コラム第4回 「女性アスリートの活躍」
2021年に開催された東京オリンピックでの日本人アスリートの活躍は記憶に新しいことと思います。そこで今回のコラムでは女性アスリートの活躍について、歴史と今後についてお話しします。
1896年に第1回アテネ大会として近代オリンピックが開催されましたが、古代オリンピックと同様にまだ女性禁制でした。1900年の第2回パリ大会からは女性アスリートの出場が始まり、女性らしいスポーツとしてテニス、ゴルフの2種目が行われました。1926年には国際大会に日本の女性代表選手を送るための組織 「日本女子スポーツ連盟」が日本に設置されました。2年後の1928年、第9回アムステルダム大会から日本人女性アスリートが初出場し、陸上800m走にて人見絹枝選手が日本人女性初の銀メダリストに輝きました。その後1964年の第18回東京大会では7種目、2021年 第32回 東京オリンピックでは33競技174種目(混合含む)に女性アスリートが出場しています。
女性アスリートがオリンピックで平等に活躍するようになったのは、1994年 世界スポーツ会議で採択された「ブライトン宣言」がきっかけで、スポーツのあらゆる分野において男女に平等の機会を求めたこの宣言は、スポーツ界における女性活躍の礎となりました。今回の東京オリンピックでは男性のみの競技が32競技、165種目、女性のみが32競技156種目、男女混合が11競技18種目で行われました。実際に出場した選手は女性が48.8%とほぼ同数になりました。日本の夏季オリンピックメダル獲得数とメダル獲得率の男女比較を(図1)に示します。メダル獲得数は男女それぞれ金・銀・銅メダルの個数を棒グラフに積み上げました。メダル獲得率は日本男女各メダル獲得数を男女各メダル総数で割って算出したものです。いずれも男女混合種目は除いてあります。21世紀になってからのオリンピックで、日本代表女性アスリートの「夏季の金メダル獲得数」や「メダル取得率」は、男性にも引けを取らないことがわかります。
女性スポーツの歴史を振り返ってみると、スポーツにおける男女の差は小さくなってきたようにみえますし、実際に国際的にも活躍は目覚ましいものがあります。しかし、女性スポーツには、依然として解決すべき課題があります。子育て期にある女性アスリートが抱える競技生活と家庭生活を両立する難しさや、コーチやスポーツ組織の役員にも女性の占める割合が低く、女性リーダーとなる女性コーチが増えていない、などです。女性アスリート競技では女性特有の健康障害である ” アスリートの三主徴(Female Athlete Triad) ”すなわち無月経・栄養障害・骨粗鬆症の問題にどう対処していくか、さらには目標とする試合スケジュールに合わせてどのようにパフォーマンスをベストに調整していくかがカギです。思春期から性成熟期の女性アスリートの月経障害と女性ホルモンの関わりについて、さらに、話題の性分化疾患とドーピングについて、その成因・治療・予防について産婦人科医が関わる部分は多くあります。2022年6月に『セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ普及推進宣言』を日本産科婦人科学会が発しました。これは、性と生殖に関する機能と活動過程のすべてにおいて、身体的・精神的・社会的に完全に良好な状態であるために、産婦人科医が研修の充実に努めることなどを指します。女性アスリートの皆さん、そして女性アスリートを支える皆さん、今後も女性アスリートが活躍していくために相談できる産婦人科医がいることを忘れないでください。
図1 日本の夏季オリンピックメダル獲得数・獲得率 男女比較