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東京2020オリンピック「直前企画」
オリンピックにおける「ソフトボール競技」戦いの軌跡
第3回 2000年シドニー・オリンピック(前編:激闘の富士宮、24年ぶりの3位入賞でオリンピック出場権獲得!)

1990年「第7回世界女子選手権大会」「第11回アジア競技大会」以来、2度目のヘッドコーチ就任となった宇津木妙子氏(左端)

海外遠征、強化合宿を繰り返し、チームの強化を進めていった

静岡県富士宮市でシドニー・オリンピックの第1次予選を兼ねた「第9回世界女子選手権大会」を開催!

1998年7月20日、「第9回世界女子選手権大会」が開幕!
(開会式で「選手宣誓」を行う松本直美主将)

「東洋一」のソフトボールスタジアム「静岡県ソフトボール場」でオリンピック出場をかけ、熱戦が繰り広げられた

連日、超満員となったスタンド。その熱い声援が日本の背中を押し、オリンピック出場権を獲得!

シドニー・オリンピック出場権を獲得し、記者会見を行う宇津木妙子ヘッドコーチ。会見場が喜びに溢れた

 1996年11月15日、IOC(国際オリンピック委員会)総会において、当初、「アトランタ・オリンピック限定で実施」とされていたソフトボール競技がシドニー・オリンピックでも継続実施されることが正式決定。関係者は喜びに沸いた。
 アトランタ・オリンピックで惜しくも「4位」に終わり、メダル獲得を逃した日本は、1997年8月16日~18日、愛知県豊田市・トヨタスポーツセンターで代表チームの「第1次選考会」を実施。シドニー・オリンピックへ向けて新たなスタートを切った。
 選考会には、各都道府県支部協会、高体連、大学連等から推薦を受けた68名が参加。厳しい選考を経て、25名が「1次選考」を通過した。
 「第2次選考会」は、11月15日~17日、静岡県天城湯ヶ島町・新天城ドーム(現・静岡県伊豆市・天城ドーム)で実施され、「第1次選考会」を通過した25名とJOC(日本オリンピック委員会)認定の「特別強化指定選手」12名、高校生特別参加選手3名を加えた40名が参加。25名の日本代表候補選手を選出。IOC総会での「吉報」がもたらされたこともあり、選手たちの士気は高まり、「シドニーでは必ずやメダルを!」の機運が高まった。
 同年12月、アトランタ・オリンピックで「コーチ」を務めた宇津木妙子氏(現・日本ソフトボール協会副会長)のヘッドコーチ就任が正式に決定。チームの体制がようやく整い、翌年7月に開催される「第9回世界女子選手権大会」へ向け、強化が本格化。1970年に大阪で開催された「第2回世界女子選手権大会」以来の「日本開催」となる、この「第9回世界女子選手権大会」(静岡県富士宮市で開催)は、シドニー・オリンピックの「第1次予選」を兼ねて実施されることが決定しており、上位4チーム(オリンピックホスト国がその中に含まれた場合には5位まで)にオリンピック出場権が与えられるとあって、この大会に照準を絞り、強化が進められた。

 年明け早々の1月28日、25名の日本代表候補選手は「第3次選考合宿」を兼ね、「ニュージーランド遠征」を実施。ウエリントンで開催された「サニークラシック大会」にA・B2チームを編成し、出場すると、その両チームが「決勝」で対戦するという大きな成果を残した。続いて2月4日~8日、クライストチャーチで開催された「サウスパシフィック大会」ではアメリカ、オーストラリア(2チーム出場)、中国、チャイニーズ・タイペイ、ニュージーランド(2チーム出場)の世界の強豪を相手に奮闘。結果は2勝5敗と「厳しい結果」を突き付けられる形となり、予選リーグ敗退となったが「実戦の場」で「選手選考」が行えたことの意味は大きく、国際試合での適性、海外での環境の変化に対する適応力・対応力等、「世界の舞台」で通用する人材を選び出そうと「実戦」の中でその見極めが行われた。
 この遠征終了後、「第3次選考」の結果が発表され、19名の日本代表候補選手を選出。大会へ向けた強化がさらに本格化し、2月17日~24日、沖縄県北谷町で「第1次国内強化合宿」、3月9日~14日には静岡県天城湯ヶ島町で「第2次国内強化合宿」を実施。海外へも積極的に出向き、3月18日~28日には「オーストラリア遠征」。強豪・オーストラリアに2勝3敗と負け越しはしたものの、ほぼ「互角」の戦いを見せ、世界選手権「本番」への自信を深めた。4月1日~10日、沖縄県北谷町での「第3次国内強化合宿」を挟み、6月1日には大会に臨む17名の代表選手を発表した(第9回世界女子選手権大会出場メンバー・スタッフはこちら)。

