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ニュース 女子日本代表

USAワールドカップ・
カナダカップを振り返って

USAワールドカップは「宿敵」アメリカの本拠地で「連覇」を達成!

カナダカップは「6連覇」の「偉業」を達成!!

投手陣の「柱」に成長しつつある藤田倭。さらにワンランク上をめざせ!!

日本の「切り札」上野由岐子は「貫禄」のピッチング

「ポスト上野由岐子」と期待される濱村ゆかりは力を出し切れず……

勝股美咲に続く「高校BIG3」の大抜擢はあるか!?

代表に「欠かせぬ存在」となりつつある洲鎌夏子

山本優は「神ってる」活躍。「一つ上」のステージに登ったか!?

「打のレジェンド」山田恵里は「ここぞ!」のときに頼りになる存在

「カナダカップ」で打率・本塁打・打点のすべてチームトップの江口未来子(右)

ケガから復帰の長﨑望未。
競争の激しい外野手のポジション争いに生き残れるか!?

「カナダカップ」で女子GEM2(U16)日本代表選手たちとともに。
「次世代」に「夢」と「憧れ」を持たせ、「伝統」を受け継ぐことも必要だ

Photo by Derek Guscott & Kiyomi Guscott

 去る7月5日(水)~9日(日)、アメリカ・オクラホマシティで開催された「第12回USAワールドカップ」(正式名称:World Cup of Softball Ⅻ/大会結果・出場選手はこちら)、7月11日(火)~17日(月)に参戦した「カナダカップ2017」(大会結果・出場選手はこちら)両大会は、いずれも女子TOP日本代表が優勝。「第12回USAワールドカップ」は昨年に続き、「連覇」を達成。「カナダカップ2017」では、大会「6連覇」という偉業を達成した。

 「第12回USAワールドカップ」(World Cup of Softball Ⅻ)では、予選リーグでアメリカに敗れたものの、2位で最終順位決定戦・決勝に駒を進め、そこで見事にリベンジ。予選リーグ6勝1敗で、そのうち5試合はコールド勝ちという圧倒的な強さを見せ、唯一「宿敵」アメリカに0-5の完封負けを喫したものの、最終順位決定戦(決勝)では、2-1で予選リーグの雪辱を果たし、「連覇」を達成!
 「カナダカップ2017」では、予選リーグ・ファーストラウンドを3戦全勝(3試合連続コールド勝ち)、予選リーグ・セカンドラウンドでも3戦全勝(そのうち2試合がコールド勝ち)のCR1・1位で決勝トーナメントに駒を進め、決勝トーナメントでも初戦のプエルトリコ戦に2-0の完封で勝利を収めると、続くセミファイナルのオーストラリア戦では14-2の大差で3回コールド勝ち。「無敗」のまま、ファイナル(決勝)に進出。ファイナルでも敗者復活戦を勝ち上がってきたオーストラリアを7-1で一蹴。大会「6連覇」を成し遂げ、ここでも「強さ」を見せつけ、予選リーグ・決勝トーナメントを通じて無傷の9連勝。「完全優勝」で大会「6連覇」に花を添えた。

【投手陣】

 投手陣で「存在感」を示したのは藤田倭だ。USAワールドカップでは3試合に登板し、チーム最多の11回2/3を投げ、防御率1.20・奪三振8と安定したピッチングを見せ、カナダカップでは4試合・19イニングを投げ、4勝を挙げ、防御率0.73・奪三振10の力投でワールドカップの「連覇」とカナダカップの「6連覇」に大きく貢献した。
 ただ……欲を言えば、ワールドカップでの「宿敵」アメリカ相手の決勝が、序盤に2点のリードをもらう試合展開となっただけに、最後までリードを保ち、投げ切ってもらいたかった。4回裏、1点を返され、なお一死満塁という「絶体絶命」のピンチを招き、「エース」上野由岐子に後を託さなければならなかったところが唯一の心残り。
 また、あのピンチでどんなピッチングができるかも見てみたいところだった。上野由岐子という「切り札」を持つチームである以上、当然その「最強の手札」を切る場面ではあったのだが、藤田倭が「真のエース」となるためには、乗り越えなければいけない場面であり、そこでのピッチングこそが「真価」を問われる場面だったのだが……。

