「第17回男子ワールドカップ」の戦いを振り返り、総括する
初戦の南アフリカ戦に11-0で大勝した日本だったが…
2戦目のオーストラリア戦に「痛い逆転負け」。
この敗戦から、チームの歯車が狂いはじめる…
第4戦・ベネズエラ戦にも敗れてしまい…
予選ラウンド突破は極めて厳しい状況に
運命のカナダ戦に全力で挑むも、奇跡は起こせなかった
最終日/ブロンズメダルゲームは「ダークホース」
アメリカがアルゼンチンを2-0で破り、3位獲得
ゴールドメダルゲームではカナダとオーストラリアが激突!
″勢いに乗った″ オーストラリアが5-2で勝利し、
2009年以来2度目の「優勝・世界一」に輝いた‼
新型コロナウイルスの影響を受け、他のライバル国より
「チーム編成」「強化の動き出し」が遅れてしまった日本
9月のアジアカップで文句なしの7連覇を飾りはしたが、
実質のところ「チームの本格強化」にはつながらなかった
今大会、日本に感じられた技術的・精神的「準備不足」。
チームのコンセプトが明確にされぬまま…終戦を迎えることに
「実戦不足」も響いて、予想以上の苦戦を強いられた
この経験、悔しさを必ずや ″次″ につなげて!
次代のエース・小山玲央の「復活」を…願う
今回、タイムリー欠乏症に悩まされた日本打線。
現段階では ″泥臭くつないで1点をもぎ取る″
「現実的な道」をいくしかない…
これまで多くの先人が跳ね返されてきた ″世界の壁″ 。
男子日本代表の「レガシー」を受け継ぎ、挑み続けよう!
U23ワールドカップで再び ″世界との距離″ を測りたい
ここから、這い上がろう ‼
このまま終わることなど…できはしない
2022年11月26日(土)~12月4日(日)、ニュージーランド・オークランドにおいて「WBSC第17回男子ソフトボールワールドカップ」が開催され、日本男子ソフトボール悲願の「世界一」をめざす男子TOP日本代表が再び世界の舞台にチャレンジ。文字通り「世界の強豪」と熱戦・激闘を繰り広げた。
大会は出場12チーム(アルゼンチン①、日本②、カナダ③、オーストラリア④、チェコ⑤、ニュージーランド⑥、アメリカ⑦、ベネズエラ⑨、デンマーク⑩、南アフリカ⑪、キューバ⑫、フィリピン㉑ ※○数字は大会開催時の世界ランキング)を世界ランキングに基づき2グループに振り分け、まず1回総当たりの「オープニングラウンド」(予選リーグ)を実施。各グループの上位3チームが「スーパーラウンド」(プレーオフ)へ進み、同じく1回総当たりで対戦し(※ただし、オープニングラウンドで同グループだったチーム同士の対戦は、オープニングラウンドの試合結果が持ち越される)、ラウンド順位を決定。最終日、スーパーラウンド3位・4位がワールドチャンピオンシップ/ブロンズメダルゲーム(3位決定戦)を、スーパーラウンド1位・2位がワールドチャンピオンシップ/ゴールドメダルゲーム(優勝決定戦)を戦うというスケジュールで覇が競われた。
″前回準優勝″ の日本は、まずオープニングラウンド初戦/南アフリカ戦に11-0(4回コールド)で大勝。快調に滑り出したかと思われたが……続く第2戦で「難敵」オーストラリアに延長8回タイブレークの末、5-6と痛い逆転負け。第3戦/デンマーク戦は3-0の完封勝利を収めたものの、 ″絶対に落としてはいけない試合″ だった第4戦/ベネズエラ戦に1-3で「痛恨」の敗戦を喫し、この時点でスーパーラウンド進出は極めて厳しい状況に。それでも奇跡を信じ、スーパーラウンド進出へ勝利が絶対条件とされる中、第5戦/カナダ戦に全力で挑んだが……「優勝候補の一角」カナダに3本の特大ホームランを叩き込まれる等、2-9(5回コールド)と力負け。オープニングラウンドで「まさか」の2勝3敗/4位に終わり、スーパーラウンド進出を逃すこととなってしまった。
スーパーラウンドに進むことができなかった日本は、翌日からスーパーラウンドと並行して行われた7位~12位決定ラウンドへ回り、フィリピン、ニュージーランド、チェコと対戦(※オープニングラウンドで同グループだった南アフリカ、デンマークとの対戦は、オープニングラウンドの試合結果が持ち越された)。残された3日間/3試合は、フィリピンに8-3、ニュージーランドに7-4、チェコに延長10回タイブレークにもつれ込む「死闘」の末、5-4でサヨナラ勝ち。「意地」の3連勝を飾って最終順位 ″7位″ をつかんだが、目標であった世界一へ登り詰めることはできず、悔しさ・無念さが滲む形で今大会の挑戦を終えた。