 大会に先立ち、6月11日~23日には「最終調整」の場となる「カナダカップ」に出場。予選リーグ6勝1敗、決勝トーナメントでは準決勝で中国に延長の熱戦の末に2-3のサヨナラ負けを喫して3位となったが、確かな手応えをつかみ、「本番」を迎えた。
 7月20日、「第9回世界女子選手権大会」が開幕。大会には17チームが出場し、「グループⅠ」(9チーム)、「グループⅡ」(8チーム)に分かれ、シングルラウンドロビン(1回総当たり)方式の予選リーグを実施。両グループの上位4チームがダブルページシステム(敗者復活戦を含むトーナメント)での決勝トーナメントに進出し、最後まで勝ち残ったチームが「優勝」となる試合方式で覇が競われた。
 日本は、中国、オーストラリア、ニュージーランド、ネザーランド・アンティルス(オランダ領アンティル)、韓国、フィリピン、ベネズエラと同組の「予選リーグ・グループⅡ」に振り分けられ、「開幕戦」でニュージーランドと対戦。高円宮殿下・妃殿下のご臨席を賜る中での試合は斎藤春香(後の2008年、北京オリンピックヘッドコーチとして金メダル獲得/当時は「斎藤」と表記。現在は「齋藤」と表記としている)の本塁打を含む12安打と打線が爆発。10-2と大勝し、開幕戦を勝利で飾った。
 第2戦はネザーランド・アンティルス(オランダ領アンティル)と対戦。宇津木麗華(現・日本代表ヘッドコーチ)のランニングホームランで先制し、先発・髙山樹里の被安打1・奪三振15の力投もあり、3-0の完封勝利。2勝目を挙げた。
 第3戦のフィリピン戦は斎藤春香、宇津木麗華の連打等で初回に先取点を奪い、2回表には3本の本塁打を含む7安打を集中し、大量10点を追加。早々に勝負を決め、12-0の5回コールド勝ちを収めた。
 第4戦のベネズエラ戦は3回まで両チーム無得点で試合が進行、日本は4回表に3安打で1点を先制すると、5回表には宇津木麗華のスリーランが飛び出す等、着々と加点。守っては、先発・伊藤久美子がベネズエラ打線を1安打に抑え込み、7-0の完封勝利を収めた。
 第5戦の韓国戦は緊迫した投手戦となり、初回に山路典子(現・日本代表コーチ)のタイムリーで挙げた1点を先発・石川多映子、伊藤久美子とつなぐ投手リレーで韓国打線を1安打に封じ、「虎の子」の1点を守り切り、1-0の辛勝。5戦全勝でメダル争いの「ライバル」オーストラリアとの「直接対決」を迎えた。
 予選リーグ第6戦、オーストラリア戦はメラニー・ローチ(2001年~2011年、日本リーグ・ミキハウス、レオパレス21(ともに現在は廃部)、佐川急便、ルネサスエレクトロニクス高崎でプレー)、髙山樹里が一歩も譲らぬ投げ合いを展開。0-0で迎えた5回表、力投の髙山樹里がシモンヌ・モローに手痛い「一発」を浴び、先取点を許すと、打線もわずか3安打に抑え込まれ、0-1の完封負け。今大会「初黒星」を喫した。
 予選リーグ最終戦、日本は中国と対戦。中国、日本ともオーストラリアに敗れており、ここまで5勝1敗。「予選リーグ・グループⅡ」2位の座をかけ、激突した。
 日本は先発の藤井由宮子が力投。5安打されながらも要所を締め、無失点で踏ん張り、両チーム無得点のまま、試合は延長戦にもつれ込んだ。
 延長9回表、日本は中国の「エース」王麗紅(1996年~1999年、日本リーグ・日通工(現在は廃部)でプレー)をついにとらえ、斎藤春香が左中間に先制の本塁打。二死後、安打の走者を一塁に置き、「主砲」宇津木麗華が勝負を決めるツーランホームラン! 3点のリードを奪った。
 その裏、力投を続ける藤井由宮子が中国の必死の反撃を三者凡退に抑え、3-0の完封勝利。「予選リーグ・グループⅡ」を6勝1敗の2位で通過。決勝トーナメント進出を決めた。