 「エース」上野由岐子は、両大会で4試合・9回2/3の登板と、限定的な使い方となったが、その中で「格の違い」を見せつけ、自らの投球内容でその「貫禄」を示してくれた。
 ワールドカップの「宿敵」アメリカとの決勝では、4回裏、1点を返され、なお一死満塁の「絶体絶命」のピンチで登板し、空振り三振、ショートライナーでこのピンチを切り抜けると、3回2/3を投げ、打者12人に対し、わずか1安打・6奪三振の「完璧」なピッチングを披露。「敵地」での完全アウェーの雰囲気の中で最少得点差を守り切り、「連覇」を成し遂げる原動力となった。
 逆に言えば、あの場面を任せられるのは「上野由岐子」しかなく、そこに頼らなければならなかった「現実」は、「切り札」を持つチームの優位性を示すと同時に、「ポスト上野由岐子」を待望しながら、未だにそれを実現できずにいるチーム状況を映し出してもいる。

 その「ポスト上野由岐子」を藤田倭とともに期待された濱村ゆかりは、今回の遠征ではその期待を裏切る投球内容に終始した。USAワールドカップでは、予選リーグ1位の座をかけた「宿敵」アメリカとの「全勝対決」で先発に起用されながら3回1/3を投げ、6安打・4失点。初回にツーランホームランを浴び、先制を許すと、打線の援護を待つ前に失点を重ね、降板。カナダカップのセミファイナル・オーストラリア戦でも初回に4点の援護をもらいながら、その裏すぐに2失点。USAワールドカップが2試合・4回1/3を投げ、防御率6.46。カナダカップが4試合・5回1/3を投げ、8安打・3失点で防御率3.93。両大会とも投球イニングを上回る奪三振数(USAワールドカップ・奪三振6、カナダカップ・奪三振6)を記録しているだけに、一つひとつのボールには「光るもの」があることは間違いない。それをどのように配し、どのように使うか……が問われている。

 その他では、岡村奈々がUSAワールドカップで4試合・6回2/3を投げ、フィリピン戦、オーストラリア戦、アメリカJr(U19代表チーム)戦で勝利投手となり、3勝を挙げる活躍を見せた。フィリピン戦が11-1、オーストラリア戦が8-0、アメリカJr戦が5-0と、いずれも大差の試合で勝利投手の権利を得た結果で「巡り合わせ」の幸運も確かにあったが、大会を通じて無失点と、しっかりと与えられた役割を果たしたことは事実だ。また、岡村奈々はカナダカップでも1勝を挙げているが、打者として打率4割・二塁打1本を放ち、打点2を挙げる「新たな一面」も見せている。

 地味ながら、しっかりとその「持ち味」を発揮し、与えられた役割を果たしたのは中野花菜と泉礼花も同様である。
 中野花菜はUSAワールドカップで4試合・8イニングを投げ、防御率1.75。カナダカップも4試合・6回2/3を投げ、防御率1.05の安定した成績を残せば、泉礼花もUSAワールドカップで5試合・6回2/3を投げ、無失点。カナダカップも4試合・9イニングを投げ、防御率0.77と自らの与えられた役割を全うしてみせた。

 ただ、この後、群馬県高崎市で開催が予定されている「2017 JAPAN CUP 国際女子ソフトボール大会in高崎」では、「スーパー高校生」勝股美咲の参戦が予定されており、昨シーズン、日本リーグの「新人賞」を獲得した左腕・田内愛絵里も加わる。
 この「2017 JAPAN CUP 国際女子ソフトボール大会in高崎」を一区切りとして、女子TOP日本代表の人選・チーム編成の「見直し」が行われる予定であり、ここでどんなピッチングを見せるかで「今後」の方向性が決まってくる。