大会最終日は「ワールドチャンピオンシップ」2試合が行われ、まずブロンズメダルゲーム(3位決定戦)でスーパーラウンド3位・アルゼンチンとスーパーラウンド4位・アメリカが対戦。
0-0と両チーム無得点のまま迎えた5回表、アメリカは4回から登板したアルゼンチンの2番手・ウエムル・マタに対し、この回先頭の9番打者がバットを一閃(フルカウントから ″アウトコースのライズ″ にアジャスト、完璧にとらえた)! センターへ「値千金」のソロホームランを叩き込み、待望の1点を先取すると、一死後、2番打者がショート内野安打、3番打者も二遊間を抜くヒットで続き、一・三塁。4番打者の当たりはセカンドゴロとなり、4-6-3のダブルプレーに仕留められたかと思われたが……打球を処理した二塁手のセカンド送球(グラブトス)をベースカバーに入ったショートが ″まさか″ の落球。この間に三塁走者が本塁を駆け抜け、大きな2点目が追加された。
守っては、今大会アメリカの「左のエース」として「獅子奮迅の働き」をみせるブラッドリー・キルパトリック(※2018年の世界ジュニア選手権にオーストラリア代表として出場。オーストラリア『強力投手陣の一人』として日本の連覇を阻み、歴代最多5度目の優勝を手にした)がアルゼンチン打線相手にも臆することなく真っ向勝負。「13三振」を奪う力投でリードを守り抜き、2-0の完封勝利を収め、2000年第10回大会以来「22年ぶり」となるメダル(ブロンズメダル/第3位)獲得を果たした。
続くゴールドメダルゲーム(優勝決定戦)では、スーパーラウンド1位・カナダとスーパーラウンド2位・オーストラリアが「世界一の座」をかけて激突。
先攻のオーストラリアが初回、カナダの ″ベテランエース″ ショーン・クリアリーに対し、1番打者のセンターフェンス直撃のツーベース、3番・ニック・シェイルズのライト前に落ちるヒット等で一死二・三塁のチャンスを作ると、4番・マーシャル・クロンクがレフトファウルゾーン(フェンス際)へ大きな当たりの犠牲フライを打ち上げ、三塁走者が本塁生還。相手守備の中継が乱れる間に二塁走者も一気に還り、この回2点を先制した。先手を奪ったオーストラリアは3回表にも相手守備の乱れから無死三塁の好機を得ると、2番打者が三遊間を破るタイムリーを放ち、1点を追加。6回表には5回途中から登板したカナダの2番手・ジャスティン・スコフィールドから3番・ニック・シェイルズがセンターへ「豪快」なソロホームラン! さらに二死後、四球、パスボールで得点圏に走者を進め、7番打者も三遊間をしぶとく破るタイムリー!! 優勝をグッと引き寄せる5点目を加えた。
投げては、「19歳の新星」オーストラリア期待の「脅威のサウスポー」ジャック・ベスグローブが ″世界最強の攻撃力を誇る″ と言っても過言ではないカナダ打線の前に仁王立ち。この優勝決定戦の舞台でも「球速130㎞/h超え」を連発し、2点を返されはしたが、被安打4・奪三振10の堂々たる投球内容で完投勝利。最終スコア5-2で見事優勝投手に輝き、オーストラリアに2009年第12回大会以来となる「2度目」の「優勝・世界一」をもたらした。
●「WBSC第17回男子ソフトボールワールドカップ」最終結果はこちら
否めなかった日本の技術的・精神的「準備不足」
″日本代表が弱くなった″ では…… 決してない
前回(2019年第16回大会) ″躍進・復活の準優勝″ を成し遂げた男子TOP日本代表が、今大会「まさか」の7位に終わってしまった。正直なところ、このような結末を誰が予想しただろうか……。
