コラム第5回 「TOKYO2020の女子代表トップチームの障害傾向と腸腰筋を中心とした対策について」
TOKYO2020女子ソフトボール代表チームのメデイカルチェックを行い、身体的特徴と障害の傾向を調べると、怪我よりも末梢神経障害由来の障害が圧倒的に多くみられた。
選手の障害の症状として、疼痛、しびれ感、違和感、脱力感、可動域制限、筋力の低下であった。練習量を繰り返すうちに「脱力感」、「ぬける」、「詰まる」という表現で選手が訴えることが多くみられ、患部は外観上に異常見られなくても動作が出来ないほど強い痛みを訴えることも多くみられた。日常生活でも問題がないことが多いため、今までは原因がわからず、MRI検査でも異常所見を認めないことも多くみられる。
トップチームの治療の実際
アスリートの治療においては、疼痛部位の治療だけでは十分でないことを経験する。アスリートの治療では、どこかに機能障害がおき(原因)、その機能不全を代償しようとして、過剰負荷がかかる部位が発生し、それが痛み(結果)になる。痛み(結果)が改善しても機能不全(原因)が改善されなければ再発することを考えて治療をする必要がある。
Fascia(筋膜)と末梢神経障害について
近年、fascia(筋膜)という概念が提唱され、今まで治療に難渋していた症状、原因がわからなかった疼痛など、筋膜の病態の解明が明らかになった。
TOKYO2020女子ソフトボール代表チーム15名対象として、全身的なメデイカルチェックを基本項目として以下の項目を評価し、(表1)このうち、外傷歴のない、疼痛、しびれ感、違和感であるといった末梢性神経障害の疼痛を訴えた選手を対象とし、訴える主の疼痛部位を上肢群、下肢群に分類し、疼痛部位以外に全身的にどのような運動障害が起きているか検討するとオリンピック派遣登録選手15名の内、のべ16名の選手が上肢に、のべ30名の選手が下肢に末梢神経障害がみられた。
利き側とは、ソフトボールでは投手では投球側、野手ではバッテイング側、メデイカルチェックの結果では、上肢、下肢ともに、すべて症状は、利き側に認められた。
今回、上肢、下肢群ともに圧痛に関しては、同側の腸腰筋に認められた。腸腰筋の圧痛部位は体表面からは、上前腸骨棘の2横指内側で、エコー所見を(図1 写真)に示す。
同部の大腰筋と腸骨の境界のFasciaの滑走不全が共通の所見であり、同部の滑走不全から、他部位への代償に起因する過負荷を招くと考えられた。アスリートには患部だけの治療では再発や不十分であることを経験し、競技パフォーマンスもコンデションが十分でなければ、十分なパフォーマンスにならない。患部は他部位の機能不全の代償の可能性と考え、腸腰筋を中心として、これらの神経障害発生部位の治療を合わせて行っている。これらの治療に関しては、腸腰筋から開始して、障害の近位側から行うことが望ましいと考えている。また、普段からの選手自身によるセルフケアが重要であり、(資料腸腰筋マッサージ①、②)のようなセルフマッサージが大切であると考え、普段のストレッチに腸腰筋のケアを加えることをお勧めします。