 また、「スーパー高校生」勝股美咲のTOPチームでの活躍を見ると、勝股美咲と並んで「高校BIG3」と称される左腕の後藤希友(東海学園高/愛知)、山内早織(清水ヶ丘高/広島)のTOPチームへの「大抜擢」も期待したくなってしまう。そうなると投手陣の争いは「新たな局面」を迎えることになり、現状に「新風」を吹き込む新世代の「大抜擢」が実現するか否か、そのあたりも注目したいところだ。

【捕手】

 捕手は、ようやく我妻悠香が「落ち着き」を見せてきた。「東アジアカップ」「日米対抗」では何でもないボールを逸らしてしまうような場面も見受けられ、キャッチングの面で不安を感じさせる場面もあったが、今回のUSAワールドカップ、カナダカップでは、そういった場面も少なくなり(USAワールドカップのアメリカとの決勝、4回裏、一死満塁というこの試合最大のピンチでリリーフした上野由岐子のツーストライクと追い込んだ後の3球目がワンバウンドとり、後ろに逸らして「同点か!?」というという場面がありはしたが……。バックネットからの跳ね返りが強く三塁走者は動けず、後続を三振、ショートライナーに抑え、ピンチを脱した)、「司令塔」として冷静なプレーを見せ、しっかりと盗塁を刺す場面等が目立つようになった。
 打撃面でもUSAワールドカップが打率3割8厘・打点4、カナダカップが打率4割7分4厘・打点4と上々の数字を残し、しっかりと「成長の跡」を感じさせるプレーを見せてくれた。

 佐藤みなみは、USAワールドカップの決勝、アメリカ戦に5番・DPで起用されると、その起用に応え、3回表、一死満塁から先制のタイムリーを放ち、二者を迎え入れ、結局、これが決勝点となった。まさに「勝利を決める一打」「優勝を決める一打」を放ち、自らの存在をアピールした。
 佐藤みなみは、「控え捕手」という立場にありながら、「正捕手」として奮闘する若い我妻悠香をフォロー、サポートすると同時に、その「打撃」を買われ、「DP」や「代打」として起用されれば、その起用にしっかりと応えてくれている。それが長らく代表に名を連ね、「必要な戦力」として呼ばれ続ける「秘訣」であり、そうやって「自らの居場所」を創り出しているのである。

 ただ、オリンピックまでを見据えた場合、若い我妻悠香を「一本立ち」させると同時に、ベンチ入りできる人数が限られることを考えれば、所属チームではマスクをかぶることもある洲鎌夏子をキャッチャーで起用するといったことも考えられ、【投手陣】のところで名前を挙げた「高校BIG3」の一人、山内早織も旧NTS(現・女子GEM1(U14)日本代表、女子GEM2(U16)日本代表)では「キャッチャー」として優秀選手に選出されていることもあり、もしTOPチームへの大抜擢が実現するようなことがあれば、そのバッティングを活かした「二刀流」「複数ポジションをこなせるマルチプレーヤー」として育成・強化を進めていくようなケースもあり得る。
 また、経験豊富な佐藤みなみにフォロー、サポートさせるのではなく、今回は代表に選出されながら国際大会出場の機会をつかむことのできなかった「期待の高校生捕手」切石結女と競わせながら互いの成長を促すという、従前とはまた違った強化方針・強化策がとられ、我妻悠香の起用を「本線」としながら、「新たな方向性」も模索していく可能性も考えられる。

【内野手】

 内野手は、今回のUSAワールドカップ、カナダカップでファースト・洲鎌夏子、セカンド・市口侑果、サード・山本優、ショート・渥美万奈のレギュラーポジションが確定した感がある。

