ということが異口同音に語られていた。

 昼食を挟み、午後は「他競技のトップコーチによるパネルディスカッション」を実施。「わたしのコーチング~競技における普遍性と独自性~」と題し、コーディネーターを(公財)日本ソフトボール協会・柳田信也指導者委員が務め、FC東京アカデミー・ヘッドオブコーチの西川誠大氏、淑徳大学柔道部監督で前・柔道全日本女子ジュニアヘッドコーチの野瀬英豪氏、早稲田大学教授で男子バレーボール部監督の松井泰二氏がパネリストとなり、パネルディスカッションが行われた。

 サッカーで育成・指導者養成担当であり、アンダーカテゴリー代表チームのコーチも務める西川誠大氏はJFA(公益財団法人日本サッカー協会)の資格制度について説明。現行制度を国際的にも通用する制度へとしていく取り組みが進められており、必ず段階を踏んだ資格取得が必要であることが説明された。
 また、コーチは常に冷静で客観的な広い視野が必要で、その時々の状況を正確に把握し、選手の意見や見解にしっかりと耳を傾けながら、その状況に応じたコーチング、言葉かけが大切になること、できなかったことや失敗を責めるのではなく、どうすれば改善することができるか、今後のよりよいプレーにつながるかをともに考え、導いていくようなコーチングが必要であると説き、西川氏自身は一つのプレーを「状況把握(観る)」「判断」「実行」の3場面に分け、どこに問題があったのか、「状況把握」ができていなかったのか、「判断」に問題があったのか、それとも「状況把握」にも「判断」にも問題はなかったのに、プレーを「実行」する際の技術的なミスがあったのか、それらを分類・分析し、明確に洗い出すことで、「ミス」や「失敗」で終わらせることなく、「次」につなげていくことができると熱く語った。

 柔道のナショナルチームコーチを務め、強化委員でもある野瀬英豪氏は日本の柔道を取り巻く環境が変わってきており、「金メダル以外は負けと同じ」という「宿命」を背負いながら、現実的にはフランスが日本以上の「柔道大国」に台頭・君臨し、日本のトップレベルの選手がフランスのチームに入り、活動するような状況が起き始めていること、世界中の人が見て理解できる、誰が見てもわかる「柔道」から「JUDO」に変わってきていること等について言及。日本では柔道の技を10、あるいは20教えられれば十分……とされてきた(実際に使う技はそう多くはない)ことが、「JUDO」では100あるといわれる技すべてをキチンと説明し、教えることができなければ「コーチ」とはみなされず、国際的な超難関資格を「AI」に監視されながら取得して初めて「コーチ」として認められる状況にあることが説明された。
 また、パリオリンピックの「裏話」として、阿部詩選手の敗戦について、ともに競い合い、高め合う「ライバル」の存在を作ってあげられなかったこと、「シードが取れないことなどないだろう」「負けることなどないだろう」と阿部詩選手の「強さ」「実力」への「信頼」がいつしか「油断」と「見通しの甘さ」につながり、そのすべてが悪循環となり、あの「結果」につながってしまったと総括。その一方で「連覇」を成し遂げた阿部一二三選手は現在の「JUDO」の流れにいち早く対応し、日本「柔道」本来の綺麗な「一本勝ち」にこだわるだけでなく、「変化技」を取り入れ、一度仕掛けた技が決まらなくても、そこからさらに技を変化させ、「一本」となるような「JUDO」に対応できていたことが「連覇」を達成できた大きな要因となっていたと解説。過去の成功体験があればあるほど、状況の変化に対応・適応することは難しく「自分はこれで勝ってきたのだから」という思いが選手の成長を妨げることにつながってしまうこともあり、過去の自分と今の自分を冷静に客観的に見つめ、変化を恐れず「現状・現実」に適応していくことの大切さを強調。阿部詩選手と同じ階級から48㎏以下級に階級を変更し、かつて誰もいなかった「巴投げ」を得意技として金メダルまで辿り着いた角田夏実選手の例にも触れ、「常識」にとらわれることなく、選手の「可能性」を信じ、ありとあらゆる角度からその「可能性」を検討し、選手の「行くべき道」を導き出していくことを忘れてはならないと自戒の念を込めて語ってくれた。

 バレーボールでU23/ユニバーシアード男子日本代表の監督を務め、日本バレーボール協会公認講師として指導者の養成・育成にも携わり、アンダーカテゴリーの選手育成に力を尽くしてきた松井泰二氏は、自らを「三流」と位置づけ、その上で、「一流」と同じことをやっていたのでは勝てない。他の人がやらないような、思いもしないようなやり方を発想していく必要があると説き、バレーボールだけをやっていたのではダメ。寮生活でバレー部の人間と交流しているだけでは世界が広がらない。アルバイト大いに結構! まったく違った世界に身を置くことで新しい発見があり、社会の仕組みや働いた対価としてお金を得ることの意味を知ること、1100円の時給で1100円分の働きをしていたのでは次の契約はなく、1100円の時給で1300円分の働きをする。200円分の「サービス」を付加することで次の契約に結びつく、と独自の視点と切り口で持論を展開。
 チームスポーツを志向する人が減っている現状を危惧しており、人と会話し、コミュニケーションを図る重要性、ともに何かを追い求め、成し遂げる、チームスポーツならではの達成感をもっともっと伝えていかなければならないと強調。今、男子バレーボールは人気絶頂にあるが、現状では石川祐希、髙橋藍といった「個人」がもてはやされ、そこに人がついているだけで、競技そのものに、スポーツそのものに人気があるわけではない、と現状を分析。それを定着させる努力が今こそ必要である、と熱弁をふるった。

 この後、質疑応答の時間を設け、その中で今回のパネルディスカッションの「テーマ」となった「独自性と普遍性」について質問される場面があり、それに対して松井泰二氏がホワイトボードを持ち出して図解で解説。「独自性」は個々が突出した状態にあり、それを削ぎ落すことによって「普遍的」なものとなり、「普遍性」は安定する。ただ、そのままでは安定はしていても面白いものは生まれず、広がりもない。そこで、そもそも突出していた「独自性」の部分の点と点をつないでいくと、大きな広がりを生む。その「独自性」の点と点を結び、その隙間を埋め、大きな広がりをつくっていくこと。それこそがコーチ、指導者の役割であり、「協会」という組織の役割なのではないか……独自の見解を示し、パネルディスカッションを締めくくった。

 「パネルディスカッション」が熱を帯び、大幅に予定していた時間をオーバーしたため、この後、予定されていた「スモールグループディスカッション」の時間がほとんどなくなってしまうというハプニングもあったが、「初の試み」となった「ソフトボールコーチプレミアムサミット2024」は盛会裏に幕を閉じた。

 今後、この「ソフトボールコーチプレミアムサミット」が継続され、さらに内容をブラッシュアップし、より実り多きものとなり、ソフトボール界を牽引していく「起爆剤」となることを祈念し、期待したい。

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