前回大会 ″MVP″ 、同年WBSC(世界野球ソフトボール連盟)ソフトボールディビジョンにおいて年間最優秀選手 ″ベストプレイヤー″ にも輝いた「日本男子ソフトボールの顔」松田光がこのワールドカップを最後に現役引退することを表明していたものの、実力的には衰えを感じさせることなく、「投打二刀流」として健在。同じく前回の世界選手権でその松田光を強力に支え、「日本男子準優勝の原動力」とも評された「次代を担う逸材」小山玲央も、もう一段階成長を遂げ、今回のワールドカップで真にブレイクするはずだった。日本が世界に誇る「強力二枚看板」を持ってすれば、世界一も決して夢ではなかったはずである。
悲願の世界一を狙える千載一遇のチャンスを逃してしまった……。一言で言い表すとこうなるのだが、なぜ、そうなってしまったのか? 男子TOP日本代表の世界における「現在地」を見つめ、「進むべき道」を再考するためにも、我々は今大会を今一度しっかり振り返り、総括しなければならない。
まずポイントとして挙げたいのは、今回のワールドカップに向けた日本の「準備」はどうだったか? ということである。
この点においては、はじめに、新型コロナウイルスの影響で代表選手選考会が当初の4月から7月下旬まで延期され、ライバル国より「チーム編成」「強化の動き出し」が遅れてしまったことが大きかった。選手選考会で男子TOP日本代表(16名)を決定した後、9月のアジアカップ(ワールドカップアジア地区予選)に出場、その後立て続けに日本リーグ後半戦、決勝トーナメントと……選手たちはまさに「休みなく」連戦、連戦……。今回のワールドカップの開催日程(11月26日~12月4日/ニュージーランド・オークランドで開催)がかなり早い段階で決定・発表されていたことを考えると、ワールドカップでの ″優勝・世界一奪取″ を最大の目標に設定した上で、そこからうまく逆算する等、より「フレキシブル」な強化スケジュールの調整、「プランニング」に努める必要があった。ワールドカップ終了直後、「自らのコンディションが悪かったから結果を残せなかった、ではありません……」と選手たちは言葉を絞り出してくれたが、これも選手側の立場になってみれば「スケジュールがタイトだったことや自分たちのコンディション不良(調整不足)を今回の言い訳にしたくない……」という想いの表れであるようにも受け取れた。だとすれば、「本当のところはどうだったのか?」「しっかりとベストコンディションで臨めていたのか?? 」我々は精査しておかなければならない。
技術面においても、男子TOP日本代表を「ワールドカップ使用」のチームに鍛え上げていく「強化期間」を十分に確保できなかったことが響いてしまった。前回(2019年)は6月の本大会前(2月)に、約2週間、ニュージーランド遠征を実施。ニュージーランド、オーストラリアら「世界トップレベル」の強豪と強化試合を重ね、個々のスキルはもちろんのこと、チーム力を高めていくことができた。また、そこで得た収穫・課題を一度日本に持ち帰り、各々が整理し、自らの「課題克服」や「さらなる成長」につなげていく物理的な「時間」もあった。2019年のようにはいかない「現実」をもちろん選手・チームは受け入れていたと思うが、今大会7位に終わってしまったとなれば……ここでも「今回のワールドカップに向け、いかに準備を重ねてきたか?」が問われることになる。こう言っては失礼だが……9月のアジアカップのレベルでは日本代表の ″強化″ にはつながらなかった。ワールドカップ直前のプレ大会/インターナショナル インビテーショナル シリーズも世界のTOP6(世界ランキング1位・アルゼンチン、2位・日本、3位・カナダ、4位・オーストラリア、5位・チェコ、6位・ニュージーランド)が参加したとはいえ、当然各国ワールドカップ本番を見据え、手の内を隠し、 ″本気モード″ では臨んでこなかった。ワールドカップ前に現時点での「真の世界トップレベル」を確認・体感できていなかったこと、そこから今回の「日本の戦い方」(戦術・戦略)を具体的に見出し、チーム全体で「共有」できていなかったこと……悔やまれるところは様々あるが、冷静に、客観的に見て、この「準備不足」が大きく響いてしまったと感じている。
優勝・世界一奪取への「準備不足」は、今大会あらゆる場面で現れていた。