 洲鎌夏子は相変わらず打撃好調。USAワールドカップが打率4割9厘・三塁打1本・二塁打1本・打点2と活躍。チームトップの9得点と「チャンスメイク」「還る役割」を担い、カナダカップでは打率3割2分ながら本塁打2本、三塁打1本、二塁打3本で打点13と「還す役割」も果たす等、勝負強さが光り、チームの「得点源」となった。

 市口侑果はUSAワールドカップでは打率1割9分と振るわなかったものの、堅実な守備で貢献。カナダカップでは打率3割7分・本塁打1・打点4と当たりを取り戻し、「及第点」の働きを見せた。

 山本優はUSAワールドカップが5割2分9厘・本塁打1・三塁打1・二塁打1・打点8・得点7の活躍。カナダカップでは打率6割5分・本塁打1・二塁打3・打点9と手のつけられない暴れっぷり。「日米対抗」の逆転サヨナラ満塁ホームラン以来、その「勢い」はとどまるところを知らず、「一つ上」のステージに登った感がある。

 渥美万奈はUSAワールドカップが打率2割1分1厘とやや振るわなかったが、相変わらず粘りとつなぎで打線のアクセントとなり、2番打者としてだけではなく、「つなぎの3番」として、個性的な面々が揃う打線にあって、個々の力を文字通り「打線」としてつなぎ合わせる役割を果たして見せた。
 カナダカップでは打率4割7分8厘と復調。9打点を挙げる活躍で女子TOP日本代表のクリーンナップトリオの一角を担うに十分な数字と結果を残した。

 この確定しつつあるレギュラー争いに割って入る勢いなのが川畑瞳。USAワールドカップで打率4割4分4厘、カナダカップで打率6割6分7厘とハイアベレージを残し、存在感を発揮した。セカンドの守備に関しては、「本職」でないこともあり、市口侑果に「安定感」で一歩譲るところもあるが、外野もこなせるマルチな才能を見せており、今後がますます楽しみになってきた。

 逆に那須千春はUSAワールドカップが打率2割、カナダカップが打率2割8分6厘、両大会とも本塁打0と、得意の「長打力」「一発」が影を潜め、守備・走塁面も含め、課題の方が目立ってしまった。

 また、「2017 JAPAN CUP 国際女子ソフトボール大会in高崎」では、ここまで大会出場のなかった鈴木鮎美がここに加わる。小柄ながらパンチ力のあるバッティングが魅力の選手だが、「本職」のサードのポジションでは山本優が「絶好調」なだけに、どこまで出場機会をつかめるかがまずカギになるだろう。

 さらには、これを脅かす選手たちの「台頭」に期待したいところだが、「東アジアカップ」でGEM4(U23日本代表)に加わり、出場機会を得た奥田茉優希、内藤実穂はその「チャンス」を十分に活かしたとは言い難く、そのGEM4(U23日本代表)で大活躍した倉本美穂はパワー溢れるバッティングは魅力だが、守備・走塁の面でまだまだ課題も多い。同じくその「東アジアカップ」で「スーパー高校生」勝股美咲から2本の長打を放つ等、攻守に「センスの良さ」を感じさせた石川恭子も「TOPチーム」でレギュラー争いを演じるには、現時点では「線の細さ」と「小粒」な印象は否めない。
 「第12回世界女子ジュニア選手権大会」に出場し、準優勝の女子GEM3(U19)日本代表では「キャプテン」を務めた藤本麗が大会を通じて打率5割のアベレージを残し、4盗塁と活躍。打率4割5分8厘・本塁打1・打点9と勝負どころで快打を連発した下山絵理ら、いずれTOPチームに名を連ねるであろう「好選手」はいるが、「今すぐに!」昇格させたいというほどのインパクトはなく、もう少し時間が必要か。
 伝統的に「鉄壁」「世界一」と高い評価を得てきた日本の内野手に、かつてのような「守備だけでお金がとれる」という「名手」が見当たらなくなってきている。日本にとって、やはり「守備」は「生命線」といえるだけに、このあたりは今後の大きな強化のポイントととらえていく必要があり、現状の布陣を脅かし、割って入るような存在が出てこないと、いい意味での「競争」が起こらないと全体的な底上げ、レベルアップにもつながってこない危険性がある。