 決勝トーナメントでは、初戦で「予選リーグ・グループⅠ」を8戦全勝の1位で通過したアメリカ戦と対戦。先発・髙山樹里がアメリカの強力打線に得点を許さず、0-0のまま、延長戦に突入。延長9回表、アメリカはシーラ・ドティが「値千金」の決勝本塁打。日本もその裏、アメリカの「絶対的エース」リサ・フェルナンデス(1998年・1999年の2シーズン、日本リーグ・トヨタ自動車でプレー)に食い下がり、二死三塁と「一打同点」のチャンスを作ったが……「あと一本」が出ず、0-1の完封負け。「王者」アメリカを追い詰めたが、惜しくも敗れ、「敗者復活戦」に回ることになった。
 この試合に勝てば、シドニー・オリンピック出場権獲得が決まる日本は、「予選リーグ・グループⅠ」を6勝2敗の3位で勝ち上がってきたイタリアと対戦。「オリンピック出場権獲得」に燃える日本は、初回、四球の走者を一塁に置き、宇津木麗華、山路典子の連打で先制。2回裏にも、安打で出塁した走者を2つの犠打で二死ながら走者を三塁まで進めると、斎藤春香にタイムリーが飛び出し、2点目を挙げた。
 守っては、先発・藤井由宮子、石川多映子とつなぐ投手リレーでイタリア打線を2安打に抑え込み、2-0の完封。「4位以上」を確定させ、シドニー・オリンピックの出場権を獲得した。
 勢いに乗る日本は続く中国戦も、3回裏、連打と四球で無死満塁とし、宇津木麗華、山路典子の連打で2点を先制。6回裏には斎藤春香がダメ押しの中越ソロ本塁打を放ち、決定的な3点目を奪い、先発・髙山樹里、藤井由宮子の継投で中国打線に最後まで得点を許さず、3-0で快勝。これで3位以上を確定させ、「決勝進出」をかけ、再びアメリカと対戦した。
 地元開催とあって連日超満員の観客が熱狂的な応援で後押し。アトランタ・オリンピック「銀メダル」の中国を二度にわたって破る等、日本の「勢い」は加速するばかり……アメリカとも決勝トーナメントの初戦で延長にもつれ込む熱戦を演じていただけに「第2回大会以来の優勝もあり得る」と、何かを期待させるムードがスタジアムに満ちていた。
 アメリカ戦の先発は伊藤久美子。前年の国際大会でアメリカ戦に好投していた実績を買われてのものだったが……。初回、二死二塁で迎えたアメリカの「主砲」シーラ・ドティへの初球は魅入られたように真ん中へ……。シーラ・ドティのバットが一閃し、打球はセンタースタンドへ。「もしかしたら……」の淡い期待は初回の終了を待たずに吹き飛ばされ、終わってみれば0-4の完敗。日本は3位に終わった。
 しかし、日本は同大会24年ぶりの3位入賞。当初の目的であったシドニー・オリンピックの出場権を手にした。特に予選リーグ中国戦の試合は圧巻。延長9回、常に世界のトップレベルに君臨してきた王麗紅から放った斎藤春香、宇津木麗華の本塁打はまさに「鳥肌モノ」で、世界の「勢力地図」が塗り替えられていく瞬間に立ち会えた「幸せ」を感じた。