国際舞台における実戦の少なさから、選手起用や采配がなかなか固まらず、チーム全体に「迷い」が生じると……その「迷い」が「不安材料」となり、オープニングラウンド2戦目/オーストラリア戦の「痛い逆転負け」へとつながってしまう。投手陣は松田光&小山玲央の強力二枚看板を前面に押し出していく……ではなく、どこか ″決め手″ に欠ける継投策・分業制に終始。今回の投手陣の柱(エース)はいったい誰だったのか?(松田光だったのか? 小山玲央だったのか? それとも、岡﨑建斗だったのか?? )チームの「コンセプト」「もっとも重要な部分」が明確にならないまま、結局終戦を迎えることとなってしまった。
打線も攻撃スタイルを模索し続けたかのように幾度となく打順変更を余儀なくされ、日本の ″必勝パターン″ (相手の攻略パターン)を確立することができなかった。日本の長所とされる小技や機動力をフル活用して得点を積み重ねていくゲームプランを掲げてはいたのだが、具体的に「誰がどの役割を担うのか?」定まっておらず、 ″この相手ならこう出る″ ″この場面ならこう攻める″ ″こういう展開に持ち込めば、勝てるぞ!″ というような「今回のチームならでは」の「攻めの形」をなかなか体現することができなかったのである。投手陣の起用法についても同じことが言えるが、「このチームでワールドカップをいかに戦うか?」は事前(ワールドカップ本番前)にしっかりと詰めておかなければならなかった。であるなら、これもまた「準備不足だった……」と振り返らざるを得ない。
世界トップレベルの投手と対する上で非常に大きな要素となる「打者の目慣れ」に関しても、「実戦不足」が要因となり、打席で「立ち遅れる」「差し込まれる」光景が目立っていた。世界一線級の投手となれば ″球速130km/h超え″ の快速球は、もはや当たり前。当然ボールのスピードだけでなく、日本国内ではなかなか体感することのできない ″変化量が大きい″ ライズ(浮き上がるような変化球)、ドロップ(落ちる変化球)等への「対応力」も求められることになる。ボールを見極め、空振りを極力減らし、完璧なヒット・ホームランではなくても「食らいつき、確実に打ち返していく」打撃が重要になる中で、まず「バッティング・アイ」(選球眼)が必要不可欠とされるのは言うまでもない。しかし、この「打者の目慣れ」においても日本は一歩出遅れていた感があり、各々が対応できるようになるまで予想以上の「時間」がかかってしまった。「球速120㎞/h後半~135㎞/hのライズ・ドロップにようやく目が慣れてきたと思ったら、大会が終わってしまいました……」男子TOP日本代表の左の大砲・鳥山和也は自身のバッティングをこう振り返っていたが、今回はチーム全体がそのような形に終始してしまった印象がある。日本協会の強化予算が厳しく、今後、海外遠征等の強化事業が縮小・削減されていく中でこれらの「課題」にどう向き合っていくか!? もちろん、選手たち自らがこの経験を糧にそれぞれの場所でもう一段階、二段階、成長しなければならないのだが……日本協会としても「これからの強化策」を再度考え、見つめ直す必要があるだろう。
また、世界の頂点を争う舞台に臨む上で「日本のメンタル」や「戦う姿勢」にも再考すべきところがあった。
これは今大会 ″7位″ に終わり、思うような結果を残せなかったからこそ ″気づけた″ ことかもしれないが……やはり現時点において日本は世界の上位常連国ではなく、これまでも、そしてこれからも「チャレンジャー」であるということだ。
前回大会19年ぶりの準優勝(世界2位)と、苦闘の時代(※世界選手権の舞台で5大会連続5位に終わる等、苦しい時代が続いていた)から一足飛びに躍進を遂げることができたものの、「現実」として、日本男子ソフトボールはまだ一度も世界の頂点へ登り詰めたことがない。前回の世界選手権で見せた日本の快進撃(※前回王者・ニュージーランドを二度撃破する等、決勝戦まで無敗の快進撃を見せた)を思えば、次は必ず世界一! と期待が膨れ上がるのも当然と言えば当然だが、これも「現実」……そう甘いものではなかった。 ″前回準優勝だったから、今回はきっとやってくれる″ ″優勝をつかんでくれるだろう″ そんな周囲の期待・イメージに何となく選手が流されてしまい、 ″普段通りプレーすれば勝てる(上位進出は間違いないだろう)″ と、言わば「現状維持の戦い」に落ち着いてしまっていたのである。