【外野手】

 外野手では、やはり「ソフトボール界のイチロー」「打の現役進化形レジェンド」山田恵里の存在感が際立つ。「敵地」に乗り込んだUSAワールドカップの初戦、カナダ戦の第1打席でチームに「勇気」と「勢い」を与え、チームの士気を鼓舞する「一発」を放って見せた。「東アジアカップ」でもそうだったが、自他共に認める「チームリーダー」が大会の初戦、しかも初打席でいきなり本塁打を放つことで、チームを「いける!」「やれる!!」とその気にさせた。また、得点以上に相手に与えるインパクトも強烈で、相手からすると「やはり日本は強い」「日本には勝てない」という印象を与えることにもなる。
 USAワールドカップでは、打率3割5分7厘・本塁打1・打点4の数字を残したが、開幕初打席での「一発」、「宿敵」アメリカ戦との決勝での決勝点のキッカケとなる安打等、その「数字」だけでは語れないところに山田恵里の「凄み」がある。
 カナダカップでも打率4割6分7厘・本塁打1・打点2と活躍。こちらには「宿敵」アメリカが出場せず、出場機会も抑え気味ではあったが、「要所」での活躍は「さすが!」の貫禄があった。

 「東アジアカップ」「日米対抗」で大ブレイクを果たした原田のどかは、USAワールドカップで打率4割2分9厘・本塁打2と好調を持続。打点はチームトップの13打点を記録した。カナダカップでも打率4割2分9厘・本塁打2・打点4の活躍を見せ、いまや女子TOP日本代表に「欠かせぬ存在」となっている。
 特に、洲鎌夏子、山本優と組む「クリーンアップトリオ」は強力で、「東アジアカップ」「日米対抗」に続き、この「USAワールドカップ」「カナダカップ」でもチームの「得点源」となり、両大会での「優勝」(「連覇」「6連覇」)に大きく貢献した。

 「東アジアカップ」「日米対抗」でなかなか出場機会に恵まれなかった江口未来子は、この「USAワールドカップ」「カナダカップ」では、「本職」の外野手が3人しか登録されていなかったこともあり、ほぼ「フル出場」。「USAワールドカップ」では打率1割8分8厘と苦しんだが、「カナダカップ」では打率6割8分2厘・本塁打3、打点はチームトップの15打点と大活躍。「最後のチャンス」でしっかりとその「存在感」をアピールした。
 もともとその潜在能力は高く評価されているだけに、出場機会さえ与えられれば、このぐらいの活躍を見せてくれても不思議ではない。「2017 JAPAN CUP 国際女子ソフトボール大会in高崎」では出場選手登録されていないだけに、この「カナダカップ」での活躍がどう評価されるか……で「今後」の行方が左右される。

 外野手は、「2017 JAPAN CUP 国際女子ソフトボール大会in高崎」では、江口未来子が出場選手登録から外れ、「実力者」河野美里、長﨑望未、大工谷真波の3選手が登録される。
 河野美里は2012年、2014年の「世界選手権連覇」に貢献した主力メンバーであり、「2017 JAPAN CUP 国際女子ソフトボール大会in高崎」は地元・高崎での開催とあって、「燃えている」ことは間違いない。昨年の同大会でも「優勝」を決める一発を「宿敵」アメリカから放っている。山田恵里に匹敵するような「独特」の高いバッティング技術を有し、守備力・機動力に富んだ選手であることはもはや言うまでもなく、「実績」「経験」も申し分ない。ただ、「超ハイレベル」な外野手のポジション争いの中で、評価基準となるのは「実力」だけ。また、3年後の東京オリンピックを見据えた場合には、必ずしも築き上げてきたキャリア、経験がアドバンテージにはならず、「将来性」や「可能性」の方に重きが置かれる傾向にある。自らの力で「自分の居場所」を確保できるか否か、注目が集まる。