 決勝は「大会4連覇」を狙うアメリカと2年後のシドニー・オリンピックでは「ホスト国」となるオーストラリアが激突。オーストラリアが決勝トーナメントのセミファイナルでアメリカを破り、一足先に決勝進出。敗れたアメリカが「敗者復活戦」に回り、日本を破ってオーストラリアの待つ決勝へ進む、といういつもとは逆の図式の決勝となった。
 試合は、アメリカが初回、「エースで4番」文字通りチームの「大黒柱」であるリサ・フェルナンデスの中越本塁打で先制したところで「豪雨」に見舞われ、5時間50分の中断。試合再開は24時28分、日本では通常考えられない「異例」の深夜のゲームとなった。
 試合中断中、テレビ朝日の人気報道番組「ニュースステーション」の久米宏キャスターが、この決勝戦の話題に触れ、生中継で「これから試合が行われるそうです」とコメントしたことで、それを見た多くの視聴者が試合会場に駆けつける……というシーンも見られ、大会関係者、観客総動員でグラウンド整備を行い、「試合再開」にこぎつけることができた。
 試合はその1点のリードを守ったアメリカが1-0の完封勝利を飾り、深夜の決勝を制し、「4連覇」を達成。大会は無事、幕を閉じた。

 この世界選手権を境に、このまま日本と中国の力関係は逆転していくかと思われたが……同年12月7日~16日、タイ・バンコクで開催された「第13回アジア競技大会」では、中国がキッチリと雪辱。一時代を築いた「中国の至宝」王麗紅が「最後の輝き」を放ち、3大会連続の金メダルを獲得し、「アジアの盟主」の座を死守した。

 これらの大会での活躍が認められ、JOC(日本オリンピック委員会)は、ソフトボールを強化指定「Bランク」から「Aランク」へ昇格させることを決定。強化指定「Aランク」は団体競技ではソフトボール、シンクロナイズドスイミング(現在は「アーティスティックスイミング」に改称)、サッカー、野球だけであり、ソフトボールが名実ともに「メダル獲得が有望な種目」として認められた瞬間でもあった(後編へ続く)。

(公財)日本ソフトボール協会 広報
株式会社 日本体育社「JSAソフトボール」編集部 吉田 徹

1998年 第9回世界女子選手権大会 出場メンバー・スタッフ

選手

No. 守備 氏名 所属 背番号
1 投手 藤井由宮子 日立高崎 12
2 伊藤久美子 日立高崎 15
3 石川多映子 日立ソフトウェア 14
4 髙山樹里 日本体育大 18
5 増淵まり子 東京女子体育大 20
6 捕手 山路典子 太陽誘電 25
7 山田美葉 日立高崎 27
8 内野手 斎藤春香 日立ソフトウェア 26
9 伊藤良恵 日立高崎 19
10 松本直美 日立高崎 9
11 田上美和 日立高崎 8
12 宇津木麗華 日立高崎 28
13 安藤美佐子 松下電工 6
14 外野手 小林良美 日立高崎 2
15 原田教子 トヨタ自動車 5
16 小関しおり 日立高崎 23
17 松本智絵 日立高崎 11

※氏名、所属は大会出場当時のもの

スタッフ

No. 役職 氏名 所属
1 団長 土岐栄 日本ソフトボール協会
2 ヘッドコーチ 宇津木妙子 日立高崎
3 コーチ 上田真弓 シオノギ製薬
4 トレーナー 金城充知 日立高崎
5 総務 藤井まり子 日本ソフトボール協会
6 庶務 豊田陽子 日立高崎

※氏名、所属は大会出場当時のもの

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