思い起こせば……前回の世界選手権・決勝でアルゼンチンに敗れた(※序盤2点を先制しながら、同点に追いつかれ、延長タイブレークへ突入。迎えた延長10回に勝ち越しタイムリーを浴びて2-3の逆転負けを喫した)とき、身体に沸き上がってきたのは「勝てた試合を落としてしまった……」という「悔しさ」しかなかった。日本に帰国し、今大会の躍進はすごかった! 見事だった!! と称賛される一方で、どこか「素直に喜ぶことができなかった」ことを今でもよく思い出す。あえてここで繰り返しておきたいが……世界の頂点に登り詰めるその日まで、我々日本は「チャレンジャー」なのである。現状の壁を打ち破り「超えていく」男子TOP日本代表チームへ、今度こそ生まれ変わろう! 今の自分たちを超えていこうという「メンタル」「姿勢」がなければ、当然成長は望めないし、世界一を競う舞台は今回私たちが身をもって経験したように ″シビア″ なのだから。
いろいろと書き連ねたが、負けたとき、うまくいかなかったときこそ ″次″ に進む「ヒント」が得られると私は思う。今回のワールドカップで日本が何の問題もなく勝ち進み、優勝・世界一を手にしていたら……今後の課題に目を向けることも、その課題と向き合うこともないのかもしれない。
″日本代表が弱くなった″ からワールドカップで結果を残せなかった……ではなく、日本男子ソフトボール「悲願の世界一」という最大の目標に向けて「やるべきことをやってきたか?」を問うべきだ。そして、今大会を戦った選手・スタッフ・関係者の考えや想いを今一度確認し、すり合わせ、「進むべき道」を確かなものにした上で「再出発」しなければならない。
ここから、這い上がろう !!
今回のワールドカップを最後に、これまで「日本男子ソフトボールの顔」「投打の大黒柱」として男子TOP日本代表を牽引してきた松田光(※2013年第13回大会から世界選手権/現・ワールドカップの舞台に5大会連続で出場。2019年第16回大会では、打っては5割4分5厘(首位打者)・3本塁打・13打点(打点王)、投げては4勝0敗・防御率0.46(防御率1位)の大活躍で、チームを2000年第10回大会以来『19年ぶりの準優勝』に導いた)が現役を引退。リーダーのバトンは、「次世代」へ託されることになった。
投手としてそれを受け継ぐのは、やはり「次代のエース」と評されてきた小山玲央だろう。小山玲央にとって今大会のピッチングは ″屈辱的″ なものとなってしまったが、この男の「復活」「さらなる成長」なくして、日本男子ソフトボールの新しい景色は見えてこない。
2016年の世界ジュニア選手権で実に35年ぶりの優勝を成し遂げ、日本男子の希望の光となったとき、また、2019年の世界選手権でMAX135㎞/h(※当時の大会で最速)を叩き出し、あの世界最強・ニュージーランド打線の顔を青ざめさせたときは……まさに ″ニュースター″ と呼ぶにふさわしい姿だった。歩みを進めていく中で、誰しも一度は「壁」にぶち当たるもの。女子TOP日本代表の ″レジェンド″ で ″世界のエース″ と称される上野由岐子も、1999年の世界ジュニア選手権優勝からオリンピック金メダル獲得まで9年、世界選手権制覇に至るまでは13年の月日を要した。 ″世界最速の投手″ アダム・フォーカード(オーストラリア代表)は2005年の世界ジュニア選手権で世界一に輝いた後、わずか4年でTOPカテゴリーの頂点を極めてしまった(※2009年の世界選手権で優勝投手となった)が、その後なかなか勝てなかったというエピソードもある。
新型コロナウイルスの影響や未だかつてないハードスケジュールが自身の「本来の力」を奪い、肝心のワールドカップに向けた「準備」「調整」も困難を極めていたことだろう。だが、 ″真のエース″ をめざすのであれば、いかなる状況も言い訳にはできない。苦しいときこそ頼られるのがエース。たとえ自らの調子が上がってこなくても、試合を作り、ピンチを耐え(凌ぎ)、最後はチームを勝利へと導くのが ″本当の大黒柱″ なのである。