 長﨑望未も故障による戦線離脱から復帰。「現役進化形レジェンド」山田恵里の「後継者」として期待される立場にあるが、「代表」ではまだそこまでの「結果」を残すことができずにいる。「人気」は抜群でメディアへの露出も多い選手ではあるが、自らの故障による戦線離で「東アジアカップ」に「追加招集」された原田のどかがMVPを獲得する大活躍。「日米対抗」「USAワールドカップ」「カナダカップ」でも好調を持続させ、「クリーンナップトリオ」の一角を担うまでの「実績」を残しており、江口未来子も「カナダカップ」でチームの最高打率、最多本塁打、最多打点の「三冠」に輝く活躍を見せているとあっては、内心穏やかではないはず……。久々の国際試合で「天才」と称されるバッティング技術を発揮し、その「実力」を見せつけることができるか、復帰早々「正念場」を迎えるといっても過言ではない。

 大工谷真波は日本リーグ前半戦、所属チームでも出場がなく、どこまでコンディションを戻しているかがカギとなる。もともと肩、足には定評があり、堅実な守備と勝負強い打撃が魅力の選手。「地元」高崎で「復活」への足掛かりをつかむことができるか、まずはそこに注目したい。

 外野手のポジション争いは超ハイレベル。この中で、いったい誰が生き残るのか、その熾烈な争いはまだまだ続いていきそうな気配だ。

【USAワールドカップ、カナダカップから見えてきたもの】

 USAワールドカップの連覇、カナダカップの6連覇から見えてきたもの……それは「世界一」の座は、日本とアメリカの「一騎打ち」で争われるという変わらぬ図式である。

 USAワールドカップでは、女子TOP日本代表は、予選リーグでアメリカに唯一の黒星をつけられ、0-5と完敗を喫した。「新鋭・左腕」ダニエル・オトゥールの前にわずか1安打に抑え込まれ、完封負け。決勝も勝ったとはいえ、3回表に3安打を集め、2点を奪った他はノーヒット。2試合合計で4安打では手放しで喜べる内容ではなかった。
 もちろん、宇津木麗華ヘッドコーチの選手起用・采配が冴え、決勝でスタメン・DPに起用した佐藤みなみが決勝タイムリーを放ち、1点差に追い上げられた4回裏の一死満塁で「切り札」上野由岐子を投入すれば、打者12人から6奪三振、わずか1安打に封じるピッチングを見せる等、「さすが」という場面もあるにはあったが……。「連覇」を達成したとはいえ、その試合内容については投・打、攻・守両面で精査する必要がある。
 ただ……「敵地」での勝利、優勝にはやはり意味があり、「敵地」に乗り込み、完全アウェーの雰囲気の中、最終的に勝利をモノにし、「優勝」を手にしたことは十分に評価に値するものであり、カナダカップの「優勝」も「宿敵」アメリカの参加がなかったとはいえ、やはり「6連覇」と勝ち続けていることは評価されて然るべきものであるといえよう。

 この「USAワールドカップ」「カナダカップ」では、前述のアメリカ戦以外はほぼ一方的な試合展開で、そのほとんどがコールド勝ちであったことを考えると、かつて日本の前に立ちはだかったオーストラリア、中国。その背後を追走してきたカナダ、チャイニーズ・タイペイらとの差は広がっているといえよう。

 もちろん、各国これから本格的にオリンピックへ向けた強化に本格的に取り組んでくることを考えれば、楽観ばかりもしていられないが、それを視野に入れたとしても、現時点での差が「広がり過ぎている」ように思える。
 現状を見る限り、もともと選手層が厚く、高いチーム力を有していた日米両国が、オリンピック競技から除外されていた期間も何とかその力を保ち、他国はその間、十分な強化を行うだけの予算も時間も確保できず、徐々にチーム力を落としてしまったと考えられる。現状では、あと3年の強化期間では、他の国々が日本、アメリカのレベルにまでチーム力を上げてくることは「至難の業」であると感じる。