まずは……「やっぱり小山はモノが違う! 本気になったら手がつけられない!! 」とそのポテンシャルを信じた周囲を「再び唸らせる」「圧倒的な凄さ・強さ」を国内で取り戻してほしい。まずもって、「国内には敵がいなかった」「誰も太刀打ちできなかった」あの頃(※日本体育大時に貫禄のインカレ3連覇(※最終学年での代替大会優勝を含めると実質4連覇)! 大学勢初となる全日本総合選手権優勝の偉業も成し遂げ、『無敵』を誇った!! )の領域へ「蘇る」こと。ジュニア時代の「MAXでガンガン押し、力で相手打者をねじ伏せる」原点へ立ち返り、その上で「今の自分のピッチング」を見つめ直してほしいとも思うし、今大会の「経験」「悔しさ」を必ずや ″次″ につなげてもらいたいのだ。
我々としては、小山玲央がもっとも得意とする球種(ライズボール)を「本来の球威・切れ味」でまた見たい。そう、2019年の世界選手権・ニュージーランド戦でMAX135㎞/hを叩き出したときも「ライズボール」だった。 ″力あっての技″ ″スピードあっての緩急″ そんな言葉にもあるように、あの「世界に通用するライズ」を「復活させる」ことが一つカギを握っているのではないだろうか? 自らが自信を持って相手と勝負できる球(実際には、三振が奪えるウイニングショット)を取り戻し、そこからさらに「進化」を遂げた「真に頼れるエース」となって帰ってきてくれることを願っている。
打者においては、松田光の引退により「核となる選手を失った」のが実状だが、U23日本代表の選手たち等「若く、可能性を秘めた才能」は有している。U23ワールドカップ(※2023年にアルゼンチン・パラナで開催予定)が無事開催されれば、そこでまた ″世界との距離″ を測ることができるし、次回のTOPカテゴリーのワールドカップに向けても「さらなる選手層の上積み」「新たなスターの出現」を期待したい。
今大会のTOPチームがそうであったように、現実的には世界の強豪相手に ″打ち勝つ″ (打って打って打ちまくる)というのは難しく……地味でも、格好悪くても、「泥臭くつないで1点をもぎ取る」攻撃スタイルのほうが日本には適していると言えるだろう。ただ、その一方で ″決定打を放つ能力が必要になる″ のも事実であり、「チャンスでいかにあと一本出すか!? 」といった「難題」にも引き続き向き合っていかなければならない。共通して取り組むべきことは、先にもふれた「バッティング・アイ」(選球眼)を個々が磨き、ボールを見極め、「ミスショットをなくしていく」(狙った球を確実に打ち返していく)ということ。たとえボテボテのゴロだろうが、ドン詰まりのポテンヒットだろうが構わない。まずは空振り(もしくは三振)を極力なくし、相手投手に食らいつき、プレッシャーをかけ続けることからもう一度はじめるべきである。
世界の頂点に限りなく近づいた2000年第10回大会(※当時 ″世界の3強″ と評されたニュージーランド、カナダ、アメリカを総ナメし、ファイナルで王者・ニュージーランドと死闘を展開。惜しくも敗れはしたが『歴代最高位』となる『準優勝』の成績を残した)には、「誰もが認めた」日本のエース・西村信紀、主砲・岡本友章といった「投打で絶対的な柱」が存在していた。しかし、今の日本には残念ながらそのような選手が見当たらない。世界の強打者を力で抑え込める投手、また、世界屈指の好投手相手に一振りで勝負を決めることができるような ″規格外の逸材″ が今後出てきてくれるといいのだが……「いない」以上は「現実的な道を進むしかない」というのが本音だ。
「WBSC第17回男子ソフトボールワールドカップ」は最終的にオーストラリアが世界一をさらっていく形となったが、その背景には脈々と受け継がれる「ジュニア世代からの継続した選手強化」がある。オーストラリアは1997年第5回大会~2008年第8回大会まで「世界ジュニア選手権4連覇」、2018年第12回大会ではジュニアカテゴリー「最多5度目の優勝」を成し遂げ、その骨格を担った選手たちがTOPチームにステップアップし、こうして世界トップレベルの舞台で活躍を続けている。
新型コロナウイルスの世界的な広がりが暗い影を落とし、世界のソフトボールも一時ストップすることを余儀なくされていたが……「ジュニアの強化がTOPの成績に直結している」という「世界的な流れ」は続いており、世界の頂点、世界の上位を維持していくのであれば「継続した選手強化を途絶えさせてはならない!」と改めて感じた今大会でもあった。
現在の日本男子ソフトボールにおけるU18 → U23 → TOPという強化システム(選手強化の流れ)をより強固なものとするべく、これまでの「歴史」「伝統」をつないでいくこと、そして、世界の舞台で得た「経験」を肉付けし、上積みしていくことが重要になってくる。ジュニアカテゴリーで三度世界を制し、上位常連とされる日本が ″TOPで勝てていない″ (なかなか上位に食い込むことができない)のはなぜか? その壁を超えるために、何をしなければならないのか?? 大会を戦った選手たちだけでなく、協会・関係者も一丸となって具体的に動き出さなければ……未来は厳しいものとなってしまう。
今になっても忘れることができないが……2015年第14回世界男子選手権大会で日本が ″4大会連続5位″ に終わったとき、キャプテン・松岡真央(※当時の日本男子『現役最強打者』であり、守備でも『内野の要』としてチームを牽引。『熱く、信頼あるキャラクター』で、2013年第13回大会から2大会連続で日本代表のキャプテンを務めた)はチーム全員の前で「大粒の悔し涙」を流した。
日本がもう一度立ち返るべきところは、そこ(その涙に現れていた心からの悔しさ、そして日本を背負う想い)ではないかと私自身思っている。今大会の成績を、この悔しさを各々がどこまで噛みしめ、這い上がっていけるか!? 「日本男子ソフトボールの未来のために、必ず這い上がってみせる!」そんな「心意気」がまずもってなければ……男子TOP日本代表として世界と戦う資格はないだろう。
″誰も知らないから″ ″誰にも注目されていないから″ では未来はない。プレー(技術)を追求し、戦術・戦略を見直すことももちろん必要であるが、その前に「もっと大切なこと」「見直すべきこと」があるのではないだろうか?? 日本を背負い、世界と戦うということの「重み」、その「意味」や「大きさ」をもう一度考え、今大会を戦った「自分たち自ら」に問いかけてもらいたい。
男子日本代表の「レガシー」を受け継ぎ「今、このときを超えていく」ために、チャレンジすることをやめてはいけない。そして何より、勝たなければならない!!
いずれにしても、 ″ワールドカップ7位″ のままでは終われない。
終わってしまうことなど……できないのだ。
●文・写真
男子TOP日本代表チーム
選手団広報/竹﨑 治(日本体育社)
No. | 守備 | 氏名 | 所属 |
---|---|---|---|
1 | 投手 | 岡﨑 建斗 | 大阪桃次郎 |
2 | 〃 | 河野 拓郎 | 三重ヴェルデウィン |
3 | 〃 | 小山 玲央 | 平林金属男子ソフトボールクラブ |
4 | 〃 | 松田 光 | 平林金属男子ソフトボールクラブ |
5 | 〃 | 山脇 佑也 | デンソー |
6 | 捕手 | 片岡 大洋 | 高知パシフィックウェーブ |
7 | 〃 | 北澤 慶介 | 埼玉県庁クラブ |
8 | 内野手 | 宇根 良祐 | 大阪桃次郎 |
9 | 〃 | 坂田 大士 | Honda |
10 | 〃 | 櫻庭 佑輔 | 三重ヴェルデウィン |
11 | 〃 | 鳥山 和也 | 平林金属男子ソフトボールクラブ |
12 | 〃 | 八角 光太郎 | 平林金属男子ソフトボールクラブ |
13 | 外野手 | 川田 直諒 | 旭化成 |
14 | 〃 | 黒岩 誠亥 | トヨタ自動車 |
15 | 〃 | 浜本 悌 | 平林金属男子ソフトボールクラブ |
16 | 〃 | 森田 裕介 | 豊田自動織機 |
No. | 役職 | 氏名 | 所属 |
---|---|---|---|
1 | ヘッドコーチ | 吉村 啓 | 平林金属男子ソフトボールクラブ |
2 | アシスタントコーチ | 江口 真史 | トヨタ自動車 |
3 | アシスタントコーチ | 照井 賢吾 | 高崎市役所 |
4 | マネージャー | 三村 奈弓 | Honda |
5 | トレーナー | 村上 純一 | デンソー |
6 | アナリスト | 新井 千浩 | 日本ソフトボール協会 |