 その意味では、日本はオリンピック競技への「復活」が実現する前から、「復活」を「前提」とし、選手強化本部会がいち早く2020年東京オリンピックへ向けた「強化5ヶ年計画」を打ち出し、「ターゲットエイジプロジェクト」(TAP)や「GEMプロジェクト」(ジュニア層の発掘・育成・強化)に着手していたことは「英断」であったといえる。その「英断」があったからこそ、現時点で各国との「差」を広げ、アドバンテージを得ることができているのである。

 では、「宿敵」アメリカの状況はどうか。アメリカは、プロリーグに参加している選手たちが代表チームに参加しておらず、例えば、日本リーグでもプレーしているモニカ・アボットの代表復帰やプロリーグを主戦場としている主立った選手たちの参加が実現すれば、今とはまったく「別のチーム」に生まれ変わる可能性もある。
 2008年の北京オリンピックの後、2012年、2014年の世界選手権では、日本が「連覇」を果たし、「世界一」となっているが、その世界選手権にはモニカ・アボットをはじめ、プロリーグの選手たちの姿はなかった。それを根拠に「日本は世界選手権を連覇したといっても、『真の世界一』ではない」と揶揄する人もいた。

 ただ、モニカ・アボットが復帰し、アメリカが「ベストチーム」で臨んできたとしても、日本が簡単に負けるとは思えない。例えば、1996年のアトランタ、2000年のシドニー、2004年のアテネと3大会連続でオリンピックの金メダルを獲得し、1986年から2010年まで世界選手権で7連覇を達成した「全盛期」のアメリカと比較すると、現状でアメリカが「ベストチーム」を編成したとしても、かつてキラ星のように存在していた「スーパースター」の姿はなく、そこまで「脅威」を感じるチームとはならない可能性が高い。
 現に宇津木麗華ヘッドコーチも「2012年・2014年ともにモニカ・アボットがいたとしても、日本が勝っていた。必ず攻略できたと確信しているし、勝つ自信もあった」と言い切っている。

 特に、2008年の北京オリンピックで日本に敗れて金メダルを逃し、2012年、2014年の世界選手権で「連覇」を許したことに起因するアメリカの「上野由岐子コンプレックス」は深刻で、「上野由岐子のいる日本には勝てない……」という雰囲気がチームに色濃く漂っている。
 全盛時のアメリカには、「上野由岐子がいいピッチャーであることは認めるが、決して『特別な存在』ではない」と言い放ったクリストス・ブストスのような「天下無敵」のスラッガーがいた。また、日本リーグでもプレーしたナターシャ・ワトリーのように、上野由岐子を前にしても一歩も引かずに対峙し、「対等」に渡り合える存在がいた。
 今のアメリカには……そこまでの選手は見当たらないのが実情だ。

 それだけに、日本が考えるべきことは、上野由岐子、山田恵里の「投打の現役進化形レジェンド」に、あと3年の間、現在の力を保たせ、「切り札」たりうる存在であらしめること。同時に、それに続き、それに代わる選手を育て上げること。要は「切り札」を手にしたまま、全体のレベルを引き上げることにより、「敗戦の可能性」を限りなく少なくしていくことである。

 もちろん、今後、各国が目の色変えて強化に取り組んでくるだろう。それでも……現時点でアドバンテージを有しているという「事実」は大きく、要はそれを保ったまま、「その日」(オリンピック)を迎えればいいのである。
 そして……「投打の現役進化形レジェンド」が力を維持したまま、それに匹敵する「ニュースター」が出現すれば「鬼に金棒」である。3年後、金メダルを手にしつつ、「世代交代」も実現させる。それこそが日本が追うべき「理想の姿」なのではないだろうか。

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